【編集部より】
さる11月30日に令和4年度(第72回)税理士試験結果が公表されました。
簿記論は、受験者数12,888人、合格者数2,965人、合格率は23.0%(昨年は16.5%)と、昨年から大きく合格率が上がりました。
ただ、来年度の試験にチャレンジされる方も多いと思われます。
そこで、資格の大原の野田朋代先生に、当面の勉強のヒントを伺いました。
第72回(令和4年度)の合格率をみて
編集部 今年の合格率について、先生はどのような印象をもたれていますか?
野田先生 近年の合格率から今回も15%を超えると想定しておりましたが、過去5年で最も高い合格率(23.0%)となりました。
この傾向は今後も続くと思われますので、税理士試験の科目の中では、比較的合格がしやすい科目であるといえます。
今後の試験においても基本的なところで点数を積み上げることが合格のポイントになるでしょう。
次に向けて、どのように勉強すべき?
編集部 合格発表後は、どのように簿記論の勉強に取り組むとよいでしょうか。
野田先生 合格発表後からは、「知識面」と「技術面」の大きく2つに分けて考える必要があります。
まず、「知識面」としては、毎年のように出題される基礎的な項目について、”基本”をしっかり押さえることですね。具体的には、”時点”ごとの仕訳や金額の求め方を一度しっかり整理するといいですよ。
実は、この土台部分をおろそかにしてしまう方がすごく多いのです。
勉強していると、どうしても集計問題や推定問題のような難しい問題を解くことや、スピードという要素に目が向いてしまいがちですが、基本をしっかりと整理できていないと、本試験で戦うために最も重要な”予測力”が身につきません。
基本をしっかり定着させた上で、いろいろな角度からの問題にチャレンジすれば、理解力・応用力もついてきます。
編集部 「基礎が大事」とよく言われますが、それは、先生が仰ったような「時点ごとの仕訳や金額の求め方を頭の中で整理する」というイメージをもつとよいでしょうか。
ちなみに、時点ごとというのは、期中処理か決算整理かということでしょうか。
野田先生 そうです。例えば、ある項目の決算整理ばかりではなく、期中の処理から時点を追って整理して、今、自分がどの時点のどの取引の、どの処理をしているのか。そこが整理できていないと、応用問題には対応できません。
だからこそ、今から年明け3月頃までに、出題頻度の高い項目から優先的に基礎固めを徹底しましょう。
基礎を固めつつも、いろいろな問題を解いていかないと「理解力」はつきません。そこで、その次のステップとして、いろいろな角度の問題にチャレンジしてほしいと思います。
例えば、「順進」や「逆進」の問題や「金額推定問題」です。「順進」の問題でも、誤処理、未処理、さらには誤処理と未処理が混在した問題などにチャレンジすることで、惑わされず、罠にはまらずに解答をしていくことができるかをトレーニングしましょう。
編集部 「順進」や「逆進」の問題というのはどういうことでしょうか?
野田先生 順進は、「期首から期中、決算整理と順番通りに解く問題」ですね。それに対して、逆進は「後T/Bから前T/Bを作るという問題」などですね。
この順進・逆進がスムーズに解答できれば、理解力がついてきていると言えると思います。
「自分の勉強法」をいつまでにどう見つけるか?
編集部 項目を整理するときのポイントはありますか。
野田先生 基本的には、テキストに整理して書いてあるはずなので、それらを参考にするとよいでしょう。その上で、期首からの流れを一度自分で整理した「ノート」を作ってみてもいいと思います。
自分でノートを作ると整理整頓がされてお勧めです。
大原簿記学校では、整理した教材をご提供しています。しかし、それらをただ漫然と見ていても頭には入りません。やはり、「自分で書く」というアナログの作業等の工夫をする必要がありますね。
編集部 手を動かすときに頭も使いますものね。
野田先生 デジタルなものとアナログなものとをどう使うと効果的なのかを考えてみましょう。お勧めなのは、「ノートに書く」というアナログの作業です。
昔から「間違いノート」をつくるとよいと言われ続けていますが、時代が変わってもなくならないということは、それだけ効果的といえるからでしょうね。
編集部 確かに間違いノートは永遠のテーマですね。ちなみに、ノートはどのように作るとよいでしょうか。
野田先生 間違いノートは、作るよりも「見る」ことが重要なんです。作って満足するのではなく、そのノートを見なければ意味がありません。だから、「また作り直せばいいや」ぐらいの気持ちで作っていいと思います。
どうしてもペンの色にこだわったり、後から見てイヤにならないように字も綺麗に書こうと思ったりして作ることに力を入れてしまいますが、できるだけシンプルがいいと思います。
赤ペン、青ペン、黒鉛筆の3本くらいからスタートして、なるべく余白を広くとって、後から書き込めるようにしておくといいですね。
または、後から追加できるように最初からルーズリーフを使うのも良いと思います。その他にも、便利な形の付せんが売っていますね。そういうツールを使って自分に合った方法で作ってみることをお勧めします。
編集部 自分で試行錯誤しながら見つけていく感じになるのでしょうか。
野田先生 そうですね。特に独学の方は、試行錯誤しながら自分にあったやり方を早く見つけたほうが合格に近づきますね。
編集部 間違いノートを作るというような「勉強のやり方」は、今の時期には自分なりの方法をそろそろ固められているのが理想でしょうか。
野田先生 そうですね。冒頭でお話ししたような基礎的な項目の確認をしたり、間違いノートを作ったりという、勉強のリズムを作り上げておくのは、正直なところ年内に確立しておきたいです。
なので、この記事を読んだことを契機に早速ノート作りに取り掛かりましょう、ということですね。
「自分の解き方」をいつまでにどう見つけるか?
編集部 一方で、問題の「解き方」においても、早く自分のやり方を見つけるほうがよいと聞きます。これは、いつ頃までにできておくのが理想ですか。
野田先生 最初から成績が良かった人や、合格するだろうなという人は、早い段階で「自分の解き方」を見つけていますね。そして、そのやり方を「早い段階から試している」のです。この「試す期間」が必要です。
スケジュールは「逆算」で考えましょう。本試験から逆算して、「この時期ぐらいには、固めておきたい。その前に、改善できる期間としてはこの時期まで。それまでに試して・・・」ということを考えると、遅くともゴールデンウィーク頃までには、問題の解く順番まで自分の中で整理して、「自分なりの型」を作ってしまいたいですね。そして、本試験に向けて、試して、改善して、磨いてほしいです。
編集部 自分なりの解き方はどのように見つけるといいですか。
野田先生 最初は「解き方を真似る」のがいいと思います。いろいろな解き方を真似て、そのうえで「自分の解き方」に変えていくのです。
ただ、その真似た解き方を、きちんと自分で整理して人に言えるようになっていないと使いこなせないですね。
例えば、通常の集計問題で後T/Bを作りましょうという時も、「どういう順番で解くか」を整理できてから取り組める人と、「とりあえず始めちゃえ」とむやみに取り組む人とでは差があります。
成績が伸びる人は「課題」をもって取り組んでいる
編集部 「改善が必要な部分」というのは、自分でなんとなく気づいていくものですか。
野田先生 そうですね。いろいろな問題を解いたり、模擬試験だったりを通じて、点数が伸びないとか、毎回間違ってしまうなとか、毎回何かしらモヤモヤするなとか、そういうことに気づいたら、それが改善のチャンスですね。
ですから、問題を解いておしまいにするのではなく、「その問題から何を課題として見つけることができるか」ということで差がつきます。
これは別に直前期ではなくて、今すぐにでもやるべきことだと思いますよ。
編集部 課題を持って取り組むことですね。
野田先生 「その課題をクリアしていくためにはどうしたらいいか」を自分なりに考えていくことになりますが、その「考える」ということもすごくいい勉強になります。
「教えてもらう」のもいいのですが、受験生が10人いたら10人違うので、自分にあった工夫の仕方をいろいろな情報を得ながら一度試して取り入れてということを、問題を解く度に課題を持って考えるといいですよ。
問題を解いて、「あ、点数が悪かった、ザンネン…」、「点数が良かった、ラッキー♪」ではなく、「何が自分の課題か」という視点をきちんと持っておかないと、現状を維持することはできると思いますが、さらに上を目指すのであれば解いた後の見直しはとても大切です。
編集部 点数がよかったら、それだけで安心してしまいますよね。
野田先生 合格していく人を見ていると、たとえ模擬試験等の成績が上位にいたとしても、点数を落としている部分があるので、その中で「落としてはいけなかった部分」をしっかり見直しができています。
また、正解したけれども、今回たまたま正解したのか、この解き方でよかったと自信を持って言えるか否かの確認をされている方は、安定的に成績上位で良い結果を出されています。こういう課題を意識できている人が、1年で合格する人の特徴ともいえるでしょう。
9月頃から学習を始めた人であれば、今の時期はインプットする内容が結構増えてきています。「今までの力業では対応できないぞ」ということを経験し実感されてくる時期です。
ここでどう乗り越えるかが勝負どころです。また、今回の合格発表をうけてリベンジを決めた方には、これまでの学習方法を見直し、改善すべき点を見つけて1日でも早く固めて頑張って頂きたいです。
合格に必要なのは「基礎知識」「予測力」「テクニック」
編集部 簿記論の場合、簿記検定2級から挑戦される方も多いと思います。しかし、簿記2級レベルであれば、正直なところ、そこまで深く考えて勉強していなかったかもしれません。やはり、簿記論になると、すごい意識改革が必要ですね。
野田先生 その通りです。実は私も、簿記2級は過去試験問題を繰り返し解答して合格した経験者です。その成功体験から、税理士試験勉強も同じようにすれば合格できると考えていました。
そのため、税理士試験勉強を始めた最初はとても苦労しました。多くの方が同じ経験をされていると思いますよ。無意識のうちに「問題量を解けばいいんだよね」と思ってしまっています。
ですが、その方法だとかなりの勉強時間が必要となります。さきほどお話しした「問題に対して課題を持って取り組めるか」と、その項目のポイントに早く気づくことができるかで効果的な学習が可能となります。それが、ゆくゆく「予測力」にもつながってきます。
編集部 予測力、ですか。
野田先生 はい。合格するためには「基礎知識」、それから「予測力」、「テクニック」。これらは絶対に必要だと思います。この「予測力」をつけていくためには、「その項目のポイントが何か」をつかんでいかなければなりません。試験では各項目の「ポイント」が出題されるわけですからね。
苦手な人の多い「商品販売」や「特殊商品売買」を例にとると、分割法、総記法、分記法等の特徴が問われるわけですから、「その特徴が何なのか」を認識していないと解答していても迷子になります。特徴がわかっていれば、問題の趣旨、ポイントを見つけやすくミスも防ぐことが可能となります。
特殊商品売買の試用販売であれば、売上計上時が通常の商品販売とは違う点が特徴となります。その点を意識して問題文を読み取ることができるか否かが点数に影響してくるわけです。
予測力があるほうが、早く、正確に解答し、凡ミスをしないで済みますね。
編集部 なるほど。
野田先生 私たち講師は現役の受験生さんと違って、問題の量を解いているわけではありませんが、負けないわけですよ。これはなぜかと言ったら、「予測力」があるからです。
つまり、「この問題が来たら多分ああいう問題形式だよね。ここは引っかかるから、資料をしっかり見て判断して・・・」という予測ができる。予測力がスピードをカバーして、凡ミスを減らし結果として点数を積み上げていくことにつながります。
編集部 合格に必要な力が見えた気がします。
野田先生 最近の試験傾向として、「文章が長い」という点があります。そのため、「読解力がなくて…」と悩む方がいますが、確かに読解力も必要ですが、その前に「予測力」を持って問題文を読んでいけば、「今回はAのパターンね。あ、これはBのパターンね」と把握できるわけです。
しかし、ただなんとなく問題文を読みながら考えているような状態だと、問題文が長ければ長いほど「迷子」になってしまいます。
編集部 そうすると、頭の中に論点のマップのようなものが整理できていないと、問題文を読み進めること自体が難しそうですね。
野田先生 その通りです。だから、そのマップ、要は「解き方」をまずはちゃんと定着させるということ。基礎知識をつけた上で、「このパターンの時はこういう解き方、このパターンの時はこういう解き方をする」という引き出しをいっぱい持っておかないといけないですね。
こう言われると、すごく大変そうに思えるかもしれませんが、「なぜ迷子になったのか。では今度はこうすれば迷子にならないな」と、きちんと整理して、一題一題を対処していけば、対応力が上がるはずです。
我慢勝負
編集部 なかなか根気のいる取り組みですね。
野田先生 もちろん、毎回毎回良い結果につながるわけではありません。実際に受講生さんの中でも、○○しながらの方なども多く、勉強時間を多くとれる方ばかりではありません。
時には、落ち込んだり、ショックを受けたりしながら学習を進めていきますが、成績が今一つ振るわないときでも「我慢」。
我慢して、またチャレンジして、まさに七転び八起きの状態で、でもそれをなんとか継続して、最後まで行くと本試験で花が開く。そう信じて、本当に我慢勝負なのです。
編集部 1年に1回の大勝負ですからね。
野田先生 最初から順調という人はほんの一握りですよね。上を見ればキリがありません。
ほとんどの方は、我慢しながら課題を見つけて克服し、また新たな課題が見つかり、克服したと思ったら、また課題が見つかる。その繰り返しです。
我慢できるか、頑張って続けられるか。きっと本試験で花が開くと信じて頑張っていただきたいと思います。応援しています!
【お話を聞いた人】
野田 朋代(のだ・ともよ)
資格の大原 税理士講座講師
税理士の先生と一緒に仕事をしたことをきっかけに、税理士試験の勉強を開始。働きながらの勉強で挫折しそうになったときに、熱心に励ましてアドバイスしてくれた先生のおかげで合格。自分と同じように困っている方に、合格の喜びを感じていただきたいとの思いから、簿記論・財務諸表論の講座を担当。「解けるようになったよ!」「合格したよ!」の笑顔が見たくて、現在も大原簿記学校で勤務中。
★資格の大原 税理士講座ホームページ
<あわせてオススメ! 資格の大原講師のバックナンバー記事>