西谷順平(立命館大学経営学部教授)
【編集部より】
新年度がスタートし、勉強意欲が高まっている人も多いのではないでしょうか。ビジネス雑誌などでも「資格」のテーマはよく取り上げられており、会計系資格も根強い人気があります。
そこで、「この春から会計系資格の取得を目指して本格的に勉強を始めたい!」という人のために、会計人コースWeb版スタートガイドとして、各検定・資格に詳しい方にアドバイスをいただきました。
USCPA(米国公認会計士)については、立命館大学経営学部教授の西谷順平先生にナビゲートをお願いしました。2024年1月から新しい試験制度が開始することもあって、ますます注目度が高まっている資格なので、この記事を参考にしてよいスタートダッシュを切りましょう!
前編では、USCPAの概要や魅力について紹介してもらっていますので、合わせてご覧ください。
2024年1月からの試験科目変更、受験生への影響は?
こんにちは、立命館大学経営学部のPepe先生こと、西谷順平です。前編では、USCPAの概要とその魅力についてお伝えしました。
今回は、USCPAの試験制度や受験をめぐる環境についてお伝えすることにしましょう。とくに、2024年1月から試験科目の編成が変更になります。これについては、ビジネスチャンスとばかりに(日本だけでなくアメリカでも)いろいろと宣伝されたりもしていますので、気になる読者の方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、最初に結論をいってしまうと、受験要件となる会計学や経営学、経済学の教育を日本の大学できちんと受けた人にとっては、本質的な変更というわけではありませんし、難易度がいきなり上がるというものでもありません。
むしろ、受験科目数は4科目のままなのに、対応すべき科目が4科目から6科目に増えてしまったので、大変なのは教える側の資格試験予備校(Review Courses)の方なのです。実際、数週間前にアメリカの大手の1つがライバルに買収されたというニュースも入ってきています。
受験資格に関して知っておきたい2つのポイント
受験資格のポイント【その1】-大学で修得すべき科目が膨大
今回はまず受験資格についてお話しましょう。大きなポイントが2つあります。
最初のポイントは、大学における会計科目やビジネス科目の単位修得がたくさん求められるという点です。日本の公認会計士試験には受験資格がまったくなく、経営学部や商学部以外の大学生はもちろん、中学生や高校生でも受験可能ですのでかなり異なっているといえます。
ちなみに、USCPAの場合、試験合格後に公認会計士として仕事ができるライセンスの取得要件として総取得単位150単位が求められています。大学の卒業に必要な単位数は120単位ぐらいですから、これは大学院の修士課程(Master Degree)卒業レベルが想定されているといえます。
大学教育に対する日米での社会的な役割期待についての違いがこうした差異を生んでいるともいえるでしょうが、アメリカでは高等教育を受けた「教養と専門知識を兼ね備えた大人」でなければ、USCPAといった社会的ステイタスの高いプロフェッショナルの資格は与えるべきではないと考えられているというわけです。
米国に比べて、日本ではより多くの科目を履修する必要も
ただ、こうした考え方の違いは、日本でUSCPAを目指そうとするときに大きな壁となって現れます。例えば、西谷ゼミで申請しているグアム準州では、受験資格として上級生向け(Upper Division)の会計科目、それも財務会計、監査論、税法(税務会計)、管理会計すべてを含んだ24単位、および、ビジネス単位24単位(経済学、ファイナンス、ビジネス法を含む)が求められています。
ゼミ生たちはこれらの単位を修得するのに毎年必死の様子です。なぜなら、アメリカでは1科目3単位ですが、日本では1科目2単位だからです。つまり、24単位だとアメリカでは8科目なのが、日本では12科目も必要となるからです。
しかし、必死になれば単位条件をクリアできる西谷ゼミの学生は本当にラッキーといえます。なぜなら、それだけ多くの会計系科目をカリキュラムで充実させている大学はおそらく会計学の強い大規模私立大学か有力な旧高商系大学の経営学部や商学部に限定されるからです(経済学部ですら厳しいでしょう)。
もっとも、上でも述べたライセンスの取得要件150単位については、日本の大学はアメリカに比べて単位が楽にとれるということもあり、学部4年間で修得することができる大学が(良いか悪いかは別にして)多いようです。
足りない科目は、大学院や専門学校の単位認定制度等を活用
USCPAの魅力については前回の記事で書いたとおりですが、それでも日本で目指そうという人がなかなか増えない理由の1つは、多くの人が受験資格でそもそもつまづいてしまうからだと考えられます。
もし学部4年間で受験資格を満たせないというのであれば、基本的には会計専門職大学院(アカウンティング・スクール)か会計系の強いMBAコース(経営学修士課程)に進学するしかないということになるでしょう。これは、日本でもアメリカでも事情は変わりません。ただ、仕事を辞めて大学院にいくのはハードルが高いというのも日米で事情は変わりません(とくにアメリカは学費が非常に高額です)。
よって、アメリカでは足らない単位を他大学の通信教育や2年制のコミュニティ・カレッジ(Community Colleges)で修得するのが一般的な様子です。最近では、受験資格予備校のオンライン授業が大学で正規科目として採用され、その受講によって会計系の単位取得と受験準備が一挙両得できるようにもなってきているようです。
日本でも、コミュニティ・カレッジこそ今後の課題ではありますが、事情はだいたい同じです。USCPAの受験資格を強く意識した(売り文句とする)通信教育をする大学があり、日本国内の受験資格予備校の授業が(日本ではなく海外の)大学の単位として認定されているようです。
ただ、やはり経営学部や商学部を卒業していない人がUSCPAに挑戦しようとすると、非常に多くの不足単位をかき集める必要があり、その分かなりの出費も必要になる点は、受験資格のまったくない日本の公認会計士試験との大きな違いといえるでしょう。