【編集部より】
早いもので2022年も年の瀬。まだ正月休みのことを考える暇はあまりないかもしれませんが、でも貴重な時間なので今のうちに少しずつ準備をしておきたいところですね。
そこで、本企画では、学者・実務家など10人の読書愛好家から、会計人コースWeb読者の皆さんにオススメする「年末年始の課題図書」をご紹介いただきました(1日お一人の記事を掲載していきます・順不同)。
受験勉強はもちろん、仕事や人生において新しい気づきを与えてくれる書籍がたくさんラインナップされています。ぜひこの機会にお手にとってみてください!
今回の記事では、実務家のblanknoteさんに課題図書をお薦めいただきました!
年末年始に読みたい会計・税務の課題図書というお題をいただきました。
私は経理実務の経験しかなく、試験のアドバイスはできないため勉強の合間に頭のストレッチになりそうな書籍をご紹介したいと思います。
オススメ①『租税と法の接点』佐藤修二著、大蔵財務協会
1冊目は法に関する書籍です。
平成10年代以降、税務の世界では大型の租税訴訟が目立つようになってきました。
税務は元々租税法に従う分野ですがこの傾向からより司法判断を意識した対応が必要になってきました。
弁護士で国税審判官を務めたこともある著者の佐藤修二さんはこの現象を「法化」と呼び、必要な法的思考、法解釈や事実認定について判例を題材にしながらこの書籍で説明しています。
ページ数も多くなく読みやすいためお勧めしたいと思います。
なお、会計の世界も税務の「法化」とレベルは異なりますが、会社法制や会計不正に関わる民事・刑事の責任などで法と接点を持ちます。
この辺りのテーマでは『会計基準と法』(弥永真生著、中央経済社)があります。こちらは大著です。
オススメ②『近代会計史入門(第2版)』中野常男・清水泰洋編著、同文舘出版
2冊目は歴史に関する書籍です。会計や税務は頻繁なルール改正が行われる分野ですが、歴史を知ることで現在の制度の根底を理解できるものも多いと考えます。
紹介する書籍は13世紀から20世紀初頭までの会計史です。
複式簿記の誕生、各国への伝播、継続的取引による口別から期間損益計算への移行、株式会社の成立と財務報告の発展、産業革命と減価償却、監査制度の発展など様々なトピックを本書は広くカバーしています。
その他会計史本では『帳簿の世界史』(ジェイコブ・ソール著、文春文庫)、『会計のヒストリー80』(野口昌良、清水泰洋、中村恒彦、本間正人、北浦貴士編、中央経済社)も良い本です。
租税に関する歴史では『租税史回廊』(中里実著、税務経理協会)も良いでしょう。
日本の制度に関わる歴史では、税制では『日本・税務会計形成史』(矢内一好著、中央経済社)が良い資料です。
企業会計を中心とした書籍では『日本の会計基準』(大日方隆著、中央経済社)が刊行予定らしく個人的に楽しみにしています。
オススメ③『「新しい資本主義」のアカウンティングー「利益」に囚われた成熟経済社会のアポリア』スズキ トモ著、中央経済社
3冊目は会計の応用に関する書籍です。
最近の企業経営はSDGs、ESG、サステナビリティなど様々な「正しさ」に振り回される環境にあります。
日本においては岸田首相が「新しい資本主義」を掲げたため原丈人さんの公益資本主義も一時話題になりました。
著者もアライアンス・フォーラム財団の公益資本主義研究部門に所属しています。
紹介する書籍は、「新しい資本主義」が掲げる成長と分配の好循環のため、株主分配と従業員給与の伸びの不均衡の是正を目的に、財務諸表を組み替えて作成する付加価値分配計算書を提示し、この可視化によって行動変容を促すことを提案するというものです。
お題目の抽象的な「正しい」主張に留まらず実務を意識した具体的な提言に踏み込んでいる点、その手段として会計を利用している点がお勧めしたいポイントです。
会計情報というものはASOBAT以来、意思決定主体である情報利用者の目的に適合することが基準の1つとなっています。
サステナビリティ開示やインパクト加重会計などと共に情報利用者の目的の多様化を考えるのも良いと思います。
オススメ④『他者と働くー「わかりあえなさ」から始める組織論』宇田川元一著、NewsPicksパブリッシング
最後は会計と無関係の書籍です。
このサイトの読者は資格試験勉強を通じて専門的知識を習得し仕事に活かしていく人が多いと思います。
しかし、仕事は一個人だけで判断・決定できないものが多く、専門的知識に基づく良い答えを知識のない人に説得していく機会が増えるため、ストレスに感じる方もいると思います。専門家の宿命みたいなものです。
この書籍ではそのような適応課題を解決するための対話の実践を経営戦略論、組織論の研究者が説いています。
現在学んでいる知識を今後も活かしていくであろう方にお勧めしたいと思います。
<執筆者紹介>
blanknote
製造業の事業企画に従事。前職は製造業経理。事業運営、財務、会計、税務、法務、開示などが関心事で、Twitterやしらさぎ会などの実務家の有志勉強会から得られる実務知識を主食として生息する匿名ネットアカウントです。
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