わたしの独立開業日誌 #税理士・松井元
- 2026/2/12
- 独立開業日誌

三代目税理士として引き継ぎ、変え、広げてきたこと
「士業の魅力は、将来的に独立開業ができることだ」
この言葉に、私自身もかつて強く惹かれました。
もっとも、私の歩みは、いわゆる“ゼロからの独立開業”とは少し異なります。私は三代目税理士として、父の事務所を承継する形で現在の事務所を運営しています。
それでも、資格取得から事務所経営、顧客獲得、組織づくりに至るまで、悩み、試行錯誤してきた過程は、これから税理士を目指す方の参考になる部分があるのではないかと考え、本稿を執筆しました。
大企業を辞め、税理士を目指した理由
私は新卒で大企業(愛知県の自動車部品メーカー)に就職しました。いわゆる「就職氷河期世代」でしたが、幸運にも安定した環境で社会人生活をスタートすることができました。
理系出身でしたので仕事の内容は今とは全然違いました。カーエアコンの設計・開発つまりエンジニアの職に従事しておりました。会社は世界を相手にしており自分もその中でスキルを身に付け仕事そのものは充実していました。
一方で、働く中で次第に感じるようになったのは、自分は組織の歯車に過ぎないということです。どれだけスキルやマネジメント能力を高めても、自分が抜けても会社はピクリともせず替えは何人もいます。
また、組織が大きいと自分で決定できることは殆どなく、重要なことほど上司の判断を仰ぐ必要があります。自分には裁量権はありませんでした。
加えて、30歳過ぎた頃から出世競争が始まり30台後半で本格化します。自分より歳上の人達を見ていると40歳過ぎると会社での自分のポジションはほぼ固まっていました。この「自分の立ち位置が年齢とともに固定されていく感覚」も嫌でした。
「このまま定年まで疑問を感じながら勤め続けるのか」という思いが、次第に大きくなっていきました。
自分の仕事の手綱は自分で持ちたいと強く考えるようになりましたが、既に結婚しており1歳の子供がいたので全くの無茶な選択はできませんでした。
悩む中で実家が税理士事務所を営んでおり、一応の基盤があることを思い出しました。そして、34歳になる直前に大企業を辞めて静岡に戻って税理士の資格を取り、父が経営する事務所を継ぐ決意をしたのでした。

税理士資格取得
自分は理系出身で当時の要件では税理士試験の受験資格が無かったため、まず取り組んだのは簿記一級の取得です。仕事をしながらの勉強だったので、時間を捻出して効率よく学習することの重要性を痛感しました。
2012年12月に簿記一級取得後、税理士試験に挑戦するために簿記論の勉強を開始しました。税理士になるルートとして、初受験前には税法2科目を大学院で免除することを決めており、簿記論・財務者評論の科目合格後に大学院に進学する予定でおりました。
初受験は2013年8月で簿記論に挑戦しましたが、不合格。予備校のボーダーラインは超えていましたが結果が伴わず、税理士試験の現実を突きつけられた感覚でした。背水の陣で翌2014年8月の試験に挑み、簿記論と財務諸表論の2科目に合格し、ここでようやく努力が結果に結びつく感覚を得られました。
その後、2015年4月に東亜大学通信制大学院(法学専攻)へ進学し、大学院で勉強しつつ税法の残り1科目 国税徴収法を受験することにしました。大学院では1年次が講義中心、2年次が修士論文(税法論文)中心でした。修士論文はかなり大変なので2年次の受験は厳しいと感じ、国税徴収法は何が何でも1年次に合格しようと必死に勉強し、2015年8月の試験で国税徴収法に合格することができました。
その後は、大学院での税法論文を完成させて2017年3月に卒業。2012年に実務と勉強を同時に始めてから、すべてが終わるまで約5年弱。そして2017年9月に税理士登録に至りました。
最終的に税理士資格を取得したとき、強く感じたのは達成感よりも安堵感でした。同時に、「ここからが本当のスタートだ」という意識もはっきりとありました。
父からの事業承継
経営者になるために大企業を辞めた経緯があるのでできるだけ早く事業承継したく、税理士登録後3年で事業承継することを父に約束してもらいました。
事業承継は「楽そう」と思われがちですが、実際はそう単純ではありません。既存の顧問先、長年のやり方、職員との関係性すべてが出来上がっている環境だからこそ、簡単に変えられない部分が多くあります。
一方で、「何もないところから始めなくてよい」という点は、確実に大きなアドバンテージでした。私はこの環境を「守る」のではなく、「活かしながら変える」ことを考えました。

事務所運営で最初に取り組んだこと
承継前から初めていたことではありますが、事務所の業務の効率化にはこだわりました。
紙中心の業務フローを見直し、データを活用した新しい業務フローを考えました。
インターネットバンキング・クレジットカード明細のデータ活用は元より、Excelマクロを活用したオリジナルのツールも数多く使っております。また、近年はAI-OCRの進化も目覚ましく積極的に活用しております。
会計ソフトは既存のJDLに加え、クラウド会計freeeでの顧問先対応も可能な体制にしました。
従業員にはデータを活用した新しい仕事の仕方や会計freeeの使い方を教え、徐々に浸透させて行きました。その結果、個々人がこなせる業務の量は増えスキルもアップしました。
このように業務の効率化は進めていますが、特に既存の顧問先は個別対応になってしまっており、事務所としてすべての顧問先の業務手順が一本化さていないことは今の課題と感じております。
新規顧客取得獲得の取り組み
新規顧客の獲得にも力を入れてきました。地方ですので仕事は法人・個人事業主の顧問業務が中心です。
自分の周辺の税理士があまり取り組んでいないことに挑戦し、営業ツールとすることを考えた結果、ブログを開始して自分のことを積極的に発信するようにしました。
また、2019年にYouTube『はじめ静岡税理士チャンネル』を立ち上げて、現在まで続けて税金・お金に関する情報発信を行っております。YouTubeは、税金・お金のの知識だけでなく自分の考えやどんな感じの人間かを伝えることにも役立っています。
他にも経営者団体への参加、商工会議所主催のセミナーへの登壇、税理士会主催の大学の講師、中学生を対象にした租税教室の講師なども積極的に受けるようにして、地道な活動を積み重ねていきました。
こうした取り組みの結果、徐々に顧問先は増えて新しい従業員の採用も行い、売上もアップし続けております。
ただ、当然すべてが順調なわけではありません。
地方なので仕事は顧問業務が中心ですが、新規顧問先になった社長から税務会計上の処理で無茶な要望を受けて、顧問契約を解約させてもらったケースが複数件あります。
父の代からの顧問先もそうですが、長くお付き合いするためには考えが合うかどうかがとても大事であることを学びました。
また、高齢で事業を辞める方も増えているので、今後も事務所を発展させることは決して楽な道のりでは無いと感じております。
それでも、新しいことを学び続け経営者の伴走者としての価値を高めて、事務所経営を行って行きたいと考えています。

受験生の方へ伝えたいこと
税理士という仕事には、「独立開業」という大きな選択肢があります。
それは必ずしも、ゼロから始める形でなく事業承継という道もあります。私は運良く実家が税理士事務所でしたので、父の基盤を引き継ぐことができました。
また、近年所長が高齢で後継者がおらず継いでくれる人を探している税理士事務所もありますので、そういう事務所を引き継がせてもらうという選択もあります。
試験勉強は孤独で、先が見えなくなることも多いでしょう。しかし、その先には独立開業や、事業承継と言った自分の裁量で仕事を組み立てられる世界が確かにあります。
今日のこの文章が、どこかで踏ん張っている受験生の方の小さな後押しになれば幸いです。
【プロフィール】
松井元(まつい・はじめ)
静岡県三島市の松井会計事務所所長税理士。
1978年5月生まれの 46歳。
中小法人、個人(事業主・一般の個人)を税務・会計の面でサポート。
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCdQWQPx1bGJyplSlLBxgN1Q
ブログ:https://my-tax-nology.com/




-150x112.jpg)





