首藤洋志(文教大学経営学部准教授・公認会計士)
【編集部より】
5月28日(日)に行われる公認会計士短答式試験までカウントダウンが始まりました。この日に向けた努力と成果を存分に発揮するために、今からどのように過ごすとよいのでしょうか。
そこで、公認会計士であり大学教員の首藤洋志先生にアドバイスを頂きました。5月短答を受験される方はもちろん、8月に行われる税理士試験や公認会計士試験論文式試験の受験生にとっても、ヒントが満載です!
最高のパフォーマンスを発揮するために
こんにちは、文教大学の首藤洋志です。
いよいよあと少しで、公認会計士(短答式)試験を迎えますね。
今回のコラムでは、本試験で最高のパフォーマンスを発揮するために参考にして欲しい「考え方」と「調整方法」を、私の知識・思考や経験をもとにしてお伝えしたいと思います。
私は、2009年12月の短答式試験、2010年8月の論文式試験に合格し、2011年から2020年まで、監査法人の常勤職員として会計監査に従事しました。2020年に監査法人を退職後も、公認会計士として、少しだけ会計監査に関与しています。
思い返してみると、私が受験勉強をしていたのは、かなり昔のことのように感じられます。
しかし、「本試験で最高のパフォーマンスを発揮するために必要な思考や習慣」は、時代や環境の変化に影響されるものではないでしょう。自分に合うと納得できる考え方が見つかったら、(部分的にでも)参考にしてみてください。
まず、最も大切に考えて欲しいことは、
「いかにして、本試験当日に、心技体すべてを最高の状態にもっていくか」
ということです。
なお、ここでは、「心=精神(こころ)の状態」、「技=知識・スキルを含む実力」、「体=身体(からだ)の状態」を意味しています。
この大原則を念頭に、以下ではタイミング別に考え方や調整方法を紹介していきましょう。
本試験2週間前から1週間前まで
「心」
「心技体」という言葉において、「心」が最初にくる理由は一体何でしょうか?
私は、「心」の状態を整えることが、人生にとって本質的に重要であり、かつ、本当に難しいからなのではないかと考えています。
不安(ネガティブ)に感じ、自分を追い詰めることで実力が上がればよいのですが、実際そういうわけにもいきません。
不安に感じる気持ちを、いかに理性(論理)でコントロールできるか、公認会計士試験ではそのような精神的な強さが問われているのではないでしょうか。
不安やネガティブな気持ちに押し潰されそうなときには、目をつぶり、楽しかった思い出や楽しみにしているイベント、そしてこれまでの努力を思い返しながら、少しでも心を賑やかにする(軽くする)ことを意識してみましょう(これが本当に難しいのですが・・・意識してみるだけでもだいぶ違う気はします)。
「技」
私が公認会計士試験の勉強をする中で、最も大切にしていたことは、「想像力をフルに働かせること」です。
監査論や企業法などの科目が難しいと感じる主な理由は、ほとんどの受験生が、当該科目に関わる実務を経験したことがないからではないでしょうか?
監査(の手法・仕組み)や会社法(の設定)には、必ず目的や根拠(趣旨含む)があり、目的や根拠を理論的に理解しているかどうかが質の高い想像力にとって最も重要です。
例を挙げてみましょう。
監査論における「重要な虚偽表示リスク」は、どのような方法(選択肢)をとることで下げられるのかについては、「重要な虚偽表示リスク」を理解していれば想像できるかもしれません。
また、公認会計士法や公認会計士の倫理に関しては、「公認会計士が独立性を損なってしまうとどのような問題が起こってしまうのか?」といった一般論的な想像だけでも太刀打ちできる問題があります。
知識のみで勝負するのではなく、(日常的な)「イメトレ(想像力)」×「理論(理屈)」×「知識」で勝負することを心がけるだけで、理解力や実力、ひいては本試験の結果に大きな差が生まれるはずです。
「体」
この時期には、無理して勉強しすぎないことを強くおすすめします。
本試験まで残り1~2週間というタイミングで、体調を崩すリスクの方が怖いからです。
よく寝て、適度に食べて、太陽の出ている時間帯に集中して勉強しましょう。
個人の習慣や体質にもよりますが、少なくとも6~7時間は身体(脳)を休ませた方が学習効果も上がりやすいと思いますよ。
本試験1週間前から前日まで
「心」×「体」
本試験では、必ずしも実力がある人が最高の結果を出せるというわけではありません。
例えば、短答式試験の知識レベル(=実力)がLv.80の受験生とLv.60の受験生がいたとしましょう。Lv.60の受験生は、絶対にLv.80の受験生に劣ってしまうでしょうか?
そんなことはありません。
本試験で、Lv.80の受験生が実力の70%しか出せず、Lv.60の受験生が100%の実力を出せたとすると、結果は次のようになると考えることができそうです。
Lv.60の受験生スコア:60(=Lv.60×100%)>Lv.80の受験生スコア:56(=Lv.80×70%)
つまり、本試験では、何よりも自分の力を100%出し切る事こそが大切なのです(科学的根拠は不確かですが、感覚的には確からしい気がしませんか?)
本試験1週間前からやっておくことをオススメする具体的なアクション・プランは、以下の通りです。
・本試験と同じスケジュール(時間割を含む)で一日を過ごす(勉強に取り組む)
→例えば、本試験のリズムに慣れるために、監査論の試験時間には監査論を勉強する等。
・普段口にしない飲食物は避ける
→日頃炭酸を飲まない人が急に炭酸ジュースを飲んでみたり、ヘルシーな食事を心がけている人がカツ丼を食べたりすると、身体がびっくりしてしまいそうです。
・よく寝る
→就寝予定時刻の1.5時間前にぬるめのお風呂に15分ほど浸かり、ホットミルクを飲むとよく眠れるといわれます。ただ、眠れない人が無理して眠ろうとすると逆に眠りにつきづらくなったりするので、「眠たくなったときに眠ればいいか」くらいにゆるく考えておくことも大事です。
余談ですが、本試験直前に頼りにするであろう、精神的な拠り所(まとめノートやレジュメ集)は準備していますか?
本試験直前の具体的な過ごし方をイメトレしておくのも、本番前に急に焦ったりするのを防ぐ良い方かもしれませんね。
「技」
公認会計士試験には、出題範囲があります。ただ、範囲が膨大すぎて、どれだけやっても「やり切った」と言い切ることは難しいでしょう。
専門学校等で勉強している受験生は、重要論点とそうでない論点をある程度把握していると思います。やはり、出題されやすい重要論点を中心に勉強しつつも、全く触れていないという領域をできる限り減らす意識が重要です。
限られた時間の中で、少しでもカバー範囲を増やすコツとして、私は文字や文章を書かない勉強方法を採用していました。
文字や文章を(実際に)書くと時間がかかってしまいますよね?
多くの範囲を頭の中にスキャンしていく要領で、できる限り多くの基準や法律及びその趣旨、ルールや解き方を、理解・確認することに重点を置くことで、膨大な試験範囲に広くアクセスできるという理屈です。
その際、手は動かさなくても、頭はフル回転させて(なんとなくでも)理解したうえで記憶することに全力を注ぎましょう。
ただし、財務会計や管理会計の計算問題を、全く解かないと計算力が落ちてしまう可能性がある点でリスキーですので、自信のない問題などに絞って手を動かしてみるとよいですね。
本試験当日
「心技体」
私の持論ですが、「自信」は持つ(持とうとする)ものではないと考えています。
「自信」という言葉は、読んで字の如く「自分を信じる」ということです。
努力を積み重ねてきたあなたがやるべきことは、自分のこれまでの努力を信じることだけではないでしょうか。
ただ自分を信じて、現時点の自分の「最高(=100%)の実力を発揮すること」に全意識を集中させて欲しいと思います。
蛇足かもしれませんが、休憩時間に受験仲間と終わった試験科目について話すことだけは、メリットの方が少ないのでやめておいたほうがいいですよ。
本試験の際、悔いが残らないよう、自分を信じることができるだけの努力をし、健全かつ有意義な本試験直前期をお過ごしください。
あなたが、自分の力を100%発揮できることを、心から願っています。
Good luck!!!
【執筆者紹介】
首藤 洋志(しゅとう・ひろし)
文教大学経営学部准教授・博士(経済学・名古屋大学)・公認会計士
九州大学経済学部卒業、九州大学大学院経済学府修士課程修了、名古屋大学大学院経済学研究科博士後期課程満期退学。2011年~2020年、大手監査法人にて会計監査業務に従事。2020年より現職(大学教育及び財務会計研究(会計利益観、公認会計士と多様性及びパーパス等)に従事)。
<主な論文>
「資産負債観に基づく歴史的原価会計―収益認識会計基準を手がかりにして―」『簿記研究』第3巻第2号, 11-22頁, 2020年。
「大手監査法人の監査品質向上に向けた取り組み―ジェンダー・ダイバーシティの推進とデジタル化の加速―」 『産業經理』第83巻第1号, 123-135頁, 2023年。
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