もう1年、会計士試験の受験勉強するときの「学習計画」と「お金問題」③アカスク編


滝沢凜(福岡大学助教)

会計大学院(アカスク)で臨む会計士受験を思い描いたことはありますか? もしかしたら上手くイメージが湧かないという方もいるかもしれません。本企画では、アカスク出身のモニカさんに大学院時代のお話を伺いました。

<お話を聞いた人>
モニカさん(ペンネーム)
公認会計士  
大学4年の冬に会計士の学習をスタート。大学卒業時点で日商簿記2級を取得。 私立の会計大学院に進学した後、1年次に短答式試験(12月)合格、2年次に論文式試験(8月)合格。 大学院修了後は監査法人に就職。
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アカスク進学の経緯

滝沢 まずは、アカスクに進学した経緯を教えてください。

モニカ 学部4年の時に会計士資格を取ろうと思いまして。で、もともと大学院の進学に興味があったので大学院の説明会に足を運んだ結果、会計士試験と一番親和性が高いと思ったのがアカスクでした。

滝沢 なるほど、学部4年の時に進学を決めたのですね。

モニカ はい。実は大学4年でみんなが就活を進める中、やりたいことを見出せていなかったんです。いろいろ考えた結果、公共の利益に資する仕事が良くなったのですが、公務員とかだと、就職した後自由に動きにくいかなぁと思いまして。選択肢の多い未来が欲しいと思った結果、公共の利益に資する、かつ自由さも備えた公認会計士を目指そうと思いました。

滝沢 大学4年の時点で、会計に関する知識は有していたのでしょうか?

モニカ 実は、大学4年の卒業式の時点で、日商簿記2級だけ有している状態でした。もし短答式まで受かっている状態なら、もしかしたらアカスクには進学していなかったかもしれません。とにかく、日商簿記2級だけで卒業してしまうのが心もとないので、いざとなったら大学院の新卒カードを使えるアカスク進学を選んだという側面もあります。

短答式科目免除制度

滝沢 続いて、短答免除制度について伺いたいと思います。率直に聞きますが、短答免除制度は「買い」でしょうか?

モニカ 私の場合、「新卒カードを手放すのが怖い」みたいな安全策の観点から、ありがたい制度だったと思います。
ただ、私は大学院在学中に受験に決着をつけたかったので、あくまで安心感、お守りみたいな感じでしたね。短答免除を使うことなく、自力で受かって在学中に終わらせたいとは思っていました。

滝沢 「お守り」とは、言い得て妙かもしれませんね。

モニカ そうですね、おまけとして短答科目免除がついてくるのはありがたかったです。しかも、仮に三振しても「大学院修了」は消えませんし。とはいえ、周りに三振した人は結局いなかったですね。

滝沢 周りの同級生の感じはどうでしたか?

モニカ 同級生の中には、短答免除を最初から決めている人もいました。その方は、アカスクの講義を楽しむというスタンスでしたね。直接的に会計士試験に関係しない科目も楽しんで、最終的に受かった人もいます。

「短答免除生、論文式受かりにくい説」は実際どう?

滝沢 自分が受験生の頃、「アカスクの短答科目免除制度を使うと、短答式は早く受かるけど、論文式はその分受かりにくい」という説を聞いたことがあります。この点はどう思われますか?

モニカ これは、気合による気がします。まず、短答式が企業法だけになるので、企業法が絶望的に苦手なら使わない方がいい。そして、短答式を突破できたとしても、「勉強できなくていいや」のメンタルになってしまうと合格できない。したがって大学院修了後の、「次の論文式受かるんだ」っていう気合が重要だと思います。

滝沢 短答免除制度を使った方は、最終的にみんな論文式に受かっているのでしょうか?

モニカ 当時私の周りに3人くらい制度を使っている方がいたのですが、2人は2年以内に受かっていました。もう一人は中には受験から撤退したそうです。人にはよると思うのですが、受かっている方もいらっしゃるので、「受からない」ということはないと思います。

滝沢 そういう意味で「気合い」が大事ということなんですね。

モニカ 論文式は記述試験なので、自分がどの水準にいるのかわかりづらいと思うんですよね。だから結局のところは気合、意思だと思います。短答式に受かって気が抜けちゃうと、租税法の学習に身が入りませんし。
あと、短答免除制度を使っても使わなくても、勉強すべき内容は変わらない気がします。途中に挟まっている短答式がちょっと楽かどうかってイメージですかね。

アカスクの講義ってどんな感じ?

滝沢 アカスクの講義は、どんな内容なのでしょうか?

モニカ 内容としては、講義・座学系のものや、企業・監査法人の提携講座、教授を囲むゼミ形式があります。基本的には、卒業にあたって学位論文も必要なく、講義形式も大学と同じだったと思います。

滝沢 会計士試験の出題範囲とリンクするものもあれば、しないものもあるといったイメージでしょうか。

モニカ そうですね。あと、短答免除科目というもがあるんですよ。短答科目免除って別に卒業すればもらえるわけではなくて、免除するために満たさなければならない要件というものがあって。該当する理論や計算の講義の単位を取得していくイメージですが、入学要項に書いてあることを慎重に読んでおく必要があります。

滝沢 なるほどですね。モニカさんは論文式に受かる前と後とで、履修の方向性は変わりましたか?

モニカ 私は1年目は短答免除科目に集中していて、座学の講義中心でした。2年目の8月に論文式試験が終わってからは、ゼミや提携講座を履修して、学生生活を謳歌していましたね(笑)。
試験とはあまり関係のない、事業再編やIPO、IFRSの講義を受けたりして。

滝沢 やはり、1年目は会計士試験との親和性重視なんですね。

モニカ そうですね、1年目は予備校との二足の草鞋の側面が強かったということもあります。短答免除科目は試験科目と被っているので、親和性も高いし免除科目だし、一石二鳥でした。
親和性が高いメリットとして、講義の課題で「会計制度の内容についてまとめる」みたいなものが出されたとき、図書館で調べることで予備校とは違う目線で会計科目を勉強できたことが挙げられます。
予備校の勉強だけしていると、どうしても暗記に走ってしまうので。

滝沢 大学院と予備校とでは講義のスタイルが違いますもんね。

モニカ たとえば連結会計の下書き(タイムテーブル)なんかは講師の「癖」が出ると思うのですが、大学院と予備校とで先生の書く下書きが若干ちがうんですよね。下書きを2パターン知ることができたのは、簿記学習に役立ちました。

補習所免除

滝沢 そういえば、会計士試験とは別に、実務補習所の単位取得免除というものもありましたよね?

モニカ ありましたね。いくつかアカスクの講義をとっていれば補習所の単位に変換できるみたいな。あれは、短答免除の講義とは別の講義だった気がしますね。公認会計士協会のHPで確認した方が良いのかな。2年生8月の論文式までは、補習所にまで頭が回っていなかったので、論文式が終わってから履修したように思います。

滝沢 アカスク出身の同期もその制度を使っていましたが、傍から見ていて、すごく羨ましかったです(笑)。

モニカ 大学院の時は意識してなかったのですが、振り返ってみるとたしかに恩恵にあずかっていましたね(笑)。

修了後、学位【会計修士(専門職)】は役に立った?

滝沢 モニカさんは会計士試験合格後、監査法人に就職されましたが、学位が役に立つことはありましたか?

モニカ 監査法人にいる分にはあまり学歴は関係ないじゃないですか。ただ、独立して何かやるとき、「修士号をもっています」ということで何か役に立つことはあるかもしれません。MBAであれば名刺にかける気がしますし。監査法人にいる分にはあまり関係ない気がします。

学費は?

滝沢 続いて、アカスクに進学するデメリットを伺ってみましょう。デメリットとしてまず「学費がかかること」が挙げられると思いますが、この点いかがでしょうか?

モニカ たしかに学費はデメリットの筆頭の気がしますね。デメリットの二番目は、「大学院1年目で会計士に受かった人にとっては、周りより正社員になるのが遅れてしまう」ことでしょうか。
お金と時間さえあればそんなにデメリットはない気がします。もし自分で学費を支払っていたら大変だったかな。学費に加えて、予備校代を支払うことになると思うので。

滝沢 モニカさんの周りで、学費を自分で工面していた方はいらっしゃいましたか?

モニカ 私のごく身近では聞かなかったです。予備校に行っていない方はいました。アカスクってイメージ的には学部とほぼ同じですので、「大学+予備校+バイト」ってなると、スケジュール的にどうしても厳しいものがありますよね。

滝沢 奨学金の制度は使っていましたか?

モニカ 奨学金はもらってなかったですね。給付の学内奨学金はあんまり聞いたことがなかったです。

受験に割く時間はある?

滝沢 「大学院は講義が多くて忙しい」というイメージを持つ受験生も少なくないと思います。この点はいかがでしょうか?

モニカ 普通の大学生と同じくらいの時間がとれるんじゃないですかね。一日講義で拘束されることはなくて、「一日に2~3講義、後は自習」みたいな。私はそんなに苦ではなかったかな。発表形式が多い講義をたくさんとっていたりすると、みんなで集まる分自分の時間は減るかもしれません。
逆に、「受験専念で一日中予備校」の方が、自分的にはきつかったと思います。大学院の講義があるおかげで学習のリズムは作りやすかったというか、適度に授業あった方がメリハリがつくと思います。

内部進学と外部進学の違い

滝沢 学部までと大学院からとで大学が異なるケースもあると思うのですが、内部推薦と外部進学とで何か変わることってありますか?

モニカ 入学後に、内部生と外部生で違いを感じることは特にありませんでした。互いに出身大学の話になったときに気が付くくらいです。内部生も外部生も分からないところは教え合って、協力して勉強していましたね。

滝沢 なるほどですね。アカスクの同級生で、外部進学者の割合はどのくらいでしたか?

モニカ 肌感覚としては、半分以上の方が他大出身な気がします。逆に、内部進学は「短答受かっているけどそのまま卒業してしまうのが怖い」という方が多かったと思います。

滝沢 ありがとうございました!

<まとめ>
全3回にわたる本企画では、①予備校アルバイト、②監査トレーニー、および③会計大学院の出身者にインタビューを敢行しました。その結果、これらの実態は必ずしも流説と一致しないこと、そして、当該制度はやはり会計士受験生を応援するものであることを感じました。 まずは「こうした制度の存在について知る」ことが、ゴールへ近づく大きな一歩であると考えます。

<執筆者紹介>

滝沢 凜(たきざわ・りん)  

福岡大学商学部経営学科助教
2018年、早稲田大学4年次に公認会計士試験合格(5月短答式・8月論文式)。2019年以降、大学院に在籍しながら、有限責任監査法人トーマツ・パブリックセクター・ヘルスケア事業部において監査業務に従事(2022年9月まで)。
2023年4月、福岡大学着任。同年8月、世界マスターズ水泳選手権2023九州大会出場。同年12月、公認会計士事務所タキザワプロ開業。
東京駅周辺エリアのお気に入りランチは、『陳家私菜 有楽町店』の麻辣刀削麺。

<滝沢先生のバックナンバー記事>

もう1年、会計士試験の受験勉強するときの「学習計画」と「お金問題」①予備校アルバイト編
もう1年、会計士試験の受験勉強するときの「学習計画」と「お金問題」②監査トレーニー編
受験生が知っておきたい! 決算書から把握する四大監査法人の特徴

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