森脇敏雄(北九州市立大学経済学部准教授)
【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!
最近、テレビやSNSなどを見ていると、人々がいかに将来の予想に関心を持っているかを強く感じます。
占い師が芸能人同士の交際を予言していたとか、例を挙げればきりがありませんね。
では、なぜ人は将来の予想に関心を持つのでしょうか。
それは言うまでもなく、「将来の結果が自らの損得に関係している」からです。
例として、ある企業の株式を購入し、将来に売却するという状況を考えましょう。
その企業の株価が上昇すること(将来の結果)を事前に予想できれば、株価の上昇分だけ資産を増やすことができる(自らの損得)ので、将来の予想に関心を持つという具合です。
このコラムでは、企業の将来をどのように予想するかについて考える、1つのきっかけを提供できればと思っています。
業績予想とはどのような情報なのか?
ある企業について、1年後の売上を予想するという状況を想定しましょう。
ここで、「売上=販売単価×販売数量」です。
よって、1年後の売上を予想する場合には、1年後の販売数量を予想し、売上の予想値を算出するのが一般的でしょう。
例えば、任天堂(株)(以下、任天堂)の場合、商品ごとの販売数量の実績値、 新作ゲームの販売予定といった情報を公表しているので、これらの情報を利用し、1年後の販売数量を予想する、といったイメージです。
この他にも、決算短信と呼ばれる書類に収録されている、業績予想と呼ばれる情報があります。
企業自身が1年後の業績を予想し、それを決算短信で公表しているのです。
図表1にある任天堂の場合だと、1年後の売上を1兆2,000億円と予想しているということになります。
1年後の売上の予想は「売上(予想値)=販売単価(予想値)×販売数量(予想値)」であるので、業績予想には、「1年後の販売数量に関する企業自身の予想」に関する情報が含まれています。
これらの情報を利用することで、より高い精度で、1年後の売上を予想できる可能性があります。
ただし、業績予想を利用する際には、次の点を理解しておく必要があります。
それは、業績予想はあくまでも「企業自身による予想」であるので、解釈には注意を要するということです。
どのような難しい問題があるのか?
企業自身が公表する業績予想には、楽観的な予想、悲観的な予想といった、ある種の「クセ」が存在すると言われています。
楽観的な予想とは、将来の売上を予想する場合に「高めに予想する」、悲観的な予想とは、将来の売上を予想する場合に「低めに予想する」というイメージです。
人間の性格でいうと、自信満々な性格と、控えめな性格という感じでしょうか。
ここで、コロナ禍における業績予想の特徴について言及したロイター通信の記事を紹介しましょう。
“コロナ禍に不透明感が増したことから、企業も予想について保守的な数値を出してくるとみられる。”
詳細は後編でお話ししますが、こちらの記述は、業績予想に存在するある種の「クセ」を指摘したものです。
このような「クセ」を理解することが、業績予想を適切に解釈し、利用していく際の鍵になると思っています。
次回の後編に向けて
以上、このコラムでは、業績予想とはどのような情報なのか、業績予想の利用にはどのような難しい問題があるのかという点について、簡潔に説明をしました。
あくまでも、議論のきっかけを提示したものとして理解してください。 次回のコラム(後編)では、業績予想の利用を念頭に、その特徴について、実例を活用しながら説明したいと思います。
(後編へつづく)
<執筆者紹介>
森脇 敏雄(もりわき・としお)
北九州市立大学経済学部経営情報学科准教授
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。
専門分野は財務会計。研究分野は資本市場に基づく会計学研究。特に、高頻度データを用いた利益・株式リターン関係の研究。
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