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金 誠智(公認会計士)
起業して、IPO準備を効率化するDXツール「はじめのIPO(はじめのいっぽ)」を提供するまで
はじめまして。
アイスリー株式会社 代表取締役社長/公認会計士の金 誠智(キム ソンジ)と申します。
まずは簡単に私のキャリアを紹介します。
私は有限責任監査法人トーマツにて監査やIPO支援を担当するとともに、トーマツベンチャーサポート株式会社を兼務し、ベンチャー企業向けの支援業務にも従事しました。
その後、株式会社リプライス(以下、「リプライス」)に転職し、オーナー企業としてのIPO準備を担当しました。入社当時のリプライスは、売上高や従業員数は成長していたものの、内部管理体制が整っていない状況でした。
そこで約1年半かけて内部管理体制を整備・運用したうえで、主幹事証券会社の中間審査に申し込んだタイミングで、同業の株式会社カチタス(以下、「カチタス」)からM&Aの提案を受けました。
リプライスの当時の社長と協議を重ねた結果、グループ会社となることを決め、リプライスはカチタスの連結子会社となりました。
その後はカチタスのIPO準備室室長として、グローバルオファリングの形式でIPOを実現しました。
上場時の時価総額は約650億円でしたが、年間200件以上の機関投資家向けIR活動を繰り返すことで、最高時価総額は3,800億円を超えました。
こうした過程で得た知識と経験をもとに、2020年9月にアイスリー株式会社(以下、「アイスリー」)を創業しました。
現在はIPO準備を効率化するDXツール「はじめのIPO(はじめのいっぽ)」を提供しています。
さて、第1回のテーマは「IPO準備会社の仕事はどのような仕事なのか?」です。若手の公認会計士や受験生、会計に関心のある方々の中には、IPO支援やCFOを目指すキャリアに魅力を感じている方も多いのではないでしょうか。
ここでは、私自身の体験を交えながら、IPO分野の仕事の特徴をご紹介したいと思います。
IPO分野の仕事の特徴
多方面の知識が必要となる業務
IPO準備企業は、まだ組織体制が十分に整っていないベンチャー企業やオーナー色の強い中小企業であることが多いです。
そうした企業が「IPOをしよう」と決めたときに最初に取り組むのは、決算開示体制や組織体制、労務管理、予算管理、法令順守などの内部管理体制を整備する、すなわち「管理部門の機能を強化する業務」です。
例えば私の前職であるカチタスやリプライスは住宅業界だったことから、宅地建物取引業法や景品表示法を学び、また入社当初のリプライスは勤務時間管理や時間外労働の残業代の支払いがされていなかったため、労働基準法に基づく制度設計も行いました。
さらに、これまで立案したことのなかった事業計画をKPIから積み上げて策定するなど、多岐にわたる業務を進めました。
新しい業務やルールを0から作り出す業務
IPOを想定すると、まず監査法人によるショートレビューが思い浮かぶ方も多いと思います。
実際にショートレビューを受けてみると、数十ページに及ぶ課題リストが提示され、それを一つひとつ対応していくことになります。
こうした課題は既存の業務に対する指摘もありますが、「そもそもこれまで行っていなかった業務」を新たに導入するケースが圧倒的に多いのが特徴です。
上場適格性を満たすために数多くの新しい業務やルールを0から作り上げることになるわけです。
例えば備品を購入する際、これまでは社長の口頭承認だけで済ませていたような会社では、上場企業にふさわしい組織的な経営を行うために「職務権限・決裁基準表」を作成し、それに基づいて稟議書を起案・回覧し、社長の決裁を得るフローを確立する必要があります。
こうした既存フローの刷新や新しいルールの整備という「0から作り出す業務」がIPO準備の大切な仕事になります。
会社のあらゆる業務を言語化・数値化する業務
IPO準備の最終段階では上場申請書類の提出と上場適格性の審査が控えています。
上場申請書類は百ページをゆうに超える膨大な量になり、審査は主に書面審査で進みます。
そのため、従来は口頭で説明していたビジネスモデル、競合優位性、将来の成長ストーリーを「成長可能性の説明資料」として書面化する必要があります。
また、数字の計画は、KPIや人員数といった非財務情報に基づいてロジカルに積み上げ、「事業計画書」として表計算ソフトに落とし込む必要があります。こうした「会社にかかわる情報を言語化・数値化する」業務が、IPO準備で非常に大きなウエイトを占めます。
社内の従業員との調整業務
管理部門の機能を強化するプロセスは、日常業務のルーティンに追加の業務が発生するととなり、当然のことながら従業員には負荷がかかります。
例えば、新しい顧客との契約締結時に従来は条件面のみ確認していたのが、IPO準備を機に「反社会的勢力でないことのチェック」「与信管理」「契約書のリーガルチェック」などを追加で実施するようになると、社内で抵抗感が生じる場合も少なくありません。
そうした状況で各部門を説得し、協力を得るための調整をすることも、IPO準備における大事な役割です。
外部ステークホルダーとの調整業務
IPO準備では、証券会社や監査法人、印刷会社、信託銀行、VCなど、さまざまな外部ステークホルダーと連携しながら、日常業務の遂行と並行して対応を進めていく必要があります。
各ステークホルダーには独自の規制や社内ルールがあるため、ときには非効率的に感じたり、意見が対立したりすることもあります。
例えば、セキュリティ要件の都合でGoogleスプレッドシートやクラウドストレージの利用が制限されるケースや、M&A後に発生する「のれん」の償却期間をめぐって会社側と監査法人で意見が対立するケースなどもあります。
こうした外部の協力者(であり、同時に審査・監査を担う立場でもある)との間に立ち、建設的に協力してもらうための調整業務も重要です。
臨機応変に対応する業務
IPO準備中は、経営者の思いつきによる急な方針転換、社内リソース不足による組織変更、現場のトラブルへのフォローなど、常に変化がつきまといます。
例えばリプライス時代は、IPO準備を進めている最中にカチタスによるM&Aの提案がありましたし、資金繰りが厳しくなった際には銀行融資の打診に動くなど、想定外の事態にも臨機応変に対応していました。
このように、「突然の出来事への対応もIPO準備の一環」であると捉え、柔軟に動く姿勢が求められます。
次回(第2回:2月21日掲載予定)では、こうしたIPO準備の仕事を踏まえて、「IPO分野で活躍できる人ってどんな人?(向き・不向き)」について詳しく解説します。
ぜひあわせてご覧いただき、ご自身がIPO準備企業で活躍できそうかどうかをイメージしながら、参考にしていただければ幸いです。
<プロフィール>
金 誠智(キム・ソンジ)
アイスリー株式会社 代表取締役社長
2009年有限責任監査法人トーマツ 長野事務所に入所し会計監査業務に従事。2012年トーマツベンチャーサポート株式会社 長野リーダーを兼務しベンチャー支援に携わる
2014年株式会社リプライス 経営企画室長に転職し、IPO準備を開始、2016年リプライスの株式100%を株式会社カチタスに譲渡し、経営統合。M&A後のPMI業務を担当。2017年カチタス IPO準備室長 兼 内部監査室長として、グループのIPO準備を統括。
2017年カチタスの株式34%をニトリHDに譲渡する際のDDの対応もIPO準備と並行して担当、2017年カチタス東証一部上場。グローバルオファリングとして海外投資家にも募集する形で上場。2018年カチタス 経営企画室長 兼 内部監査室長として、主に、国内・海外の機関投資家向けのIRを担当、同時にリプライス 管理部長 兼 経営企画室長として、経営メンバーとして予算策定と管理部門を管掌。
2020年アイスリー株式会社設立、代表取締役社長就任。IPO・IRのコンサルタントとして従事しつつ、IPO準備支援ツール「はじめのIPO」を開発。
会社ホームページ: https://i-3.co.jp/
サービスホームページ: https://i-3.co.jp/hajimeno-ipo/