わたしの独立開業日誌 #行政書士・中村たかし


【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。

実演販売士から行政書士へ

千葉県八千代市で行政書士事務所を営んでいます、中村たかしと申します。
現在43歳、開業3年目となります。受験から現在に至るまでの経験をお伝えいたします。

私は37歳まで不動産会社、物流会社に勤めておりましたが脱サラし、「ちょうどいい中村」という名で、実演販売業の活動を始め、実演販売士として数年間、百貨店等での対面での実演や、ネット通販での実演をしておりました。
一方で、私には、「日本とアジアを結ぶ仕事がしたい」という目標があり、それに繋がる「外国人に対するビザ業務」に関心を持ちました。そこで行政書士という資格を知り、仕事と並行して勉強を始めました。

受験時代について、実演販売業と当時はホステルでの夜勤バイトもしており、勉強はその合間で行わなければならず、年齢的な焦りも相まって非常に辛い期間でした。
ただ、自分の未来に繋がると信じて、独学で勉強を続け3回目の受験で行政書士試験に合格することができました。受験する方は、粘り強く勉強することが大切だと思います。

開業後のプロフィール写真

コロナ禍での開業

行政書士としての開業は、私の計画では数年先になる予定でした。しかし、状況が一変することが発生しました。2020年からの新型コロナウィルスの猛威です。
みなさんも影響があったかと思いますが、実演販売は基本的に対面で行うことが多いので、その全ての仕事がなくなりました。
また、追い打ちをかけるように、バイト先もコロナ禍による売上減少で閉鎖されることになりました。
収入源が一気になくなる事態となり、41歳でニートになってしまいました。

清々しいほどのピンチだったのですが、本当に追い込まれたからこそ、「思い切ったことをやってやろう」という気持ちになり、その行動として、行政書士事務所を当初の計画よりも前倒しで開業しました。
また、宣伝に繋がると思いYouTubeの開設、Twitterに力を入れることに取り組みました。
どれもすぐに収益にならない挑戦でしたが、幸いコロナ禍による給付金、支援金等でお金の支援を受けることができ、当面は事業に集中することができました。

それから1年が過ぎ、行政書士業である補助金業務を何件か対応したものの、行政書士だけで食べていけるレベルには至りませんでした。
その時は、自信を失ったり立ち直ったりを日替わりで繰り返しながら、暗闇を走っている感覚で日々を過ごしていました。

新型コロナ流行前、実演販売の現場にて
(赤いエプロン姿が本人)

転機となった会計事務所との提携

そんな中で、2021年に転機がありました。
営業活動として、地元の士業事務所を回ることをしていましたが、地域有数の会計事務所と提携することができたのです。
その所長は、私のYouTubeを見て、面白い人だと思い会ってみたいと思ったとのことでした。
何がきっかけになるか、わからないものですね。

会計事務所はもちろん会計や税務がメインではあるのですが、顧問先からはさまざまな相談があります。その中に行政書士業務もあり、その仕事を対応させていただくこととなりました。
現在は、会計事務所の2階に私の事務所を移転し、共同事業を進めるなど、より緊密に連携しています。
このようになったのは縁もありますが、士業事務所に入る仕事には、対応できない業務や、やり切れない業務があることがありますので、開業された方は、事務所周辺の士業を回ることは有効な営業方法になるかと思います。
私も引き続き司法書士、社会保険労務士等、横のつながりを増やしていきたいと考えています。

そしてもう1つ、実を結んだことがありました。
それがYoutubeの登録者数、Twitterのフォローワー数が数千人規模まで成長することができたことです。
その頃から、ネットから仕事の依頼を受けることが増えました。
お客様にヒアリングしたところ、ネットで依頼するにあたり、他のサイトでは人柄が見えず安心できないが、毎日のツイートや、YouTubeで喋る姿をみて信頼できたとの意見が多かったです。
つまり、大手事務所ではなくても、お客様の信頼を勝ち取れば、小さな事務所でも選んでいただけるので、お勧めしたい集客方法です。

開業2年目で事務所運営が好転し、生活できるレベルに持っていくという1つの山を越えることができました。
現在は3年目で、1人で運営していますが、今後はスタッフを雇用して組織化することを念頭に業務の拡大を目指しています。

行政書士事務所の看板を掲げたとき

事務所の営業戦略や方針

業務についてですが、業務の分野は2つ以上持つべきと考えています。
1つの業務を極めることも素敵とは思いますが、今回のコロナ禍のように何が起きるかわからない時代です。
もし1つしかない業務が何かあった場合、一気に窮地に陥ります。
そのため、いくつかの関連の少ない業務を持つことがリスクの分散につながります。

私の場合は、現在「補助金業務」と「相続業務」に取り組んでいます。
補助金業務は景気が良くないときにニーズが高まる傾向があり、相続業務は景気に関わらずニーズがあります。
今後は景気が良い時にニーズがある、「ビザ業務」を取り組むことも考えています。
それぞれの業務を理解するには何年もかかりますが、2つないし3つの分野を持つことで、どんな時代にも負けない事務所運営ができるはずです。

次にマーケティングについて、「ネット」と「地域密着」2つの集客ポイントを持つことが重要と考えています。
みなさまの中には、ネットのみで集客を考える方も多いかもしれません。
確かにネットは有効な集客手段ではありますが、SNSであれば誤解を含む何らかの炎上や、ホームページであれば検索アルゴリズムの変更により、がらりと状況が変わることがあります。
そのため、ネットのみに頼るのは危険です。

私の場合、Twitter、YouTubeで外部に発信をしていますが、一方で、地域の集まりに参加するなど地元の方と接する機会を持つようにしています。
直接的な触れ合いを持つことでやる気も上がりますし、知り合いが増えることで地元のいろんな側面が見えて、自分が住む場所にどんどん愛着を持つようになりました。
また、横の繋がりが強いので、仕事の評価をしていただければ紹介により、依頼が広がっていきます。

行政書士は単発の仕事が多いため、継続して安定した収入を上げる難しさはあります。
私も四苦八苦しておりますが、業務やマーケティングをしっかりと考えることで、行政書士は稼げるという手ごたえを感じています。
ちまたには、行政書士は稼げないといった情報もありますが、夢を持っていただいて良いかと思います。

これから士業で開業を目指す方へ

士業で開業を目指す方の中には、今の職業と全然違うから自信がないと考える方もいるかもしれません。
そういった方にお伝えしたいのは、やってきた事は無駄にならないということです。
私の場合、過去に不動産会社に勤めておりましたが、行政書士業の相続業務では不動産の知識がとても役立っていますし、無関係と思われる実演販売業も、そのノウハウがお客様へのプレゼンやYouTubeでの配信に活かされています。
むしろ、これまでに培ってきた別分野の知識やノウハウを活かすことが、5万人もいる行政書士の中でやっていくための武器になると思います。
ぜひオリジナルな士業を目指してください。

最後になりますが、人生を変えたいと一生懸命に努力する方を私は全力で応援しています。
受験も開業も、精神的・体力的にきつい時期がありますが、自分という商品で仕事を獲得できた時は、サラリーマン時代にはなかった喜びがありますよ。
私自身も、現状に甘んじることなく攻めの姿勢を崩しません。お互い挑戦していきましょう!

【執筆者紹介】
中村たかし(なかむら たかし)

行政書士 
1979年2月生まれ、青山学院大学卒業、不動産会社2社にて計7年勤務、法人向け不動産売買仲介、国有地管理・処分を経験、アメリカ留学を経て、外資系物流会社にて5年勤務、海上輸入業務を経験、38歳の時より実演販売士「ちょうどいい中村」として、実演販売、イベント司会など活動、2020年、実演販売士と並行して「中村たかし行政書士事務所」を開業
Twitter(@choudoe1)
Youtube「【行政書士試験】ちょうどいい中村」
事務所ホームページ

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