国見先生に聞く! 論文式まであと1ヵ月‼ 受験生が今から意識すること


【編集部から】
公認会計士試験の論文式試験まで残り1ヵ月。
「不安や緊張で勉強が手につかない…」「もっと効果的に勉強するにはどうしたらいいのか…」と考える受験生も多いのではないでしょうか。

そこで、CPA会計学院の代表の国見健介先生(公認会計士)に、8月に行われる論文式試験合格に向け、今から受験生が意識するべきことを伺いました。 今年、受験予定の方はもちろん、来年目指す方にとっても、参考になるアドバイスなので、ぜひ参考にしてください。

悩むより「合格の確率」を高める!

――論文式まで1ヵ月の今、受験生はどんなことに悩んでいますか?

国見先生 「残り1ヵ月何をすればいいですか」という相談が特に多いですね。「模試の結果が思ったよりよくなかった」というところから、「何をすればいいですか」という相談は多いです。あとは、それと対をなすようによくあるのが、モチベーションの話です。「ちょっと勉強に集中できません」とか「不安でいっぱいです」という悩みですね。

――「模試の結果が思ったよりよくなかったので、何をすればいいですか」という相談には、どういうアドバイスをされていますか

国見先生 「1人ひとりに色んな状況がある」という視点からアドバイスをしています。たとえば、模試の結果が悪くて落ち込んでいる方もいれば、逆にそれなりに仕上がってきたので何をすればいいか悩んでいる方もいるでしょう。ただただ不安で勉強が手につかない方もいると思います。

そのうえで、すべての受験生ができることは、「合格の確率を高める」ということだけなんですね。スポーツ選手でも、オリンピック直前1ヵ月に、「メダルを取るぞ!」と気合を入れて、その確率を高めるための練習に集中できる選手と、「メダルを獲れなかったらどうしよう」と思って、練習に身が入らない選手となら、圧倒的に前者のほうがメダルを獲る確率が高いと思います。

1年に1回しかない勝負。「どうすれば合格の確率が高まるか」を考え、そこに向かって必要なことをできるかが、最終的には大事になってきます。

――合格の確率を上げるために、どのような心構えが大切ですか?

国見先生 大切な心構えは2つあります。

①不安を見ない

まずは不安を隅に置いて見ないようにすることです。「今後の人生でも役立つような、たとえば大きな仕事を任されたときのプレッシャーやストレスにも耐えられるようなトレーニングをしているんだ」ぐらいに思いましょう。
長い人生で色んなチャレンジをすれば、うまくいかないことのほうが多いです。そんなとき、「失敗したらどうしよう」と悩むのではなく、実力を上げることに集中すれば、うまくいく確率も高まります。

最悪の状況を想定する

もう1つは、最悪の状況を想定することです。不安で押し潰されてしまう方は、「うまくいかなかったら、人生が終わる、すべてが無駄になる」という発想になりがちです。
そうではなく、「自分さえ前を向いていれば、どうにでも人生は切り拓ける」と思うことが大事です。
仮に3年後に合格したとしても、そこからキャリアは数十年あるので、長い目で見れば何も人生は終わっていません。それまでの経験すべてが人生に活きます。
最悪の状況をリアルに想定し、「それでも自分は大丈夫」と思えれば、過度に心配する必要もなくなるでしょう。
ただ、3年後に合格するよりは今年合格したほうがいいので、まずは合格の確率を上げることに集中したいですね。

残りの期間は「暗記」に集中する!

――では、具体的に残り1ヵ月の学習で意識することは何でしょうか?

国見先生 結論から言うと、バランスよく徹底的に暗記してください。
論文式は700点満点で、ボーダーラインが4割強~4割5分(300点~320点)ぐらいになることが多いです。
そこで、模試の結果が250点だったとします。ボーダー越えの350点を狙っていたのに、結果が250点なら、満点から逆算すると450点分の解答が間違っているんですよね。
ただ、論文式は4割強~4割5分の素点で合格する試験なので、この場合は、「いかに350点を取るか」というボーダー越えにこだわったほうがいいのです。
たとえば、成績がトップクラスの人たちは模試で500点~550点を取ります。つまり、700点満点のうち150〜200点は、もう誰も解けないということですね。
そう考えると、模試で250点だった人は、700点満点からトップクラスの人も解けない200点を引いた残り500点の中でも、まだ250点分の問題が解けないということになります。
その中身を見ていくと、この250点のうち150点分は、理解していないと解けないもの。つまり、残り1ヵ月という短期間ではどうにもできないものだったりします。
一方で、残りの100点分は、暗記さえすれば解けたかもしれないものなんですね。だからこそ、残り1ヵ月間は徹底的に暗記することをおすすめします。

当然、理解していないと解けない問題のほうが多く、暗記をしても合格レベルに届かない可能性はあります。しかし、今それを心配しても仕方ありません。
直前1ヵ月になると、復習するときに理解度の確認から入ったり、新しい知識をインプットしたりする受験生もいますが、新しいものを勉強したり、理解を深めたりするのは、今からでは非常にコストパフォーマンスが悪いです。
たしかに、直前期にはSNSなどでいろいろな情報が入ってきたり、答練や模試でもあえて難しい論点を出したりするのですが、だからといって手を広げないようにすること。
逆に、「今まで勉強してきたけれど、まだ間違えてしまう」といった論点は、7科目全体を見れば十分あるはずです。そこの暗記の精度を上げることが、直前期は一番コストパフォーマンスがいいので、今は暗記に集中しましょう。

――暗記をするときに大事な視点を教えてください。   

国見先生 暗記で大事なことは2つあります。

①キープしながら足していく

1つは、「キープしながら足していく」ということです。たとえば、模試で3科目は点数がよかったけれど4科目がひどかったとすると、多くの方は悪かった4科目に力を入れたくなると思います。そうではなく、私は「全科目をバランスよく3周、4周しましょう」とアドバイスします。
というのも、得意な3科目に一切触れないまま苦手な4科目だけ勉強すると、4科目は上がっても3科目は下がってしまいます。穴のあいたバケツに水を入れているのと同じですね。

仮に模試で250点を取った場合、あと100点を上げるために優先することの第1位は「250点をキープする」で、第2位もそれです。第3位に「250点をキープしながら、どう100点を上げるか考える」がきます。
250点をキープしながら、残り30日で1日3点分の知識を追加で暗記できれば、本番では90点が積み上げられます。まずは、「いま点数が取れているところを崩さない」という視点を大事にしてください。

②集中して覚える

もう1つは、「集中して覚える」ということです。というのも、テキストを読んでも、「覚えた気になっているだけ」って意外と多いんですね。なんとなくテキストを読んでも暗記に効果はありません。
同じ「10分で覚える」という条件でも、気合を入れているかどうかで、思った以上に結果に差が出ます。残り1ヵ月ずっと気合を入れ続けることは難しいですが、「つらいな」「不安だな」と思いながら暗記している人と、「よし! 絶対に1個でも多く覚えるぞ!」と思いながら暗記している人とでは、2倍も3倍も効果が変わるんですね。
少し精神論のような話ですが、「絶対に覚えるんだ」という強い気持ちをもつことがとても大事です。

――日頃は「理解」に重きを置くアドバイスをされているなか、やはり直前期に重要なのは「暗記」なんですね。

国見先生 そうですね。「理解」と「暗記」というのは、車でたとえると、「エンジン」と「ボディ」のような関係なんです。レースで勝つためにエンジンの性能を上げるのが「理解」で、ボディを整えるのが「暗記」といったイメージですね。

学習初期は、多くの方がボディを整えることに意識が向き、エンジンの性能がそもそも悪いという状態です。しかし、それでは、レースでなかなか勝てないので、「まずはエンジンの性能を上げる=理解が大事」と伝えています。

とはいえ、いくらエンジンの性能を上げても、ボディの整備が間に合わなければ勝負になりません。理解しているほうが暗記しやすい論点もありますが、最後は、理解の比重が低い「ランダムな数値を覚える」とか、「結論を押さえる」とか、そういった暗記に集中したほうがいいですね。

大切な人たちへの感謝を忘れない

――最後に、論文式受験生にメッセージをお願いします。

国見先生 最後に1つお伝えするならば、皆さんが論文式を受けるというのは、すごいことだということです。
短答式の前は、「短答式に合格して、なんとしても論文式を受けたい!」と思っていたはずです。
なので、「いま論文を受けるチャンスを手に入れている」という状況を冷静に考え、初心に戻って行動すること。
応援してくれている家族、支えてくれている友人の顔を思い出したとき、「悔いのないように向き合っている」と言えるのか。ふさわしい頑張りができているのか、を想像してみることです。

とはいえ、応援してくれている人たちも、ものすごく頑張って仮に不合格だったとき、誰も責めてはこないと思うんですね。
「全力を出した結果なんだから、また次、頑張ればいいじゃない」と言ってくれる人がほとんどだと思います。
だからこそ、大切な人たちの思いに応えるため、自分なりのベストを尽くすことが人として大事なことです。

こんなことも考えてもらえると、毎日モチベーションを維持しながら勉強に向き合えるのではないでしょうか。
「集中して暗記する」と「気持ちを整える」、この2つを大事に、ぜひ合格の確率を上げていってください。

【お話を聞いた人】
国見 健介(くにみ けんすけ)
公認会計士/CPAエクセレントパートナーズ株式会社代表取締役
1978年東京都生まれ。1999年公認会計士試験合格、2001年慶應義塾大学経済学部卒業。2001年9月にCPAエクセレントパートナーズ株式会社を設立し、代表取締役就任。2003年1月公認会計士登録。2015年4月にCPAキャリアサポート株式会社を設立し、代表取締役就任。現在に至る。
主な著書に『公認会計士の「お仕事」と「正体」がよ~くわかる本』(秀和システム、2014年)、『親子で目指す公認会計士受験ガイド』(中央経済社、2022年)がある。
運営するCPA会計学院は、2021年公認会計士試験(全合格者数1,360名)において、510名の合格者を輩出した。

【書籍紹介】

『親子で目指す公認会計士受験ガイド』

国見 健介 著
定価:1,760円(税込)
発行日:2022/02/22
A5判 / 144頁
978-4-502-41831-0

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