【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。
無線技術者から社労士へ 全く未経験で開業!
初めまして。新横浜で開業しています堀川眞也と申します。無線通信機器設計技術者として外資系メーカーの日本支社で22年、その後日系企業2社で10年の勤務を経験しています。
外資系企業と日系企業で、働き方の違いや、人事評価の考え方の違いなどを体験しました。
その中で、人生の中でも長い時間をすごす「働く」ことが幸せに繋がる仕事がしたいという思いから、社会保険労務士の資格を取得しました。
資格を取得したものの、人事労務については全く未経験のため、独立開業について迷いもありましたが、合格後3年経て会社を辞し開業をいたしました。開業時は全くの未経験でのスタート。その当時のこと含めお話しをさせていただきます。
社労士資格取得を目指した理由
新卒で入社した外資系企業では、目標管理評価における完全成果主義で、時間管理のない環境の中で職務を遂行してきました。プロジェクトの合間には、3週間連続の有給を取得する事もでき、家族の介護の為介護休職を3ヶ月取得したこともあり、とても働きやすい会社でした。
しかしその会社は日本国内の事業撤退のため、事業部全員が整理解雇となり、私も42歳の時に転職を余儀なくされました。
転職後は、年功序列が色濃く残る日系企業において、長時間勤務をした者が「頑張った」と評価されるなど、文化の違いや、働き方の違いにとても驚きました。
「会社に人生を左右されず生きていきたい」という思いが強くなる中、社会保険労務士の資格を知りました。この資格を活かし、人材育成、従業員定着、評価制度改善、ワークライフバランスの改善などの業務を行っている先生方の活躍を拝見し、「働くことが幸せに繋がる仕事がしたい」と思ったのがこの資格を取得するきっかけとなりました。
開業までに準備したこと
2013年8月、受験を決意し資格学校へ入校。年15回近い海外出張もあることから、講義の動画を見るために学校へ通う方法で勉強を開始。2014年に合格することができました。
合格し事務指定講習を修了したあと、開業塾(開業にあたり営業や実務を教えてくれる士業向けの勉強会のようなもの)を受講しました。申込時は高い受講料と感じていましたが、受講したことが今とても大きな財産になっています。塾の同期との刺激、講師陣との繋がり、そして何よりも人脈づくりの大切さを知ることができました。合格してから開業までの3年間で、社労士やその他士業の方など、400枚の名刺を交換しました。
その他、開業までに会社勤めをしながら以下のような準備を行いました。
①社労士会に「その他」で登録(支部内の社労士人脈の構築)
②社労士周辺資格の取得(特定、FP、年金アドバイザー、メンタルヘルス検定、国家資格キャリアコンサルタントなど)
③社労士関連セミナーの受講、書籍の購入
④創業支援セミナーの受講
⑤セミナー講師、資金調達などの勉強会に参加
⑥ブログ執筆の開始
⑦ボランティアで年金セミナーの講師を実施
⑧地元金融機関とのパイプづくり
⑨ホームページ作成のための WordPress の勉強(自分でホームページを作りました)
この準備期間の3年間でこれらの費用として200万円近く使いました。さらに、具体的に開業に踏み切る決断となったきっかけとして、以下の条件がそろったことがありました。
①開業後の資金繰りに目処が立ったこと
②様々な勉強をしながら、社労士としての独自性、差別化の方向性を見つけられたこと
③勤めている会社の将来性の不安が顕在化したこと
④子どもの独立が決まり学費が不要になったこと
2017年7月末に退職、2ヶ月間の準備期間を経て2017年10月1日に自宅にて開業しました。会社員時代の苦い経験から、雇用されたくないという思いが強かったため、社会保険労務士事務所等への就職や、委託等でお手伝いをするなどのことは全く考えずのスタートでした。
開業当初の状況
開業準備中の3年間、多くの社労士の先輩の方々とお知り合いになる中、開業日を決めたことをある先輩にお話ししたところ、その先輩から1社紹介していただく事ができ、開業時に顧問先1社契約することができたのはとてもありがたいことでした。
その企業と顧問契約を結んですぐ依頼された仕事が従業員の退職手続でした。
経験がまったくありませんでしたので、何をしてよいかわからず、まずは自宅事務所に戻り、社会保険、雇用保険の資格喪失の手続、離職票の書き方などを調べ、翌日退職届や、賃金台帳、出勤簿をもらいに行き、一日かけて離職票を書き上げるような状況でした。
その後もすべてのお仕事が初めてです。ひとつひとつ調べながら手続を進めて行くことになりましたが、おかげさまでその企業さんに鍛えていただく事ができ、感謝をしています。
差別化への道
事務所としての特徴、差別化については、大きく4つを決めました。
1 研修・セミナー講師
会社員時代より、社内や、顧客へのプレゼンを数多く行ってきました。そのため、研修・セミナー講師として活躍したいという思いがありました。
第一歩として、自主開催セミナーを打ち上げ、場所の確保、集客、宣伝、集金、開催、録画、動画のアップをすべて一人で行いながら年6回程度開催しました。続けてきたことが力になり、4年目からは自主開催ではなく、出版社、財団法人、社労士会、医師会などのセミナーや研修に招聘していただけるようになりました。
現在は年20件ほどの研修・セミナーに登壇するほか、社労士向けセミナーDVDを2本出しています。
2 英語対応できる社労士事務所
外資系企業では、英語を使う環境にありました。社労士業務でも英語力は差別化のツールになるかなと思い、ホームページ等で「英語対応可」と表記しています。その作戦が功を奏し、社労士や外資系専門の税理士から外資系企業を紹介してもらったり、顧問先の4分の1が外資系企業です。
3 情報セキュリティ
勤めていた外資系企業は、米国の軍事機密を扱う事もあり、また設計開発部門に所属していたことから、情報セキュリティについてはとても厳しい教育を受けていました。
中小企業や、個人事業の士業事務所など、伺っていると情報セキュリティがとても甘く、危険な状況である事を見聞きする中、情報セキュリティについての支援を行う事で事務所の差別化ができると思い取り組んでいます。
4 障害年金
障害年金は、取り組むには難しく、業務として受注する予定ではなかったのですが、顧問先の従業員様の障害年金の請求代行の機会、その後知り合いの税理士からの紹介などもあり、経験を積むことができました。
受給が決まるとお客様にとても喜んでいただけるのがやりがいになっています。受注件数に限界はありますが、毎年4件程度の受注をいただいています。
事務所の拡大
顧問先が増え、研修・セミナーの件数が増える中、忙しさも増してきます。
当初は自宅事務所で開業しましたが、スタッフを雇用する為に事務所を借りました。開業3年目の2020年5月には、事務所を移転し、現在はスタッフ2名が働いています。
これから開業される方へ~私が開業準備中に行ったこと
最後に、試験合格から開業までの3年間の開業準備中に私が行ったことで、やってよかったと思うことを紹介します。
1つ目は、なんと言っても人脈作りです。社労士、他士業、経営者、その他多くの人脈づくりは必ず糧になると思います。私は、「開業準備中」と書いた個人の名刺を作成し、セミナー後の懇親会や、支部の会合で名刺を交換していました。さらに、Facebook等も活用し、継続して発信することで、存在を覚えていただけるようにしました。また、事務指定講習修了後から、ブログを開設し発信を続けています(現在も継続中)。
神奈川県が行っていた創業支援セミナーにも参加し、これから起業する経営者の方と知り合いになることができたのも大きな財産になっています。
2つ目は資金繰りです。地元信金から借金をしました。開業後の資金繰りは、自己資金で3年分を準備していましたが、あえて開業資金融資を借りることにしました。それには以下の理由があります。
①資金融資を受けるための創業計画書、収支計画書、経営理念などを作成することで、自らの強み、弱みを理解し、開業後の事務所運営をぶれないで行えるだろうと考えたこと。
②地元金融機関とのパイプを作ることができ、中小企業との接点づくりや、金融機関様主催でのセミナー講師としてのご用命をいただけるようなアプローチが出来ると考えたこと。
③運転資金が確保でき、自己資金を生活費にまわせるため、気持ち的にも余裕が生まれること。
④高額なセミナーへの参加も躊躇無く申し込め、仕入れができることなどいいことづくめであること。
「返済しなければ」というモチベーションにもなりますし、自己資金があるときでなければ借りるチャンスもなくなるということもあり、開業資金融資を受けました。最近もスタッフ雇用時に2回目の融資を受け、信金とのパイプを強固にしています。
最後に
私の開業動機は、「雇用されずに働きたい」の一点です。社労士業の経験のための修行もせず、いきなり開業しました。いただいた仕事は「はい」or「Yes」で受けさせていただき、すべて経験として6年目の今日まで走ってくることができました。
社会保険労務士の仕事は本当に楽しく、やりがいがあり、会社員時代とは違い本当にいい資格を得る事が出来、良い仕事に恵まれたと感じています。
これからも、縁する皆さんのお役に立てるよう、私の思いである、経営者、従業員双方を支え「働くことが幸せ」といえる社会づくりに貢献して行きたいと考えています。
【執筆者紹介】
堀川 眞也(ほりかわ しんや)
特定社会保険労務士・キャリアコンサルタント・2級ファイナンシャル・プランニング技能士
無線機器技術者として外資系メーカーに22年 その後日系メーカー2社で10年勤務。
会社員時代、110回の海外出張、22カ国を訪問、1500日以上海外に滞在。
49歳で社労士試験に合格、52歳で独立し社労士事務所を開業。2022年には研修・コンサルティングの株式会社を設立。「幸せに働けること、働く事で幸せに」という信念のもと、すべての人が働きやすい環境作りのため、職場風土づくり研修やパワハラ防止研修なども行っている。
事務所ホームページ https://www.feliciance-sr.com/
FACEBOOK https://www.facebook.com/shinya.horikawa
Twitter https://twitter.com/copiping
ブログ https://ameblo.jp/kopi-ping/
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