TAC宮内先生に聞く! 条文を楽しく学べる “薄切り六法”「超」活用法


宮内康浩(TAC公認会計士講座企業法講師・弁護士)

【編集部より】
公認会計士試験は難関資格ゆえに学習範囲も膨大で、使用する教材も相当な分量になります。それらをいかに活用するか試行錯誤しながら、自分の勉強法を確立していくことになります。できるだけ無駄なく良い方法を知りたいなら、いつの時代でも良いと言われる方法から試してみるのが一番かもしれません。
そこで今回は、宮内康浩先生(TAC公認会計士講座企業法講師・弁護士)に“薄切り六法”なる教材活用法について教えていただきました。公認会計士試験の企業法対策としてはもちろん、税理士試験受験生が『会計法規集』や『税法法規集』を活用する際にもきっと参考になるはずです!

“薄切り六法”とは?

「“薄切り六法”の必要性や使い方、作り方を書いてもらえませんか?」

最初は「こんなテーマ、需要あるのか?」と思いましたが、編集部の方から「勉強を始めたばかりの受験生で知らない人もいるのではないか。」とお聞きして、「こんな素晴らしいことを知らない人がいたら大変だ!」と思い、こんなこと(?)を毎年受講生に作り方まで伝授しているのは私だけかもしれないので、引き受けることにしました。

「薄切り六法」とは、六法の必要な部分だけ切り取って薄くしよう…というお話です。この記事を読んで「自分もやってみよう」ともし思ったら、あなたは合格に近づいたと、私は思います。
20年以上の講師人生のなかで、私の口車に乗ってやってみたものの後述する作業に失敗して落胆した方を何人も見てきましたが(笑)、みなさん合格して元気に公認会計士として活躍されています。
「役に立ちそうなことは(違法でない限り)何でもやる」という姿勢がきっと大切なのでしょう。

ただ、本を切るとか、不要な部分を捨てるとか(保管してもいいですが)、何てことを指導しているんだ…と批判を受けたこともあります。いろいろな価値観があって当然です。

薄切り六法のメリット(使い方)

たとえば、公認会計士試験の「企業法」では有斐閣の『ポケット六法』や三省堂の『デイリー六法』などを日頃の勉強の際に使うのですが、これが5cm位あって分厚いし重い…。受験勉強で必要な法律はそのうちの一部です。だったら、必要な法律だけを切り取って薄くしよう…という単純な動機です。

メリットその1:普段から持ち歩いて開いて条文を読むようになる

後述のように2cm位の厚さにすることを推奨しているのですが、これだと薄くて軽いので、普段から持ち歩いて開いて条文を読むようになります。「薄切り六法は普段から持ち歩いて開いて条文を読む」ためのものなのです。

客観的にはこのメリットが最も大きいことを、その科目が得意科目になる過程で、身に染みて分かります。専門学校などの「テキストは条文の解説である」ということの意味が「からだ」で理解できるようになると、不安定だった得点も安定してきます。とくに公認会計士試験「企業法」の論文式試験のように、問題を解く際に六法を見てよい試験では、なおさらです。

スマホの六法アプリで使いやすいものもたくさんあります。ただ、少なくとも受験中は、できる限り、紙の六法を読んだほうがいいと、現状では考えています。

法律はあっちこっちの条文がつながっていますから、それらの関連性を「鉛筆やマーカーで確認しながら何度も読む」のは、現状では紙のほうが優れているからです。何ページか離れた条文を「指でつまんで何度もあっちこっち確認できる」直感的な便利さは、まだ紙に軍配が上がるでしょう。

メリットその2:愛着が湧いて法律の勉強が楽しくなる

やってみると分かるのですが、薄切り六法って、結構可愛い(笑)。愛着が湧くと、企業法の勉強が楽しくなるじゃないですか。試験勉強を楽しくする方法は滅多にない(?)ので、やる価値は絶対にあります。

主観的にはこちらのメリットのほうが大きく、勉強が少しでも楽しいと感じられれば、勉強を継続できる可能性が高まるはずです。「薄切り六法があれば六法を開きたくなる(企業法の勉強がしたくなる)」そんな感じです。だから私も挫けず毎年、入門クラスの受講生に紹介しています。

私は、30年以上前の司法試験の受験時代は何種類かの薄切り六法を作っていました。憲法・民法・刑法の組合せだと5mm位で、文字どおりポケットに入るので、電車の中でよく読んでいました。弁護士時代は中断していましたが、専門学校講師になって再開し、20年以上毎年新しい六法の出版を楽しみにしています。いまは自宅用と講義用で2種類の六法を薄切りして楽しんでいます(笑)。

デメリットは、書籍を切り裂くことの罪悪感とか、面倒くさい、といったところでしょうか。それと、公認会計士試験の受験生は、短答式試験合格後は、論文式試験のために『公認会計士試験用参考法令基準集』(財団法人大蔵財務協会)を使うようになるので(これは薄切りしません)、結局、最後は使わなくなってしまいます。

それでも、短答式試験合格までの期間をできる限り短くしたいなら、使用する期間の長短に関係なく、薄切り六法の価値は大きいと思います。

薄切り六法の作り方(前提編)

公認会計士試験の企業法を例にして、薄切り六法の作り方を紹介します。

「企業法」という試験科目は、「会社法」を中心とした以下の法律典が試験範囲です。

(1) 会社法(学習の中心。会社法施行規則・会社計算規則も必要)
(2) 商法(商法総則・商行為が試験範囲)
(3) 金融商品取引法(略して「金商法」。「企業内容等の開示」等に関する部分が出題範囲)
(4) 社債、株式等の振替に関する法律(略して「社債株式振替法」)
(5) 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(略して「整備法」)
(6) 民法(ときどき使用する)
(7) 手形法、小切手法(試験範囲外。少しだけ使う)
(8) 非訟事件手続法(試験範囲外。少しだけ使う)

以上があればいいのですが、あまり厳密に切り取るのは時間がかかりますから、ある程度まとめて切り取りましょう。
たとえば、『ポケット六法 令和6年版』(有斐閣)の場合でいえば、以下の2つの部分を切り取ればいいです。
なお、『ポケット六法』(有斐閣)や『デイリー六法』(三省堂)は、毎年9月下旬に翌年度版が出版されます。できる限り新しい年度のものがいいです。

(1) P399~P1192(「民法」「商法」「会社法」等の部分)
(2) P2010~P2061(「金融商品取引法」の部分)

上記(2)の部分は数ミリ程度しかなく、早く切り取ろうとして(破ってしまうなど)失敗する人が多いですから、後述する方法で焦らずゆっくり切り取ることが肝要です。

ちなみに、面倒な方は上記(2)の部分を含めて『ポケット六法』の最後までを使ってもいいです。5ミリ位厚くなりますが、失敗は少なくなります。

ここで失敗し、落胆してご報告に来る受講生が多いのですが、大丈夫です。TACの相談担当(財務理論)の平林先生は「金商法は綴じなかった」と仰っていました。なるほど、その手があったか…!
多くの受講生は短答式試験の勉強に際して金商法の条文はほとんど見ないし、論文式試験に向けては前述した『公認会計士試験用参考法令基準集』に金商法も掲載されていますから、金商法はなくても問題はないでしょう。

薄切り六法の作り方(実践編)

では作りましょう。

まず用意するのは、六法以外は、カッター、木工用ボンド(速乾性のものがおすすめ)、テープ(荷造り用の強力なものとメンディングテープの両方があるといい)、ティッシュなどです。

  • まず、前述した必要な部分をカッターを使って切り離します(上記2つの部分の厚さは2cm程度。元は5cm程度)。
  • 次に、表紙を適当に加工(再利用します)して荷造り用の強力なテープを使って適切な厚さの外枠を作ります(もし失敗したら、適当な紙で外枠を作ればよい)。
  • そして、その外枠に前述した必要な部分を木工用ボンドを使って挟み込みます(あふれるボンドを丁寧にティッシュなどで拭き取る)。
  • 一晩置いておけば、木工用ボンドが透明に乾いて、薄切り六法の出来上がりです。メンディングテープなどを使って、はがれそうな部分を強化しておくとよいでしょう。

それから、会社法や民法は小口(背表紙の反対側)の部分にすでにインデックスがあるからいいのですが、会社法施行規則などはすぐに開けるようにインデックス代わりにマーカーで色付けをしておくと便利です。

理解が深まり、条文の操作ができるようになる

法律科目の勉強に際しては、時間の許す限り六法を見るようにしてください。とくに会社法などは技術的な要素が強い法律ですから、理解が深まり条文の操作ができるようになると、「あれ、私ってプロっぽい」と思えるようになります。そんなことを感じ始めたら、きっと次の試験は合格します。

薄切り六法はきっとそれを手助けしてくれると思いますよ。
40年前の受験時代の薄切り六法、憲法・民法・刑法の5ミリバージョンだけ、いまも私の書斎にありますから。

宮内先生が司法試験受験時代に使っていた
“薄切り六法”(現物)

<執筆者紹介>
宮内 康浩(みやうち・やすひろ)

1962年、徳島県南部の小さな漁村で出生。大学入学で上京し、1986年、司法試験合格。翌1987年に一橋大学法学部を卒業した後、2年間の司法修習を終了。1989年4月に弁護士登録をして現在に至る。20年以上前から弁護士業務を休業し、資格の学校TACで講師を務める(現在は公認会計士講座企業法・民法を担当)。犬(クララ)と猫(レモン)を飼育中。


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