※ 本記事は「後編」です。前編はこちらからご覧ください。
税理士試験は「独学」で合格できるのか?
勉強を始めたら、誰もが一度は思うことかもしれません。
そんな興味に応えるべく、独自の勉強法で官報合格し、受験生から絶大な支持を誇るYU ME NO U Eさんと、働きながら独学で官報合格し、このたび『税理士試験 「独学×家勉」で合格する方法Q&A』を出版された西﨑 恵理先生の対談が実現!
受験生の頃から、それぞれのブログを通して情報交換をしていたおふたり。
お互いに税理士となった今、「独学」と「家勉」をテーマに、税理士試験の勉強について語りつくしていただきました。
まずは、個別問題をしっかり理解することから
YUMENOUEさん:
ここからは、具体的な勉強法について聞いていきます。
まず、学習計画の立て方なのですが、本を読んで、西﨑さんの学習計画は結構ザックリしているように思いました。目標から逆算して細かく計画を立てる、というのがいわば受験生の鉄則のように語られていると思いますが、西﨑さんの計画の立て方はそれとは逆のような気がしました。西﨑さんは、計画を立てる際に意識されていたことはありますか?
西﨑さん:
もちろんできれば1年で合格したいので、1年後の最終的な目標は意識します。ただ、はじめての税法科目として法人税法を受けた年、スケジュールを立ててもそのとおりにはいかないことを痛感したんです。
「4月から総合問題」と決めていたのに4月になっても個別問題が全部終わってなくて、とりあえず個別問題を終わらせて総合問題を解いてみましたが、当然ボロボロでした。そこで、スケジュールどおりに勉強することよりも、まず個別問題をしっかり理解して解くほうが大切だと思ったんです。個別問題をクリアしないかぎり、総合問題も本試験問題もないな、と。
YUMENOUEさん:
たしかに、西﨑さんは個別問題にとりかかっている期間が長いように思います。これは意図的ですか?
西﨑さん:
そうですね、長いと思います。簿記論を受験したときに思ったのですが、総合問題は結局のところ個別問題の積み重ねなんですよね。このときから、個別問題を理解していないのに、その後に進んでも意味がないな、ということはなんとなく考えていました。
法人税法のときも、総合問題を解いてみて歯が立たなかったので、本試験までに1つでも解ける個別問題を増やそうと、そればかり勉強していました。
それで、結果としてはA判定だったんですよ。なので、総合問題に慣れるよりも個別問題を丁寧に理解するほうが大事だし、それで十分に本試験で戦えるんだと思いました。
特に法人税法だと、そこまで総合問題に慣れることにこだわらなくていいと思います。消費税法とか相続税法は、総合問題がわりとパターン化されているので、その形式に慣れるというのは大切だと思うのですが。
ノートは「誰かに教える」つもりで作る
YUMENOUEさん:
まとめノートの作り方についてもお聞きしたいです。西﨑さんのまとめノート、本当にきれいですよね。本には「誰かに見せるつもりで作る」と書かれていて、これもよく言われる「自分さえわかればいいのできれいに書く必要はない」という考えとは逆だなと思いました。
西﨑さん:
まとめノートは、あとから見返すことを前提で作っていましたから。YUMENOUEさんも、きれいにメモリーツリーとしてまとめられていますよね。私、自分の字があまり好きではなく、あとで見たときに「字が汚いなぁ!」と思いたくなかったので、なるべく丁寧に書くように気をつけていました。
あと、まとめノートを作るにも、何も考えずに書いているわけではないじゃないですか。こことここがつながっているからこう、みたいに考えながら書いていると思うんです。
なので、「誰かに見せる」というよりは、「誰かに教える」つもりで書いていました。最終的にできあがるものはテキストと似たような内容になることが多いのですが、「講義をするつもりでまとめる」というのは、頭の中も整理できていいと思います。
YUMENOUEさん:
「セルフレクチャー」は効果的ですよね! あと、まとめノートを見てびっくりしたのが余白のもたせ方です。なんですか、この余白は。ノートを作るというと、普通は1行目からビッシリ書く方が多いと思うのですが、いきなり1行空けて書きはじめていますし。この余白は、なにか意味があったのでしょうか?
西﨑さん:
特に意識して…というほどではなかったのですが、あとから追加情報を書き込めるようにと思っていました。たとえば、書き込みたいことがあるのに詰め詰めだと、そのページをまるまる書き直さないといけませんからね。それが嫌だったので余白をつくっていました。あと、単純に文字でびっちりなのは見づらいなと思って。
YUMENOUEさん:
やっぱりすごいなあ。図表もかなり入れていますよね。
西﨑さん:
そうですね。図表は入れるようにしていました。YUMENOUEさんもそうだと思うのですが、私も画像で覚えるタイプなんですね。思い出すときには、「あの図のあのへんにあったな」というような。
ただ、テキストには似たような表形式のものが多いじゃないですか。なので、それをそのまま写すと、同じような表ばかりになってしまって覚えにくいと思って、なるべく違う「絵」になるようにしていましたね。普通の表ももちろんありますが、グラフとかフローチャートとか、論点ごとに意識的に違った図表にしていました。
YUMENOUEさん:
たしかに、ただ書き写すのではなく、自分で考えながら書くことは大切ですよね。
西﨑さん:
そうですね。暗記できるかどうかは別の問題ですが、結局は理解していないと図も書けないと思います。なので私は、1つの論点の図を書くために、テキストを見たり、ネットで調べたり、けっこう時間はかかりました。
YUMENOUEさん:
まとめノートを作るタイミングはいつだったのでしょうか?
西﨑さん:
1つの論点の学習の最後にまとめノートを作る感じですね。
基本的な学習の流れは、「テキストを流し読みする→個別問題を解く→解けないなら解説を読む」で、これで理解できるならいいのですが、「解説を読んでも結局よくわからないな」「他の形式で出題されたら不安だな」と思ったら、ノートにまとめていました。なので、テキストと個別問題集を行ったり来たりしながらまとめていました。
理論暗記はITツールを使ってデジタル化
YUMENOUEさん:
理論暗記は、自分の声で録音していたそうですが、これも時間はかかったのでしょうか。
西﨑さん:
そうですね。iPhoneのアプリを使っていたのですが、言いまちがえることなく録音できるまでに3~4回はかかったと思います。まとめノートもそうですが、「何度も聞いて覚える」というよりは、「覚えながら録音する」という感じです。
自分の声を嫌いな人って多いじゃないですか。私もそうで、何度も自分の声を聞くのが嫌なので、「早く覚えて終わらせよう!」というモチベーションになっていました(笑)。
YUMENOUEさん:
ほかには、タイピングもされていますよね。
西﨑さん:
本当は「書いて覚える」タイプなのですが、文章量も多いと手も疲れるので…。たまたま夫がiPadを持っていたので、それをもらいました。パソコンより立ち上がるのも速いですし、スキマ時間ができたら、メモアプリを開いて理論を打ち込んでいましたね。
YUMENOUEさん:
ITツールを使いこなしていますね!
西﨑さん:
これは夫のおかげもしれないです。最初にもらったiPadは「mini」だったのですが、相続税法のときに「pro」に買い換えました。文字を打ち込む性能も上がりましたし、「Evernote」というアプリを使って暗記のやり方をデジタルに変えてみました。
YUMENOUEさん:
すごい! 西﨑さんもですが、最近ITツールを使って勉強している人は多いですよね。ちなみに、理論はばっちり暗記していたタイプですか?
西﨑さん:
合格した年は本当にしっかり暗記しました。税法科目で不合格だった1年目のときは、計算を追うのに必死で理論を疎かにしがちだったのですが、やっぱり理論で点を取れないと合格はできないなと痛感しましたね。
YUMENOUEさん:
暗記から逃げないことは大事ですよね。個人的によく思うのですが、暗記して丸がもらえるなら、こんなに楽な問題はないですよね。「理論のべた書きはサービス問題」だと思えば、暗記のモチベーションも上がるように思います。
西﨑さん:
わかります! 理論はむしろ得点源だと思います。条文を暗記して点がもらえるなんて税理士試験くらいかも(笑)。他は、だいたい思考過程を書かせる試験ですよね。そう考えると、理論で点を取らないのは損ですよ。これは頑張らないといけませんよね。
自分で理論問題を作ってみる
YUMENOUEさん:
理論については、「理論問題を自作する」とも書かれていましたが、これも衝撃でした。理論問題を自作するなんて考えたこともなかったですし、できること自体がすごいです。
西﨑さん:
相続税法の2年目でやったことですね。これは相続税法ならではかもしれません。法人税法とか消費税法の理論問題は、「この規定について書け」とか「この文章は合っているか書け」という個別論点を問うものなのですが、相続税法は少し違って“ヨコのつながり”が問われます。この総合理論が相続税法の難しいところでもありますよね。
これを克服しようと思って、まずはじめは市販の理論問題集を解いていたのですが、いざ解答・解説を見てみると、1時間くらいないと書けないような文章量で。相続税法の総合理論には、せいぜい30分くらいしかかけられないだろうと思っていたので、問題集は自分には合わないように感じたんです。
そこで、「30分で書ける総合理論問題を自分ならどう出すか」と考えて、問題を作りはじめました。ただ、オリジナルな問題はほとんどなく、問題集を参考にしていました。
たとえば、最後に「(手続き規定は除く)」と付け足してみるとか。逆に、手続き規定まで書かせようと思ったら、その個別理論をメインとした問題を別に作ってみるとか。ヨコの問題とタテの問題の両方を作るイメージですね。
こういうふうに自分で問題を作って解くということをしていると、「この問題に対してはここまで書けばいいのかな」とか「これ以上書くと余分かな」といった感覚が身についてくるんですよね。
覚えたら「覚えたぶんだけ書きたい!」となってしまうのが人情だとは思うのですが、そうではなく、出題者の意図をくみ取って「書くべき部分だけを書く」というのが大切なのかなと思いますね。
YUMENOUEさん:
それは本当に重要ですよね。問題と解答のどことどこが対応しているのか、それを正確に見極めるのは大切だと思います。
合格のカギは「好奇心」をもてるかどうか
YUMENOUEさん:
最後に、西﨑さんの性格について伺おうと思います。僕はこの本を読んで、西﨑さんは「芯が強い人。けれど、びくともしない大木ではなく、風に対してしなやかに揺れる柳のような強さをもつ人」だと思いました。
西﨑さん:
いきなり、めちゃくちゃ詩人ですね(笑)。けれど、ありがとうございます。
YUMENOUEさん:
(笑)。けれど、だからこそ、いい意味でほどよく肩の力を抜いて勉強できていたのかなと想像しました。実際は大変だったのでしょうけれども。
でも、無理だと言われたら逆に燃え上がるような反骨精神も感じました。イマ風に言うと「クセが強い」というのでしょうか(笑)。
このように、いろんな一面をもっている西﨑さんですが、何よりも根底にあったのは、本にも書かれているように「好奇心」だったのかなと思います。
西﨑さん:
そうですね。やはり興味をもって勉強できるかは重要で、「税理士という仕事は自分に向いているのか」「実務でもやっていけるのか」という指標になると思うんです。
資格を取ることはもちろん大事ですが、その資格で食べていくことを考えると、受験勉強の段階で「好奇心」をもちつづけられるかどうかはかなり大きいのかなと思います。
YUMENOUEさん:
「士業は一生勉強」とも言いますし、受験生のときから好奇心や興味をもって勉強することは、今後の実務でも絶対に活きてきますよね。試験勉強を通して、知識だけでなく、こういった姿勢や適性も試されていたのではないかと感じます。
今日は、参考になるお話をありがとうございました。僕も、税理士試験をもう一度受けるなら「独学」にしよっかな? あ、やっぱりやめよっかな?(笑)
またお話しましょう! ではーーっ!
【対談者のプロフィール】
YU ME NO U E
税理士・中小企業診断士・社会保険労務士(試験合格)
トヨタ自動車(株)に10年間エンジニアとして勤務。仕事のなかで携わった中小企業との出会いがきっかけで、中小企業支援に関心を抱き、エンジニアとしての勤務のかたわら社会保険労務士試験、中小企業診断士試験に合格。2017年、35歳にして退職、実務経験ゼロで税理士法人へ転職。故郷である静岡県に戻り、中小事業者の力になれるよう、第2の人生のスタートラインに立っているところ。2014年から税理士試験を受験し、2020年に官報合格。
勉強法や等身大の受験生活の日々を綴ったブログ「資格の先のYU ME NO U E」が大人気で、アメブロ資格ジャンルのランキング上位常連。
著書に『社労士試験 この勉強法がすごい!』(単著)、『税理士試験 税法理論のすごい暗記法』(共著)(ともに中央経済社)がある。
西﨑 恵理(にしざき えり)
税理士
愛媛県出身。大阪大学法学部卒業後、大阪市内の法律事務所へパラリーガルとして就職。結婚を機に退職、愛知県へ転居。日商簿記3級・2級を受験し、税理士事務所へ未経験で就職。2012年、第一子妊娠のため事務所を退職。2013年に税理士試験の簿記論に合格し、同じ事務所に再就職。以後、2014年財務諸表論受験(合格)、2015年法人税法受験(A不合格)、2016年消費税法受験(A不合格)、2017年法人税法・消費税法受験(ともに合格)、2018年相続税法受験(50不合格)、2019年相続税法受験(官報)。現在は、所属税理士として愛知県内の税理士法人に勤務するワーママ。
著書に『税理士試験 「独学×家勉」で合格する方法Q&A』(中央経済社)がある。
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発行日:2020/07/09
A5判 / 148頁
ISBN:978-4-502-34901-0
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