山梨県立大学教授 石山 宏
【編集部より】
自身が上場会社の経理部に勤務していた経験から、ゼミ生にはExcelと英語の習得には力を入れるようアドバイスしている山梨県立大学の石山教授。「難関国家資格は突破したものの、ITスキルが身につかず実務で挫折するケースもある」ようで、職業会計人を目指して勉強する学生にはなおさらExcelや英語の習得にも力を入れるよう指導しているとのこと。そこで、試験の合否にかかわらず身につけておきたいExcelと英語について、実務家へのアンケート結果をもとに、前編・後編に分けてアドバイスしてもらいました。
Ⅰ Excelと英語は実務で活きる
私は上場会社の経理部およびIR(投資家向け広報)部に勤務した経験から、ゼミ生にはExcelと英語の習得には力を入れるようアドバイスしています。これまで指導してきた学生には、難関国家資格取得や人気企業入社は突破したものの、ITスキルや英語力が不十分で、実務で挫折するケースも目にしたためです。また、職業会計人を目指して勉強する学生には、とりわけExcelの習得にも力を入れるよう指導しています。Excelは会計職の生命線であることを身をもって学んだからです。
会計・IT・英語は、現代ビジネスに欠くことができない3つの武器といえます。これらの共通点は、いずれも広い意味での「言語」だからです。すなわち会計は経済言語、ITはメカニカル言語、英語は会話言語なのです。これらは世界規模で通用するツールといえます。
この記事では、2回に分けて会計職(会社の経理・財務、公認会計士・税理士・国税専門官など)を目指す学生などに対して、現在、会計職として働く実務家へのアンケート調査も踏まえて、会計とともに将来役立つであろうExcelと英語についてアドバイスします。
Ⅱ アンケート調査で聞いた実務家の声
今回、記事を書くにあたって、ゼミ生OG・OB等を通じて所属先に対し簡単なアンケート調査を実施しました。原稿の締め切り期限が迫っていたため対象企業数は少ないながら、規模や業種などある程度バランスがとれたデータが集まりました。
サンプル数が少ないため、各設問の回答の比率(定量的結果)などよりも、内容(定性的結果)に注目していただければよいと思います。前編ではExcelに関する質問事項とその回答をご紹介します。
アンケートに回答してくれたOG・OBが所属する法人等の概要は、以下のとおりです。
A社:上場(東証スタンダード)サービス業株式会社(経理・財務 部署)
B社:上場(東証プライム)電気機器株式会社(経理・財務 部署)
C社:国内系大規模税理士事務所
D社:国内系中規模税理士事務所
E社:外資系小規模税理士事務所
F社:国内系格付会社(証券アナリスト)
Ⅲ 1日の半分の時間はExcelを使った業務
さっそく、アンケートからわかったことをお伝えしていきます(アンケートの詳細は後述します)。
まず、はじめの3つの質問で「Excelの重要性」について聞きました。その回答から、会計実務におけるExcelは必須アイテムであることは明白でした。また「Excelの利用時間」について聞いたQ4の回答からは、平均的な1日にExcelを使用している時間の割合は半分にも及ぶことがわかりました。これこそが、実務におけるExcelの重要性を如実に物語っています。
Q5の「Excelと経理/財務専用ソフトの使い分け」については、エクセルは基礎データの作成に使うという回答が多く寄せられました。私の経験もまったく同じです。言ってみれば、Excelは経理実務のメモ帳です。つまり、主要簿や補助簿は大規模企業になればなるほど専門のソフトウェアを利用しますが、そこに流し込むための事前作業ではExcelはまさに欠かせないツールといえるでしょう。
また、Q8で聞いたのは、「大学卒入社の際に備えているべきExcelスキルはどの程度のものか」についてですが、基礎的なスキルがあればよいという回答が多いようです。ただ、ExcelスキルとPCスキルは別次元なので注意が必要でしょう。つまりPC操作ができなければ、社内教育でいくらそのソフトウェア(アプリケーション)の使用方法を教授しても、まったく前に進まないためです。
最後の質問では、会計職を目指す学生に対して、具体的なアドバイスを記述してもらっています。そのアドバイスは、どれも有益なものばかりです。「Excelを触ったこともないという方は、まずは家計簿をExcelで作ってみるのもよい」というアドバイスがありましたが、まさしくそのとおりです。
Ⅳ まずは遊び感覚でExcelになじんでみては?
私は会計実務に就く前、まったくというほどExcelなど使用したことがなくひたすら会計の勉強だけをしていたため、実務転身後たいへん苦労した記憶があります。教本を何冊も買って、ひたすら独習しました。受験生のみなさんも、会計の勉強を主とする現在の生活はむろん大事ですが、気分転換がてら家計簿などを作ると自然にExcelが身につくこと間違いありません。
私は趣味がドライブやツーリングだったので、燃費計算表をExcelで作っていました。その際、給油ごとの平均燃費はもとより、車載計器の燃費データと満タン法の燃費データの乖離率や、エアコン非作動時と作動時の燃費下落率など、ちょっとおもしろい数字も自分で計算式を埋め込み、結果を得て楽しんだりもしていました。
まずは、こんな具合に遊び感覚で身につけるのがおすすめですよ。
(次ページでは、実際のアンケート結果を紹介します)