TAC人気講師・宮内先生×平林先生のアドバイス! はじめての「企業法」をどう勉強する?(後編)


【編集部より】
秋スタートの公認会計士受験生の中には、はじめて法律科目を勉強するという人も多いのではないでしょうか。簿記のような計算科目の勉強とは異なり、条文の読み方や独特の表現などに慣れるところから始まるので、勉強の勝手がわからないということもあるそうです。
そこで本企画では、TAC企業法担当の宮内先生と成績・学習相談担当の平林先生による対談をお届けします。受験生からよく相談されるリアルな悩みを取り上げ、学習のヒントを探ります!

会社法を学ぶときの心構え

平林 前編では、はじめて企業法を勉強するにあたって、用語の慣れ方などについて伺いましたが、民法や他のいろいろな法律の中でも、商法・会社法ならではの特徴や学ぶ時のコツは何かありますか。

宮内 あまり悩まないことですよね。正直なところ、最初に勉強する法律が会社法というのは、少し不幸だと思うのですよ。

平林 どういうことでしょうか?

宮内 司法試験だったら、まず民法からスタートします。民法は、土地を売ったり買ったり、自転車を売ったり買ったりといった日々のいろいろなトラブルを解決しようというものです。

民法というのは、お金を払わない、土地を渡さないというトラブルに対して、100人にジャッジさせたら90人が同じ結論を出すような、つまり「いつの時代もこちらの勝ちだよね」という最終結論を、まるで数式から答えを導き出すようにできる法律です。

民法は2000年以上前からあるので、全ての制度なり理論つまり公式をきちんと理解して正しく組み合わせれば、ある事件について結論が出る…というように、基礎理論が長年にわたって構築されているのです。

でも、会社法は違います。ヨーロッパで株式会社が生まれてからでも400年くらいの歴史しかなくて、明治時代に日本に採り入れられてからも、大企業の要請や中小企業の要望という「大人の事情」なども影響して、いわばガラパゴス化していますから。

平林 会社法は、何か大きな出来事が起きた時に、大企業・中小企業の状況も様々踏まえて「どう手当てするか」という発想で改正を繰り返してきた法律ということでしょうか。

宮内 そうですね。民法だと、抽象的な理屈があってそれに具体的な事象をはめ込んで結論が出せるので、何か新しい事件が起こっても2000年前からある制度で解決ができるのですが、会社法の場合は、具体的な事象が先にあって後追いで制度を作ることが多いので、「どうしてこういう制度があるんだろう?」と、その必然性を真面目に考えても、なかなか理論的に説明できないことが多いのですよね。

平林 そうすると、会社法を勉強するときは理論的な一貫性はあまり追い求め過ぎず、1つひとつの制度に対して「うまくできてるな」「この状況だとたしかにこのルールがマッチするな」と少し割り切った捉え方で、現場で使う法律というイメージで勉強したほうがよさそうですね。

ある程度大らかな気持ちで取り組むほうが得意になるかもしれませんね。

宮内 そうですね。僕も今でも、研究論文などを読んで、「自分が少し違うほうに理解のベクトルが向かっていたんだ」と驚いたり、気付いたりすることがありますから、全てがすみずみまでわかるはずという姿勢で取り組むのはやめたほうがよいと思います。

受験対策としては、試験問題を見て、自分がテキストで勉強した制度をそのまま知識として出せるようにすることが、まずは大事です。

論文式も見据えて勉強するなら

平林 「短答生のうちから論文式に向けて少し種まきしておくとしたら、何をしたらよいですか」という相談もよく受けます。感動したりテキストの趣旨を理解・納得感をもつこと以外に、何かありますでしょうか。社会人受験生など時間の兼ね合いもあると思いますが。

宮内 大事な条文だけでも少し読む、本当にもうただ読むだけでよいです。

たとえば423条1項や831条1項といった重要な条文を何度も読んでみて、テキストに書かれているところと見比べて、条文に書いていない要件は何だろうといったように日々理解を深めておけば、論文式にとても役立ちます。

条文番号を見つけられるだけでも、論文式に向けてはかなり有利になりますから、会社法の条文の目次を参考にして、区切りとなる条文の番号をちょっと覚えるように努力するだけでもいいです。

平林 一つの条文をテキストで何ページにもわたって解説しているようなところは、それだけ重要な規定なんだな、これを後で使うのだなという感覚で条文を少し見ておく、それくらいの種まき程度で今は十分でしょうか。

宮内 それでよいと思います。短答式ではどうしても網羅的に問われるので、注意力が分散してしまうのは仕方がありません。論文式対策としてその重要性を分けていくことは、短答式の後でかまいません。

毎日継続

平林 先ほど、「入門期は企業法より計算科目が大事」と仰っていましたが、例えば社会人受験生で平日の勉強時間が3時間半しか取れないといった時に、企業法にどこまであてるかを悩む人も多いです。

私からは、「特に講義の翌日、できれば毎日5分でもいいから復習してください」とお伝えしているのですが、宮内先生でしたらどのようにアドバイスされますか。

宮内 もしやるなら、講義で重要度に応じて二重丸や三重丸をつけているので、その部分に少しでも時間をあてるとよいですね。できれば毎日勉強時間が3時間半とれるなら、企業法を最低でも10分やってほしいし、できれば30分勉強できればベストです。

講義でも、「企業法は毎日継続、でも時間配分が大事」だと伝えています。

企業法って時間をかければ絶対にできるはずなんですよ。司法試験受験生だって、商法の勉強はそこまでやらないと思います。今は僕の受験当時よりも条文数が10倍程増えましたけど、電車の中で勉強を済ませるというイメージですから、とにかく毎日継続、1日最低でも10分勉強がポイントだと思います。

仕事もそうですけど、3日も放っておくと「で、何やるんだっけ?」と確実に忘れてしまいますよね。1週間前の状態に戻すのに30分ぐらい時間がかかり、とにかく効率が悪いです。

だからこそ、短時間でもいいから毎日。あまり進まなくても気にせず、続けていくことが大事だと思います。

平林 入門期は完璧主義を求めず、ひとまず毎日5分でも10分でも続けて、「なるほど」とか納得感などのイメージを大事にすることが得意になるコツということですね。

宮内 そうですね。そして、時々は30分くらいの勉強をしましょうね。「今日、企業法の勉強をしていなくてちょっと気持ち悪いから、1分だけでもテキストを開こうかな」というように、毎日勉強する習慣をつけることが大切ですね。

平林 財務理論も同じで、理論科目は、頻度を上げるだけで成績が上がる人は多いですよね。

宮内 そうなのですよ。素質がある人は多いです。極論、誰かが後ろについて勉強への強制力を高めればできるのかもしれませんが、そういうわけにもいかないので、なんとか自分でその環境を作ることが大事だろうと思います。

平林 洗面所にテキストを置いておいて、歯磨きの時に必ず開けるようにするというかたもいらっしゃいます。あまりやる気がなくても自然と取り組めるように、工夫が大事ですね!

(おわり)

【対談者のプロフィール】

宮内 康浩(みやうち・やすひろ)

1962年、徳島県南部の小さな漁村で出生。大学入学で上京し、1986年、司法試験合格。翌1987年に一橋大学法学部を卒業した後、2年間の司法修習を終了。1989年4月に弁護士登録をして現在に至る。20年以上前から弁護士業務を休業し、資格の学校TACで講師を務める(現在は公認会計士講座企業法・民法を担当)。犬(クララ)と猫(レモン)を飼育中。

平林 黎(ひらばやし・れい)
平林
TAC会計士講座講師(財務会計論-理論、個別成績/学習方法相談、質問対応、オンラインセミナー担当)。
1986年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。体調を崩し、会計士受験を一度撤退。2014年独学で保育士資格取得後、会計士を再度志す。2016年論文式試験に合格し、現職。2020年以降、オンラインでの相談対応・セミナーを開始。下記SNSで主に受験生・合格者に向けた情報発信を行っている。
・Xアカウント(@hirabayashi_tac
・Instagram(hirabayashi_tac

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