【編集部より】
この秋から、簿記検定や公認会計士試験の受験勉強をスタートするという学生・社会人も多いのではないでしょうか。国家資格には興味があるけど一歩踏み出せない人から、簿記検定の勉強からステップアップしたいと考え始めた人まで、さまざまな思いがあるはずです。
そこで、LEC人気講師の影山一人先生(公認会計士講座)と種田有紀先生(日商簿記検定講座)に、資格試験の勉強法について横断的に伺いました!(全3編構成)
小さなモヤモヤをスッキリ解消して、勉強に向かうきっかけになるはずです。
会計士受験の前に簿記検定は受ける? 受けない?
―今回は「簿記検定から会計士試験へのステップアップ」をキーワードに、LEC人気講師の影山一人先生(公認会計士講座)と種田有紀先生(簿記検定講座)にお話を伺います。
種田先生には以前にも会計人コースWebにご執筆いただいたことがありますが、LEC東京リーガルマインド簿記講座では普段、どのような受験生に教えていらっしゃいますか。
種田先生 高校生や大学生から60代、70代の方まで幅広いです。皆さん、簿記検定の合格を目指していますが、「合格後にはさらに別の資格も取りたい」と考えている人も多いですよ。
簿記はいろいろな資格につながるので、取得後の広がりが多様で、たとえば、税理士や公認会計士のほか、FP(ファイナンシャルプランナー)や宅建士、中小企業診断士などの試験について聞かれることがよくあります。
今回のテーマで言うと、「公認会計士の勉強を始める前に簿記検定を取得したほうがよいか」と聞かれることもよくありますが、影山先生はどうアドバイスしていますか。
影山先生 そうですね。正直なところ、「公認会計士を目指すこと」が最終目標なら、わざわざ簿記検定を取ってから公認会計士試験の勉強を始める必要はないと個人的には思っています。
ただ、「簿記の適性があるかどうか」を確かめるために簿記3級をとるのはよいのではないでしょうか。
簿記の勉強を全くしたことがない人が、いきなり公認会計士講座に申し込むとなると、受講料もかかるうえ、もし適性がなければ、勉強自体が苦痛になってしまうので、まずは検定で簿記の雰囲気を自分なりになんとなく感じてから、会計士受験を本格的に始めるというのはよいと思います。
結局は、「最終目標をどこに置くか」ですね。
種田先生 私もそう思います。
簿記講座の受講生を見ていると、最初は気軽に簿記の勉強を始めたけど、合格できたことが嬉しくなって、次のステップ、さらに次のステップと、だんだん難関資格を目指す人も多いです。
中には、簿記検定2級に合格した後、公認会計士試験に興味が出てきて、「簿記1級に進むか、公認会計士試験に進むか」を悩む人もいるのですが、影山先生ならどちらをお勧めしますか。
影山先生 これも先ほどと同じで、「公認会計士になりたい」というビジョンがあるなら、間違いなく会計士受験を始めるほうをお勧めしますね。
もし簿記1級をとってから会計士の勉強となると、受験対策上は少し二度手間なところもあるので、簿記1級はスルーしてよいと思います。
逆に、そこまでのビジョンがなければ、会計士試験は中途半端な覚悟で達成できる試験ではないので、とりあえず簿記1級を取るという選択になるでしょう。
種田先生 実際、公認会計士講座をとるかどうかを悩んで、簿記検定講座を受講している人もいます。その中には、結果として会計士受験生になる人もいますし、会計士受験生にも自分の小さな目標として簿記1級を受ける人もいますよ。
―そのように、途中で最終ゴールが簿記検定から公認会計士試験にステップアップした場合、勉強に対する意識改革としては何が必要ですか。
影山先生 まず、公認会計士試験と簿記検定とは「難易度」も「学習量」も格段に違います。それだけの覚悟とエネルギーと時間を割いてでも得る資格であることを念頭に入れて、「検定試験とは違う」という強い姿勢で取り組んだほうがいいと思います。
簿記の勉強法は、それ自体はさほど変わりませんが、科目が格段に増えることや理論のウェイトを考えると、早い段階で計算力を仕上げたほうがよいです。
時間配分に気をつけて、バランスをとりながら勉強する必要がありますね。
独学で挑戦するならどんな勉強がオススメ?
―公認会計士試験に「独学」で挑戦する人も、少数派ですが一定数いますけれども、目安として、簿記検定と公認会計士試験の学習量はどれくらい違いますか。
影山先生 個人的には、独学というのは特殊な場合であって、正直、時間がかかってしまうのではないかなと思います。
簿記検定1級までなら市販教材をある程度揃えられますが、公認会計士試験対策になると市販教材がほとんどないのが難しいところですね。
学習量で言うと、公認会計士試験の会計学(計算)だけを念頭に置けば、直感的には、その7~8割程度を簿記検定1級でカバーしているといえます。
ただ、会計士試験は簿記以外の試験科目もあるので、全科目と比較すると、簿記1級のボリュームは半分にも及びません。
簿記3級は、多く見積もっても会計士試験の5%もありません。簿記3級を20回受験するよりも、公認会計士試験を1回受験するほうが、断然大変なことだと思います。
種田先生 私の知人に、公認会計士試験に独学合格した人が2人いますが、その方たちは、簿記1級に合格した後に、自分で書籍を揃えて勉強したと言っていました。
インプットは市販書籍を用いて、他に模試は専門学校で受けたと聞いたことがあります。
簿記1級までクリアしていると計算力もしっかり身につきますし、計算が強いと公認会計士試験にも絶対に有利ですよね。
影山先生 それは言えますね。計算は仕上がるまでにかなり時間がかかるので、そこを得意にしておくことを考えると、簿記の勉強はよいと思います。
―簿記検定3級、2級に仕訳を覚えただけで合格できた人は、1級やそれ以上のレベルになったときに壁にぶつかると聞いたことがありますが、本当ですか。
種田先生 それは実は、簿記3級から2級でもありますよ。
たとえば、2級ではじめて工業簿記を勉強するとき、「借方差異とあるのに、どうして貸方に書いてあるのですか?」という質問を受けることがありますが、たいてい簿記3級を丸暗記しているケースです。
おそらく、独学で仕訳を覚えてしまっていて、帳簿上の結びつきや勘定の動きを正しく理解できていないのだと思います。
会計士受験レベルだと、もっといろいろなケースがあるでしょうね。
影山先生 結局、簿記2級に「理解を積み上げて受かった人」と「暗記中心で受かった人」だと、会計士試験の学習スタート地点でそのレベル感が違ってきますね。
理解を積み上げられた人であればよいのですが、そうでない人はむしろ簿記3級レベルの基礎編から復習したほうがよいです。
そもそも、きっと問題集が全く解けていないと思うので、自分を甘やかさずに、いったん戻ること。そうでないと、その先に進めません。
(中編に続く)
<お話を聞いた人>
影山一人(かげやま・かずと)先生
LEC東京リーガルマインド公認会計士講座専任講師
平成21年 公認会計士試験合格。LEC専任講師として、公認会計士講座の短答講座から論文講座まで、全範囲におよぶ財務会計論を担当。講義外においても、丁寧な質問・相談フォローで、受講生から厚い信頼を得ている。柔道二段。
種田有紀(たねだ・ゆき)先生
LEC東京リーガルマインド日商簿記検定講座専任講師
大学在学中に日商簿記検定1級合格。在学中は大手資格予備校での教室運運営などに従事。卒業後は、会計事務所勤務中にセミナー講師や内部統制の相談、クライアントの経理指導等を経験。その後、商工会議所の教室で日商簿記検定講座や日商PC検定を含むパソコン講座で受講生の学習指導・サポートを経験。現在は株式会社東京リーガルマインドの専任講師として日商簿記検定講座を担当。
Xアカウント:種田有紀(@boki_taneda)・#たねだぼき(@tanedaboki_now)