【編集部より】
会計人材としてのキャリアをどう積んでいくか。「試験合格」を目標に日々、勉強に励む受験生にとって、ゆっくり振り返る時間はそう多くありません。
そこで、このたび重版することになった『会計人材のキャリア名鑑』(中央経済社)の筆頭執筆者であるCPAキャリアサポート株式会社代表取締役の中園隼人氏に、今年の採用活動の動きなどについて、監査法人編・税理士法人編・一般事業会社編の3パートにわけてお聞きします。
一般的な採用スケジュールと最近の傾向は?
Q 会計人材として一般事業会社を志望する場合、どのような選択肢がありますか。
大手企業の親会社クラスであれば、まず新卒の定期採用があり、中途採用はエージェントを通じたり、採用ホームページで募集したりします。子会社クラスや中小企業、オーナー企業になれば、欠員補充で採用をするケースも多い一方で、成長を続けているスタートアップのような企業は通年採用をしていることもあります。
大手上場企業の経理職は未経験の場合、高学歴の大学新卒でしかなかなか入社できません。例えば専門学校や商業高校卒業の人が、資格試験から撤退するからといって大手上場企業に入れるかというと、そう簡単なことではありません。
一方で、スタートアップ企業に入社すればゆくゆく上場企業になるかもしれない、しかも爆発的に伸びるかもしれない、その流れがトレンドになれば、その人たちの活躍の場はどんどん広がるし、ますますスタートアップが盛り上がると思っています。
そういった意味では、間違いなくスタートアップ界隈は加熱しているということを感じています。ただ、まだまだ受給バランスが整っていないので、それさえ整えば、会計人材も型にはまらない輝き方をする人がもっと増えるのだろうと感じています。
Q 採用活動の一般的な流れはありますか。
会計人材の転職時期でいえば、6~7月の夏のボーナス後、12月の冬のボーナス後から人が動く傾向があります。たとえば、12月に辞める人は1~2月頃に転職先に入社して、3月決算で4~6月が繁忙期で開示や株主総会対応をする。そして、また夏のボーナスが出た後に人材が動くというサイクルです。
だいたい監査法人の人材が動く時期と似ていますね。というのも、やはり会計人材にとって切っても切り離せないイベントが「決算・開示・監査・申告」です。それらのイベントをすり抜けるように転職活動をする人が多いからです。
会計人材はもともと責任感の強い人も多く、お金に関わる仕事なので適当な人という印象も与えたくありません。採用側も、「この忙しい時期に応募してくるのは、何か特別な事情があるのか?」と思うでしょう。
なので、入社時期も比較的落ち着いた時期が多く、普通は内定から1~3カ月後、長くても半年後までが一般的です。ただ、人手不足ゆえにそれがどんどん長期化しているのも事実で、「9カ月先でもいいよ」というところも出てきています。しかし、その場合はその間に内定辞退ということもあって、採用側としては採用をストップしているので痛手です。採用や転職支援の裏側を見るといろいろありますよ。
Q 最近の採用活動におけるブームはありますか。
やはりコロナの影響でリモート面接が増え、直接会わずに採用になるケースも出てきています。それがよいという会社もあれば、やはり会ってから採用しておけばよかったというケースも聞かれます。これについてはどちらが良い悪いではなく、リモート面接が増えたことで、採用のハードルが下がり、転職活動がしやすい時代になったと思います。
採用面接がだいぶ活発に行われるようになった一方で、コミュニケーションの質は下がっているかもしれません。そのため、本当に良いキャリア選択ができたかどうかについては、今後の課題になりそうです。
仕事もフルリモートでOKという会社も増えましたし、それによってうまくいっている企業も増えた可能性があります。特に地方ではオンラインをうまく活用して採用力を高めている会社もありますし、そうでないところは取り残されていくでしょう。
社会人こそ「自己分析」が大事!
Q 自分らしいキャリアを選択するヒントはありますか。
まず言えることは、受かる・受からない関係なく、公認会計士試験や税理士試験の勉強をしてきた人には「会計人材としての市場価値がある」ということです。だから、ある種の売り手市場に容易に持ち込めると思います。これまで、専門学校が試験の不合格者や撤退組のサポートをしてこなかっただけで、私たちのようにその人たちのサポートに注力すると、喜んで採用していただくことができています。
だから、自分が勉強してきたことをぜひ誇りに思ってほしいです。相当な時間をかけて受験勉強したけれど、何の市場価値も得られなかったなんてことは絶対にありません。
これは受験生にとってすごくハードルの高いことかもしれませんが、合格がゴールになっている人がやはり多いと思います。しかし、資格は取ってからがスタート。その後、「何をやりたいか」をよく考えられている人のほうが世の中からは求められやすいです。
Q 具体的には何をすればよいでしょうか。
そこで非常に重要なのが「自己分析」です。たとえば、会計人材が事業会社を志望する場合、経理職や財務職、経営企画職という職種で選びがちですが、それ以上に大事な視点は「何の事業をしているのか」です。
「ものすごく盛り上がっていて、財務体質もよい会社があってそこに入れますよ、未経験で年収600万円出しますよ」といって飛びついてみたら、自分に全く興味のない事業の会社だったらどうでしょうか。たとえば、自動車好きではない人が自動車メーカーの経理を担当しても、仕事が面白いとは思いにくいのではないでしょうか。
だから、事業会社の場合であれば「その企業が何のために存在しているのか」、プロフェッショナルファームの場合であれば「どんなお客さんの、どのような課題に対して答えているのか」を考えるとよいと思います。
だから、「なぜ自分がその会社に行きたいのか」、「どういうサービスを提供したいのか」といったことを深掘りするために、「自己分析」が必要なのです。自己分析というと、一般就活をする学生がするものだと思われますが、「人生を豊かに歩んでいくため」、「自分らしい人生を歩んでいくため」に取り組むものです。
「社会人になってから自己分析なんてしないでいいや」と思っている人は山ほどいますが、会計人コースWebの読者の中には、社会人受験生の方もたくさんいると思いますので、今一度、自己分析をして自分の人生を豊かに生きるための方法や大事な要素をぜひ見失わずに、受験勉強を頑張ってください!
―ありがとうございました!
(全3回おわり)
<お話を聞いた人>
中園隼人(なかぞの・はやと)
CPAキャリアサポート株式会社代表取締役
早稲田大学大学院卒業後、2003年に株式会社日本MSセンター(現株式会社MS-Japan:6539)に新卒で入社。2013年に取締役就任。士業の人材紹介事業の統括者として株式上場にも貢献。2020年にフリーランスとして独立。2021年よりCPAキャリアサポート株式会社に参画し、2022年に代表取締役就任。現在に至る。