【税理士試験】今年の財務諸表論はどうだった? 加茂川悠介先生が予想するボーダーラインと学習アドバイス


加茂川悠介(税理士)

【編集部より】
2023年8月8日(火)〜10日(木)の3日間にわたり、令和5年度(第73回)税理士試験が実施されました。会計科目の受験資格が撤廃されてはじめての試験であり、本年度の受験申込者数は前年に比べ、簿記論が約23%増、財務諸表論が約28%増、全科目合計でも約14%増となりました。なお、本年度の合格発表は2023年11月30日(木)に予定されています。
そこで、本企画では、「簿記論」・「財務諸表論」・「法人税法」・「相続税法」・「消費税法」について、各科目に精通した実務家・講師の方々に本試験の分析と今後の学習アドバイスをご執筆いただきました(掲載順不同)。ぜひ参考にしてください!

どのくらい得点できたか確認しよう!

本試験、お疲れさまでした。今年は特に暑い日が続いていますから、猛暑の中、試験会場まで足を運んで、本試験2時間しっかりと集中するだけでもかなり疲れたかと思います。お仕事や学校等でお忙しい方もいらっしゃるかと思いますが、お盆休みなどを利用しながら体を休めてあげてほしいと思います。

その一方で多くの専門学校で税理士講座が開講するように、8月や9月は来年度の本試験に向けて勉強をスタートする時期でもあります。休憩しすぎて周りの受験生に遅れをとらないように注意しなければなりません。

そこで、今年の本試験で実際に「どのくらい得点できたか」確認してほしいと思います。よく「本試験のことは一旦忘れて休憩したいので、答え合わせはしない」、「答え合わせをしなくても、合格発表で結果はわかる」などと聞くことがあります。

このような姿勢では、来年度へ向けての勉強スタートが遅れることになりかねません。いろいろな学校が模範解答を公表していると思いますので答え合わせをして、本試験日時点での「自らの実力」を把握してもらいたいと思います。

【第三問】の計算問題はどのくらい得点できたか?

今年の本試験はボリュームも昨年のように多いわけでもなく、全体的に解きやすく、難しい問題もそれほどなかったので、普段の実力を大いに発揮できる試験だっただろうと思います。

自己採点で40点以上取れている場合

具体的には50点中40点以上取れていると、計算については「ひとまず安心かな」と思います。この手の問題で40点以上得点できるということは、かなりの実力者といえるでしょう。合格発表までは、週に1回程度総合問題(計算)を解くとよいかと思います。

その際の問題については、本試験まで解いていた80分程度の総合問題を繰り返し解き、間違えた箇所については手持ちの計算テキストで確認するとよいでしょう。答え(解答解説)だけを見て終わりとするのではなく、計算テキストに戻って確認することにより、より記憶に残りますし、間違えた箇所の周辺知識の確認にもつながります。

自己採点で30点以上40点未満の場合

また、50点中30点以上40点未満の方は、合格まで「もう一歩」のところだといえるでしょう。合格発表までに、手持ちの個別問題集(計算)を繰り返し解き直してください。

可能であれば、毎日解くことをおすすめします。それと並行して、週末など、まとまった時間が取れるときには、80分程度の総合問題(計算)を解きましょう。いずれにしても、間違えたときに答え(解答解説)を見て終わりとするのではなく、手持ちの計算テキストで確認して、「ここに書いてあるのに、なぜ間違ったのだろう」と自己分析をしてみてほしいと思います。

自己採点で30点未満だった場合

50点中30点未満だった方は、少し合格までに「距離がある」かもしれません。50点中30点以上40点未満の方と同じように勉強をしてもらいながら、可能であれば、周りの合格者の方などにアドバイスをもらうとよいかもしれません。

やみくもに勉強しても合格には近付いていきますが、効率が悪く、時間がかかるかもしれません。あなたのことを知っている方からの直接的なアドバイスで、実力がグッとアップすることもあります。

もし、周りにアドバイスをもらえるような人がいなければ、お近くの専門学校に足を運んでもらうのもよいかもしれません。私が講師を務めるTACでも、本試験終了後から「個別学習相談会」などが開催されています。電話での相談も受け付けていますので、大いに利用していただきたいと思います。「なるほどっ!!」と思えるようなアドバイスが得られるかもしれません。

【第一問】・【第二問】の理論問題はどのくらい得点できたか?

理論問題ついては「論述問題」があることから、自分では答え合わせがやりにくいこともあるでしょう。ですからまず、論述問題以外の選択肢問題や空欄穴埋め問題などから答え合わせをするとよいでしょう。

「論述問題」については、周りの合格者や、専門学校に通っていた場合はお世話になった講師に見てもらうとよいでしょう。特に、いつも答案を採点してもらっていた講師であれば、より効果的に点数を予想できるだろうと思います。上記の「個別学習相談会」なども、大いに利用してください。

具体的には50点中35点以上とれている方は、合格発表を楽しみに待つとよいでしょう。万が一のことも考えて、忘れてしまわないように週に1回は手持ちの理論テキストを開いて音読などをするとよいかもしれません。

また、50点中35点未満だった方は、計算の得点との兼ね合いで結果はどうなるかわからないだろうと思います。お仕事や学校がお忙しい方、8月以降、新しい税理士試験科目を勉強される方など、使える時間によってアドバイスも異なってきますが、合格発表までにすっかり理論を忘れてしまわないようにスキマ時間を利用して、手持ちの理論テキストを読んでおきましょう。この点についても、上記「個別学習相談会」などを利用すると、よりよいアドバイスが得られるかもしれません。

全体を通してどのくらい得点できたか?

ご存じのように、最終的には第一問から第三問までの合計点数で合否が決まります。第一問では「概念フレームワーク」や「減損会計」が出題され、第二問では「自己株式や新株予約権の会計処理」や「会計上の見積りの変更の会計処理」が出題されました。

一部、解答が難しい問題もありましたが、多くの問題が解答可能な問題でした。したがって、ヤマを張らず、まんべんなく勉強できた方がもれなく、実力を発揮できたのではないかなと思います。

また、第三問の計算問題についても、ボリュームもそれほど多くなく、全体的に解きやすい問題でした。理論問題同様、計算についても実力を大いに発揮できる問題だっただろうと思います。

具体的にいえば、理論問題と計算問題を合わせて、だいたい70点~80点程度(TAC解答速報に基づく)が合格ラインになるのではないでしょうか。これは例年に比べると「高い」点数です。

ですが、先ほどから申し上げているように、今年の本試験は全体的に取り組みやすい問題でした。したがって、理論、計算問わず、普段の実力を大いに発揮できれば70点以上の得点は可能だろうと思います。

特に、自己採点で75点以上だった方は、合格発表を楽しみに待ちましょう。75点に及ばなかった方でも合格率や配点箇所等との兼ね合いで、まだまだ合格の可能性はあるかと思います。

ただ、万が一の場合もありますので、先ほどお伝えしたように、計算問題を繰り返し解いたり、理論テキストを読み返すことをおすすめします。すっかり忘れてしまって、でも「もう一回財務諸表論を受験しないといけない」となると、良い再スタートが切れないと思いますので。

特に、計算力はサボると、すぐに落ちてしまいます。すぐに落ちてしまうわりに、計算力を向上させようと思うと時間がかかります。

今年の本試験からもわかるように、計算問題で高得点を取ることは合格するために必須です。ですから、コンスタントに計算力を維持するように心掛けましょう!

皆さんの合格を、切に願っております。

【執筆者紹介】
加茂川悠介(かもがわ・ゆうすけ)

税理士、CFP®。中央大学法学部、早稲田大学大学院法学研究科修了後、大手専門学校で教鞭をとる。その後、立命館大学大学院法学研究科で税法を学び、会計事務所勤務や河合塾ライセンススクール講師を経て、財務捜査官採用試験に合格。宮城県警退職後、資格の学校TAC税理士講座で講義を行う。現在、TACのほか芦屋大学や大阪産業大学、近畿大学等でも講義を行い、日々、わかりやすい講義に向けて自己研鑽している。
著書『ストーリーとまとめ問題でよくわかる! かけるくんの簿記入門』(パレード)が9月下旬に刊行予定。


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