🍂読書の秋がやってきた!木下岳人先生(弁護士)がオススメする課題図書📚


【編集部より】
読書の秋ですね。本を読むのにぴったりな季節、「何かオススメはないかな~」と探している人もいるのではないでしょうか。
そこで、本企画では、学者・実務家などの読書愛好家から、会計人コースWeb読者の皆さんにオススメする「読書の秋の課題図書」をご紹介いただきました(1日お一人の記事を順不同で掲載します・不定期)。
受験勉強はもちろん、仕事や人生において新しい気づきを与えてくれる書籍がたくさんラインナップされています。ぜひこの機会にお手にとってみてください!
今回の記事では、木下岳人先生(弁護士)に課題図書をお薦めいただきました!

この特集を読む方の多くは会計・税務系の資格の受験者の方かと思いますので、試験勉強の息抜きにさくっと読める本を4冊ご紹介します。

どれもざっと通読するのであれば2時間とかかりませんが、どの本も「読む」楽しさと「学ぶ」楽しさを一緒に味わえる名著だと思います。ぜひご一読ください!

オススメ書籍①『編集者にもわかる租税法律主義って?』(髙橋貴美子、中央経済社)

本書は、ざっくりいえば近年の税務判例を題材に、裁判所の条文解釈のおかしなところを指摘する、という本です。といっても判例の批判にとどまらず、その過程で条文解釈の奥深さがしっかりと読み手に伝わるような配慮がなされており、とてもユニークな味わいの1冊に仕上がっています。

この本の特にすごいところは、ただでさえ難しい税法を題材にしながら、一方ではその分野の予備知識がない方でも完読できるような明快さと、他方では実務の(≒課税当局、裁判所の)税法解釈に通底する問題点に切り込むレベルの高さを両立しているところで、まさに看板(タイトル)に偽りなしの名著だと思います。条文の読み方や解釈の技法は簡単そうに見えてなかなか奥が深く、それを題材にした良書は他にもありますが、税務や税法に少しでもご縁なりご興味がある方にとっては、これほど楽しく読める1冊はないのではないでしょうか。

なお、切り口こそ全く異なりますが、「税法の読み方」に焦点を当てた実務本として『そうだったのか! 組織再編条文の読み方』(中央経済社・2018年)という名著が存在するのでご紹介します。組織再編税制自体は頻繁に改正されますが、この本の魅力は全く色あせません。

オススメ書籍②『図解&ストーリー 「資本コスト」入門 改訂版』(岡 俊子、中央経済社)

この春に東証が要請文を公表したこともあり、今や上場会社の経営において欠かせない要素の1つになりつつある資本コストという言葉。私はといえば(お恥ずかしながら)「なんとなく分かるが、なんとなくしか分からない」という状態が続き、数年前のある日、ちゃんと調べてみることにしました。

ところが、検索エンジンで検索すると定義や計算式は出てくるものの、「それで、結局何なのか?」という感が拭えず、どうにも腑に落ちません。そんなときにたどり着いたのが本書であり、資本コストとはいったい何で、その計算式の意味はいかなるものであり、企業経営においてどのように使われているのか等、非常に丁寧かつ明快に解説されています。

資本コスト以外の重要な財務上の数値や概念についても痒いところに手の届く記述があるため、M&Aに興味がある若手の弁護士には本書の一読を強く勧めていますし、私自身、これまで何度も読み返しています。

やや大げさかもしれませんが、平面的な知識であれば検索エンジンやChat GPTの力を借りてお手軽にアクセスできてしまう(あるいはそのように錯覚してしまう)時代だからこそ、本書は実務経験豊富なその道の第一人者による書籍の価値を再認識させてくれる、非常に印象深い1冊です。

なお、同じ著者の姉妹本として『図解&ストーリー 「子会社売却」の意思決定』が最近発売されました。M&Aでは、どうしても「買う」という行為に注目が集まり、各種の専門書も買い手側の実務や戦略を取り扱うもの多い中で、本書は売り手側、その中でもとりわけ難しい子会社売却というテーマに焦点をあてた本です。非常にリアルで分かりやすい解説は「資本コスト入門」と同様であり、こちらもおすすめです。

オススメ書籍③『泉佐野市税務課長975日の戦い ミッションインポッシブル ―関空連絡橋に課税せよ!』(竹森知、文芸社)

泉佐野市というと、大胆なふるさと納税政策とそれに起因する国との裁判で一気に全国区になった自治体ですが、実は過去にも課税をめぐって国と本気の交渉を繰り広げています。それが関空連絡橋の利用税の問題です。

国が連絡橋を国有化したことによって、それまで市の財源となっていた固定資産税が得られなくなった泉佐野市。市は、代替の財源として、連絡橋への課税を検討しますが、国(総務省)、自治体(大阪府)、特殊会社(NEXCO)、民間(関空)と様々な関係者の利害が絡み一筋縄ではいきません。

本書は、この問題に最前線で取り組んだ当時の泉佐野市の職員の方による顛末記です。市の奮闘と関係各所との交渉をはじめ、手に汗握る展開こそが本書の最大の魅力ですが、地方税法上のみなし課税をはじめ税法上の議論も随所に出てきます。

さて、泉佐野市は関空連絡橋に課税できたのでしょうか?

オススメ書籍④『法学部生のための小論文教室』(古田裕清・森 光 編著、中央経済社)

私が法学部生だったのはもう10年以上も前の話、小論文も久しく書いていませんが、先日の出張で新幹線に乗った際、新大阪駅から東京駅までの2時間30分、この本に没頭しました。

本書は、全15章で構成され、1章につき1~3つ、最近の実社会で問題となったor今も問題となっている事例(いずれも何らかの形で法律に関するもの。たとえば東日本大震災の大川小津波訴訟、ブロックチェーンや先端技術の規制法等)を取り上げ、その事例を通じて、「法制度とは/法解釈とはどうあるべきか」という問いを投げかけます。その意味で、本書はいわゆる「小論文の書き方」を技術的に説く本とは対照的な、骨太・肉厚の本です。

「法学部生のための」と銘打ちながら、法学部生でなくても十分に楽しめる内容になっているのが本書の魅力だと思いますし、他方で学部生を意識していることもあってコラムやリファレンス(参考文献)が充実しているのもありがたいです。

<執筆者紹介>

木下岳人(きのした・たけと)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
大阪で弁護士をしています。企業法務を中心に、中でも倒産・事業再生や、公開買付け、M&Aに関する案件を多く手がけています。2016年から2019年まで、税務大学校(国税庁職員の方々の研修所)で講師をしていました。趣味は本屋さん巡りと、お酒を飲みながら法律系の雑誌や本を読むことです。


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