電卓1回法! 会計士試験レベルの基礎的な計算力を身につける勉強法


【編集部より】
会計士受験生には大学生が多く、中には在学中合格を目指す人も多いと思います。
では、いわゆるフツーの大学生がなぜ短期間で一発合格できるのでしょうか。
今回は、福岡大学会計専門職プログラムで現役大学生を会計士試験合格に導いてきた井上修先生に、その秘訣を教えて頂きました。
昨日掲載した前編「短答式に短期間で合格する秘訣」の続編として、本日の記事では、会計士試験レベルの計算力を身につける勉強方法である「電卓1回法」について解説していただきます。

井上 修(福岡大学准教授・公認会計士)

電卓を使わない!

日商簿記検定くらいまでは、演習を繰り返すことである程度パターン化させて合格することができるかもしれません。しかし、公認会計士試験のレベルを目指す場合、「考えて解く習慣」をつけなければいけません。

さらに、膨大な量と高い質の計算問題を制限時間内に解くという「スピード」と「非常に高度な正確性」も求められます。
この「考えて解く」ことと「スピード」及び「非常に高度な正確性」を向上させることを実現する方法が、「電卓を使わない」という計算方法です。

ただし、正確には「電卓1回法」という呼び方となります。

計算力が向上しない理由

・時間がないため急いで解こうとする。

・行き当たりばったりで、試行錯誤しながら解いている(割り切れなかったからもう1回・・・、選択肢にある数値が見当たらないからもう1回・・・)。

・計算途中で注意すべき点や問われている論点に気がつくため解き直しが多い。最悪なのは、途中で気がついたから「よし」としてしまう。

・ケアレスミスが多い…etc

なぜ電卓を1回しか使わないのか

電卓を1回だけ、つまり、解き直しが認められないとすれば、どのように計算問題を解かなければいけないでしょうか?
その条件の下では、必然的に問題文をむちゃくちゃよく読む」ようになります。
そして、どこに「落とし穴」や「留意すべき点」があるのかを、全て事前に把握しておく必要があります。

その際に、過去の問題演習において経験した「ケアレスミス」を全て思い出す必要があります。
その後、どのような手順や下書き、計算方法で解かなければいけないかを全て事前に決める必要があります。
そして、最後のゴールまで完璧にイメージできた時に、初めて電卓を使って解くことが許されます。

このようなトレーニングをすることで、問題文をよく読み、事前の準備に多くの時間を使うため、「考えて解く習慣」が身につきます。また、もっとも効率的な解答方法を選択し、ムダな解き直しを一切許さないため、かえって「スピード」が向上します。さらに、正確でなければ電卓1回だけで解答を出せませんので、必然的に「正確性」が向上します。

予期せぬ落とし穴や計算途中で気づいてしまった場合はどうするのか?

その点がまだ「甘い」ところであり、次回の事前計画段階で反映させればよいだけのことです。

逆に、何が問題だったのかが明確になるため、復習点が明らかとなり、メモとして残しておけばよいということになります(成長を意識しない繰り返し演習は単なる「作業」です。復習点を明らかにして、客観的にそれを出来たか出来なかったかを常に確認することが重要です)。

その他にも大きなメリットはある?

復習の時に「最後のゴールまで完璧にイメージできた」ならば、もう電卓を使って解く必要がないということになります。したがって、復習の時間がむちゃくちゃ早くなります。

公認会計士試験は、100点中60点~70点しか取れないようになっています。したがって、必然的に「捨てるべき30点ないし40点」を判断しなければなりません。
それは問題丸ごとの場合もありますし、枝問題の一部が捨て問題かもしれません。「電卓1回法」で培った能力があれば、その取捨選択の判断を「根拠」と「自信」をもって行うことができます。

「消しゴムを使わない法」もオススメ

実は、電卓1回法では足らず、「消しゴムを使わない法」もオススメしています(笑)。

なぜ、消しゴムを使ってはいけないかというと、消しゴムを使うシチュエーションは、何かしらの「間違い」があったことを意味します。つまり、事前に考えた「解く流れ」に甘さがあったのです。

もしも、その問題に対して完璧な理解と戦略があるならば、電卓は1回で済ませられ、消しゴムも使わずに一発で正しい答えを出せるはずです。
短答式試験の問題を解く場合でも、必ず選択肢を隠して電卓1回法(かつ、消しゴム使わない法)で、基礎標準問題に取り組んでください。

「基礎的標準的な問題を解ける」という意味は、ここまでやれて初めて「少しはできるようになった」といえます。

もっともっと基礎的・標準的な問題から多くのことを学び、理解を深めて、質の高い計算力を身につけることに貪欲になってほしいのです。

理論科目は細かい論点も全て網羅!

逆に理論科目については、短答式試験に関しては応用・上級論点まですべて網羅する必要があります。
細かい論点は最後に一気に押えることが重要です。今焦ってやる必要はありません。

真の意味で基礎的な計算力がついているならば、理論科目の細かい論点は11月中旬くらいからでも十分に間に合います。
ただし、後ろに回すべき論点の目安は「出題可能性×押えやすさ(理解できるかどうか)」で決まります。

出題可能性については出題ランキングなどが参考になるかと思います。出題可能性が低く設定されているものほど後の方で確認するかしないかだけでも十分に合格できます。
ただし、「押えやすさ(理解できるかどうか)」にあまり関心がいっていないように思えます。

最後の最後まで後回しにすべき論点は、出題可能性が低く(細かい知識で)、かつ、押えにくい(暗記するしかない)論点です。この知識の整理整頓をすることが日々の理論の勉強だといえます。

「出題可能性が低く(細かい知識で)、かつ、押えにくい(暗記するしかない)論点」については、情報を集約するためにもノートにまとめていました。本試験3日前くらいに一気にまとめて押さえます。

直前期の答練ではこの「出題可能性が低く(細かい知識で)、かつ、押えにくい(暗記するしかない)論点」が多く出題されるわけですが、リアルタイムに受講してもすぐに忘れてしまいます。
理論科目であってもまずは基本的・標準的な論点を実直に押さえながら、最後にいくにつれてその細かさと範囲を拡大していけばよいのです。

試験時間に拘束される答練は、理論科目に関しては時間がもったいない場合があります。時間配分が試されるわけでもないため理論科目の答練はそこまで大きな意味がないかもしれません(もちろん順位を知るメリットはありますが、理論科目は本試験の前日に完全に仕上がるスケジュールなので、順位をあまり気にする必要はありません)。

私は本試験の2週間前くらいから、理論科目だけの超網羅的な演習トレーニングを課して、徹底的に最後の最後に理論科目の超集中的に全範囲の網羅的に確認させます。
学生によっては「暗記せざるを得ない細かい論点」にも遭遇しますが、数日後の本試験に出題されたとしても他の受験生と差をつけられることはありません。
むしろ、計算科目の基礎標準問題に対する正確性で競争相手に大きな差をつけることになります。

初受験の方は、どうしても計算科目を重視させられるため、理論科目のインプットを軽視する傾向があります。私のセオリーからすれば、それは間違った戦略となります。
むしろ、計算科目を早々に切り上げて、理論科目をまずは終わらせることの方が重要です。

計算問題の得点が2倍、3倍ならば話は別ですが、計算科目も理論科目も同じ配点なのです。
リスクの高い計算科目については全ての範囲をやる必要はなく、基礎的・標準的な論点でとにかく足場を固めることに特化して、理論科目を決して後回しにせずに来る直前期に向けて全範囲を終わらせておく必要があります。
この戦略で大学1年生であっても12月の短答式試験は合格できます。

会計士・短答式に短期間で一発合格するための戦略

短答式試験を短期間で一発で合格するために、計算科目と理論科目とでは異なる戦略であることがおわかり頂けたかと思います。
今現在、違うやり方で勉強をしてきた人、違うやり方で合格した人も多くいるかと思います。

しかしながら、私自身の実績と経験に基づいた場合、普通の大学生が今現在の公認会計士試験制度の枠組みの中で短期間で一発で合格するためには、今回のような戦略が最も望ましいと思っています。
さらに、伸び悩んでいる人、複数回受験している人にとっても、同じ戦略でやれば合格できると考えます。

むしろ、そういう方々こそ、変に応用上級レベル論点に目がいきがちになりますので、是非、今後の勉強方針の参考にしてもらえればと思います。

〈執筆者紹介〉
井上 修(いのうえ・しゅう)
福岡大学准教授・公認会計士
慶應義塾大学経済学部卒業。東北大学大学院経済学研究科専門職学位課程会計専門職専攻、同大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。研究分野は、IFRSと日本基準の比較研究、特別損益項目に関する実証研究。福岡大学では「会計専門職プログラム」の指導を一任されている。当プログラムでは、現役の大学生が多数、公認会計士試験や税理士試験 簿記論・財務諸表論に在学中に合格を果たしている。本プログラムから2018年は10名、2019年は5名、2020年は6名が公認会計士試験に合格。


関連記事

【広告企画】会計大学院(アカウンティングスクール)12校の魅力を探る!

重版出来✨『わかる! 使える! うまくいく! 内部監査 現場の教科書』

【広告のご案内】掲載要領(PDF資料)

ページ上部へ戻る