【編集部より】
「海外で働くこと」を一度は憧れたことがある人も多いのではないでしょうか。しかし、言語や仕事、生活など、乗り越えるないといけないようなハードルもたくさんあって、なかなか踏ん切りがつかないという人もいるでしょう。
そこで、本企画では、海外で働いたことがあったり、今まさに海外でビジネス展開していたりする6名の公認会計士に、海外で働くリアルについて教えていただきました。きっと、今後のキャリアを模索するさいのヒントになるはずです!
今回は、「#アフリカ(ルワンダ)編」として、笠井優雅 先生(公認会計士)にご登場いただきます。
また、本シリーズは、#中国(北京・上海)→#シンガポール→#インド→#アメリカ(ニューヨーク)→#イギリス→#アフリカ(ルワンダ)と世界周遊気分を味わいながらご紹介します。ご期待ください!(全6回)
ルワンダに来たきっかけ
よく「なんでルワンダに来たのですか?」と質問されます。
これはもうシンプルで、妻に「アフリカに行かないなら離婚する」と言われたからです。
当初は「貧困をなくしたくて」と言っていた時期もありました。なんとなく響きがかっこいいので。
「では、貧困をなくすにはどうしたらよいか?」と深掘りしてくる人もいたのですが、こちらは響きで語っているだけなので、もちろんそれ以上は何も出てきません。
このように、実際のところは単なる脅迫から始まったのですが、実際に「自分がなぜアフリカにいるのか」を後発的に考えていった結果、アフリカにおける教育へのアクセスや医療サービスのレベル、雇用機会などにおいて、いろいろな課題を目の当たりにしていく中で、「これらをビジネスの力で少しでも改善していきたい」という気持ちになったのもまた事実です。
本記事では、アフリカで活動していくにあたって、さまざまな困難に直面している一方、発展途上国だからこそ得られるメリットもあるので、その辺りをご紹介します。
ルワンダのビジネス①~直面した困難
ルワンダのビジネスではさまざまな困難に直面します。
たとえば、会社閉鎖の代行業務を引き受けた時の話です。
当時、手続きに不慣れであった私は、現地の登記局や国税庁をたらいまわしにされ、最終的に、
「登記した村の村長に会ってこい」
という指示を受けました。
多少の違和感を覚えつつも、村長はどこにいるのかと聞くと、
「村長は、家にいる」
という天啓をいただいたのです。そこから旅は始まりました。
国税庁の担当者も、さすがに村長の実家はわからなかったようなので、とりあえずその村に行き、村長という未だ名前も知らないおじさんの家を探しに聞き込みを開始しました。
「村長はどこだ?」
村民は皆、怪訝そうな顔でこちらを見つめます。それはそうでしょう。
まず、村と言っても普通の住宅街。たくさんの一軒家が立ち並ぶ住宅街で、怪しいアジア人が自分の村の長の居場所を探っているのです。RPGの勇者のリアルは、かなりのメンタル強でないと務まりません。
しかし、たまに有力な情報をくれる者も現れます。「あっちだ」と言い、漠然と東を指すのです。
「あっち」というヒントだけでたどり着く異能には私はまだ目覚めておらず、ひたすら東の地を目指して歩いては途方にくれました。
約2時間歩き回ったところで、やっとたどり着いたのですが、家にいるはずの村長はおらず、後日改めて訪問することに。
そして、後日ようやく会えて、村長から署名を受け取ったのですが、その後にさらなる指示をいただきました。
「町長に会いに行け」
心の底から絶望したことを覚えています。
ルワンダのビジネス②~人材のレベル
人材のレベルについても話してみましょう。以前、関係していた会社の会計担当者が、「会計士の資格を取れた」と言うので、「おめでとう」と私は答えました。しかし、彼女は貸方と借方の概念をほとんど知りません。
他にも、現地企業としては規模が大きい、数億円の売上を有する企業を訪ねた時の話です。財務諸表上の売掛金の値がマイナスだったので、「これは何かおかしいのではないか?」と、10年選手のベテランCFOに聞きました。
すると、「売掛金は投資家からの資金の入金から材料等オペレーションで使用した費用を控除したもので計算しなければならない」とのアドバイスをいただくことになりました。
「このような状況だからこそ、私のような者の存在意義があるのではないか」と周りから言われることもありますが、「そもそも何が正しいか」をそもそも分からない人が多いため、特に歓迎されたことはありません。
ルワンダの生活習慣①~交通事情
私が現地において最もストレスを感じているのが交通事情です。
たとえば、ウィンカー。ウィンカーを使わないのであればまだしも、右折レーンにいる車が、右折のウィンカーを出しながら、左折してきます。
続いて、追い越し運転。カーブなのに80kmで追越しをかけてきます。
最後に、車間距離。60〜70km/hで走行中でも車間距離を詰められます。当然のことながら、徹底的なスッポンディフェンスを受けると、少しでもブレーキを踏むと追突事故になるのです。
無論、私も事故に遭いました。気がついたらガソリンスタンドへ突っ込み、同乗者は病院送り、借りていた社長の車を大破させた件は、今でもあまり笑えません。
ルワンダの生活習慣②~お手伝いさんの存在
このままだと悪い点ばかり書いてしまいそうなので、良い点もご紹介しましょう。それは、やはりなんといってもお手伝いさんの存在でしょう。
日本とは違い、こちらではお手伝いさんを雇うことが通常です。うちでは、基本的には3〜4人ほど雇っており、四六時中誰かが自宅にいるため、ここ数年皿洗いさえしたことがありません。ご飯も掃除も洗濯も洗車もすべてやってくれるので、夫婦ともに仕事に打ち込めるという意味では、これほど良い環境はないのではないでしょうか。
また、ルワンダでは、物価もそこまで高くはありません。もちろん輸入品などは高く、ティッシュは1箱200円以上するので、うかつに鼻をかめなかったり、チョコレートやポテトチップスなども日本の3倍以上は高いので、うかつにおやつを食べられなかったりはします。
でも、そこさえ自制すれば、基本的には生活コストは抑えられます。
最後に
ここでご紹介したことは、単なる一例に過ぎません。他にも、不透明な税制、簿記がわからない会計監査人、従業員などによる不正や訴訟、黒魔術、断水・停電、賄賂や強盗など、さまざまな困難がありますし、ここで書ききることは不可能なくらいです。
一方で、ここでは書ききれませんでしたが、アフリカの注目度は年々高まっており、将来のビジネスチャンスは確実にやってくるといえますし、やりがいという観点では異次元です。
アフリカに関わらず、海外では、日本ではないようなさまざまなことを経験できるので、是非、皆さんも海外に一歩足を踏み出してほしいと思います。
【執筆者紹介】
笠井 優雅(かさい ゆうが)
日本およびルワンダ公認会計士
慶應義塾大学卒業。資格の学校講師、監査法人、会計事務所等で勤務後、慶應ビジネススクール(MBA)修了。農業を営む現地企業でCFOとして活動する傍ら、アフリカ大陸初となる会計事務所Africa Accounting Advisory Groupを設立し、ケニア・ウガンダ・タンザニア・ルワンダ・ナイジェリア・南アフリカで運営。10年にわたるアフリカでの実務経験から、数多くの日系企業を支援。その他、日系企業の非常勤監査役、役員、CFO等を兼任。
<こちらもオススメ>
「海外で働く公認会計士のリアル」
▶︎「中国(北京・上海)編(津田 覚)」
▶︎「シンガポール編(林 竜太)」
▶︎「インド編(野瀬大樹)」
▶「アメリカ(ニューヨーク)編(吉井達哉)」
▶「イギリス(ロンドン)編(森 大輔)」
▶「アフリカ(ルワンダ)編(笠井優雅)」