会計人材の就活・転職トレンド2023 ~監査法人編


【編集部より】
会計人材としてのキャリアをどう積んでいくか。「試験合格」を目標に日々、勉強に励む受験生にとって、ゆっくり振り返る時間はそう多くありません。
そこで、このたび重版することになった『会計人材のキャリア名鑑』(中央経済社)の筆頭執筆者であるCPAキャリアサポート株式会社代表取締役の中園隼人氏に、今年の採用活動の動きなどについて、監査法人編・税理士法人編一般事業会社編の3パートにわけてお聞きします。

一般的な採用スケジュールと最近の傾向は?

Q 監査法人への入所は公認会計士受験生の多くが希望しますが、一般的な採用の流れはありますか。

まず監査法人の採用の山場が、8月の公認会計士試験論文式試験が終わって、11月中旬の合格発表直後から12月初旬頃までです。

四大監査法人の「紳士協定」というのをご存知でしょうか? 採用活動に関する四大監査法人間の取り決めで、例年春頃に協議が行われ、その年の方針が6月頃に発表されます。

本来は受験勉強の大切な時期ではあるのですが、監査法人は論文式試験合格者を採用したいと考えているので、6月頃から個別相談などを実施します。そして、8月の論文式試験が終わったタイミングで各専門学校等が採用イベントを主催しています。

CPA会計学院も、今年は8月24日(木)に東京、26日(土)に大阪で、監査法人やFAS、会計コンサルファームなど、30法人超が参加する大規模イベントを会計士受験生向けに開催します。

これらは論文式試験の翌週に開催されるので、やはり受験生にとってはかなりハードですよね。試験明けに休む間もなく就活まで一気に走り抜けないといけない、受かっているかさえわからないけど取り組まないといけないという過酷スケジュールです。

Q 受験から就活にスイッチを入れ替えないといけないのですね。その後はどのようなスケジュールでしょうか。

これらのイベントが終わると、次は9月〜10月上旬頃までの間で監査法人自体が採用イベントを始めます。10月半ば〜11月半ば頃までは、四大監査法人は紳士協定により受験生と接触してはならず、少し落ち着きます。そして、11月下旬に論文式試験の合格発表があり、そこを皮切りに怒涛の採用週間のスタートです。

大阪の場合、採用面接は2日間程、東京の場合も1週間以内で決まることが多く、12月始め頃に内定承諾の回答期限が設定されるという流れが、例年の一般的なスケジュール感です。

Q 中小・中堅監査法人の採用の動きはいかがでしょうか。

中小・中堅監査法人はそのルール(紳士協定)には則っていませんが、合格者の8〜9割が四大監査法人に入所することもあり、中小・中堅監査法人の就活は大手監査法人の採用活動終盤以降も続くケースが多いです。

もちろん、中には狙いを定めて中小・中堅法人を選ぶ人もいますが、どうしても年齢などがネックになり、志望する大手法人に入所できない人もいるので、12月〜翌年1月頃までは中小・中堅監査法人は採用活動を続けています。

また、多くの場合、受験期間中は勉強に集中しますが、ごく一部の感度が高い受験生は、受験期間中にも監査法人やその他のキャリアに関する情報を得て、自分らしいキャリア選択をするために、監査法人ではなくFASや税理士法人、外資系投資銀行を選ぶ人もいます。

ですが、受験生にとっては「論文式に合格すること」が一番大事なので、結局は8月論文式まで目一杯勉強して、試験が終わった瞬間に就活が始まり、わけもわからないまま9〜10月には監査法人のリクルーターがアプローチしてきて個別の面談をして、自分にとってどれが一番よいかわからず、半ば「四大監査法人ならどの法人でもいいや」というのが大半でしょう。

キャリアサポートの立場からどのように受験生を支援するか

Q 面接では、「なぜこの法人を選んだのか」という質問もされると思いますが、それに対して受験生はどう答えているのでしょうか。

採用面接といっても、今は人材不足のためハードルが高くありません。極端な表現ですが「日本語を話せればいい」という人もいるほどです。ただ、監査法人の本音として、採用したい人は基本的に20代で、学歴も高いほうが好まれます。

逆に、たとえば、20代だけれども専門卒の人、前職が会計と全く異なる領域からの大胆なキャリアチェンジをしたい人などにまれに内定が出ないということもあるようです。その一方で、前職が経理や会計事務所スタッフ、公務員といった監査法人がわりと好む経歴の人は、20代のみならず、30歳を超えていても、四大監査法人に入ることは可能です。

本来であればその法人にマッチする人をスクリーニングして採用するのが組織としての面接のあり方だと思いますが、監査法人も人手不足で積極的に採用をしたい状況なので、今はそういう役割をほぼ果たしていないようです。

基本的に20代で、ある程度の大学出身者であれば、形としての採用面接はありますが、未来のことをあまり考えなくても就職できてしまう。この現実がキャリア形成上、少し問題なのではないかとも考えています。

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Q キャリアサポートの立場から見ると、それによってどのような影響があると思われますか。

大手監査法人では「3年経つと3割辞める、5年経つと5割辞める、10年経つと9割辞める」と一般的にいわれますが、最近は1〜2年目から辞める人が増えてきているようです。

そして、他の四大監査法人や、ESネクスト有限責任監査法人のような独立系の中小監査法人に転職する人もいます。

他には、M&AやIPOに興味をもって会計コンサルティングファームに移ったり、極論、監査の仕事はしないので公認会計士の資格はいらない、試験に合格していればいいといったりする人も増えてきています。試験に合格しているから知識は十分にあるので、別に資格にこだわらないという考え方ですね。

以前は公認会計士であることに、プライドを持っている人も多かったと思いますが、最近の若い人で、特に頭の良い人はわりとサクッと合格してしまうことも多いです。

公認会計士になりたくてなったというより、やりたいことがないからとか、失敗してもどうにか取り返しがつくからといった理由で公認会計士の資格を取るという人も一定数出てきています。

Q キャリアサポートとしてはどのようなことをされていますか?

公認会計士試験は9割程度の人が受からない試験です。これまで、合格者のサポートをすることは当然でしたが、私たちCPAキャリアサポートでは試験撤退組の人たちのキャリアもサポートしています。

CPA会計学院の受講生は1万数千人いるので、そのうちの9割が試験に落ちてしまうというと、そのうち3割程度は再受講しますが、7~8割は会計人材の予備軍なのです。

その人たちが、「自分は受かってないから、会計の仕事はいいや」と、全然違う仕事に就いてしまうこともありますが、実はすごくニーズがあるのです。企業側も若い会計人材がどこにいるかを把握しきれていないので、そのニーズに応える必要性を感じています。

(「税理士法人編」につづく)

<お話を聞いた人>

中園隼人(なかぞの・はやと)

CPAキャリアサポート株式会社代表取締役
早稲田大学大学院卒業後、2003年に株式会社日本MSセンター(現株式会社MS-Japan:6539)に新卒で入社。2013年に取締役就任。士業の人材紹介事業の統括者として株式上場にも貢献。2020年にフリーランスとして独立。2021年よりCPAキャリアサポート株式会社に参画し、2022年に代表取締役就任。現在に至る。


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