【新連載】マネーフォワード経理本部が挑む!新リース会計基準の早期適用~第1回:改正の概要と早期適用した理由


松岡俊(株式会社マネーフォワード執行役員 グループCAO)

【編集部より】
2027年から新リース会計基準が強制適用となります。対応に追われている企業は多いのではないでしょうか? 本連載では、新リース会計基準を早期適用したマネーフォワード経理本部の実例を解説していただきます。

第1回:改正の概要と早期適用をした理由
第2回:リースの範囲はどこまで?
第3回:新リース会計基準の導入が困難な理由
第4回:IFRS第16号導入プロジェクトの教訓
第5回:【実践】プロジェクトの可視化
第6回:【実践】知識のインプット
第7回:【実践】意思決定の加速とリース期間の決定方針
第8回:【実践】契約書の網羅的な洗い出し
第9回:【実践】全社連携と監査法人との協議
第10回:【実践】システム対応とその他の影響の考慮

はじめに

2024年に新たなリース会計基準が最終決定され、2027年の強制適用に向けて、多くの企業がその対応に追われていることでしょう。
私が経理責任者を務める株式会社マネーフォワード(以下、当社)では、この新リース会計基準を2年間早期適用することを決定し、2025年12月1日からの正式適用を目指して、この1年間、多岐にわたるプロジェクトに取り組んでまいりました。

この連載では、当社が新リース会計基準の早期適用を進める中で経験した具体的な出来事、直面した課題、そしてそこから得られた学びや教訓を詳細に共有させていただきます。

この情報が、現在新リース会計基準への対応を進めている、あるいはこれから着手しようとしている企業の皆様にとって、実践的な参考となり、プロジェクト推進の一助となれば幸いです。

なぜリース会計は変わるのか?—「所有」から「使用する権利」への転換

さて、これまで長年にわたり採用されてきたリース会計基準には、企業の財務実態を正確に映し出せないという構造的な課題が存在しました。
ファイナンス・リースは、実質的に資産を購入して借金をしたのと同等の経済的実態を持つ取引と見なされ、企業の貸借対照表(B/S)に資産と負債が計上されました。
一方で、それ以外のリース契約の多くはオペレーティングリースとして分類され、B/Sには何も計上されず、単に支払ったリース料が損益計算書(P/L)上で費用として処理されるだけでした。

例えば、ある企業が銀行から資金を借り入れて自社ビルを購入したとします。
この場合、B/Sには「固定資産」と「借入金」が計上されます。

一方で、別の企業が同じようなビルを長期の解約不能なオペレーティングリース契約で借りたとします。
経済的な実態は、長期にわたって資産を使用し、その対価を支払い続けるという点で酷似しているにもかかわらず、後者の企業のB/Sには資産も負債も表示されませんでした。

これにより、多額のリース契約を抱える企業であっても、B/S上は資産も負債も少ない「資産ライト」な企業に見えるという歪みが生じていたのです。
投資家や金融機関などのステークホルダーは、企業の財務諸表を見ただけでは、その企業が将来にわたってどれほどの支払い義務を負っているのかを正確に把握することが困難でした。
この「オフバランス」という会計処理が、財務諸表の透明性と企業間の比較可能性を損なっていたのです。

この問題は日本特有のものではありません。

国際会計基準(IFRS)や米国会計基準(US GAAP)でも同様の課題が長年議論されてきました。
その結果、IFRSでは「IFRS第16号」、US GAAPでは「ASC842」という新しいリース会計基準が先行して導入され、2019年から原則としてオペレーティングリースも含めてB/Sに計上する方向へと舵が切られました。

今回日本で導入される新リース会計基準は、こうした会計基準の国際的な潮流に整合させ、日本企業の財務報告の信頼性と国際的な比較可能性を高めるという、グローバルな要請に応えるための重要な一歩なのです。

当社が早期適用をした理由

企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した新リース会計基準は、2027年4月1日以降に開始する連結会計年度および事業年度から強制適用されます。
企業は2025年4月1日以降に開始する年度からの早期適用も可能であり、対応スケジュールの選択が可能です。

当社は、強制適用より2年早い2025年12月期からの早期適用を決定しました。
この決定には、主に2つの動機があります。

第1に、自社プロダクトへのフィードバックです。
会計・財務関連システムを開発・提供する企業として、新基準の実務を自ら経験することは、製品開発において非常に貴重な知見となります。
自社のサービスを利用することでユーザーの課題を先取りし、より実践的で価値の高いソリューションをプロダクトに反映させることを経理本部のMissionとしています。

第2に、ユーザーへの貢献と価値提供です。
市場に先駆けて新基準への対応プロセスを経験し、その過程で得られた課題、解決策、実践的なノウハウを「体験談」としてセミナーや記事等で共有することは、当社のValuesの1つであるUser Focusに基づいています。

もちろん、本連載もこの趣旨でスタートしています。
当社の体験談が新リース会計基準の対応準備を進める皆様の参考になればと思っています。

【著者プロフィール】
松岡 俊(まつおか・しゅん)

株式会社マネーフォワード
執行役員 グループCAO 
1998 年ソニー株式会社入社。各種会計業務に従事し、決算早期化、基幹システム、新会計基準対応 PJ 等に携わる。英国において約 5 年間にわたる海外勤務経験をもつ。2019 年 4 月より株式会社マネーフォワードに参画。『マネーフォワード クラウド』を活用した「月次決算早期化プロジェクト」を立ち上げや、コロナ禍の「完全リモートワークでの決算」など、各種業務改善を実行。中小企業診断士、税理士、ITストラテジスト及び公認会計士試験 (2020 年登録)に合格。


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