税理士 梨井 俊
【編集部から】
一般的に「直前期は他の教材に手を広げないほうがよい」と言われますが、合格された方に話を伺うと、「普段の教材以外に目を通すことで理解が深まった」「教材がフォローしていない改正論点をチェックしたら実際に出題された」という声もあります。
そこで直前期に目を通しておくと“意外な”効果のあるツールを、大手専門学校で講師(相続税法担当)も務める税理士の梨井俊先生にご紹介いただきたました。
はじめに
税理士の梨井俊です。今回は、私が受験生時代の直前期に使い、講師となった今でも、直前期の講義の解説や専門学校の模範解答の補足として扱っている「外部資料」を紹介します。
その前に大切な話ですが「税理士試験は相対試験」です。まずは純粋な努力勝負で負けないだけの覚悟は持って直前期の勉強を継続してください。
ここで紹介するものは、いわゆるヤマあてなどに使うギャンブル的な逆転ツールではなく、知識を底上げしたり重要論点・改正論点の理解度を深めたりする目的で、休憩時間やちょっとした気分転換に目を通してほしいプラスアルファのツールになります。
また、今回は国税庁ホームページの法源以外の情報をメインに紹介しているため、とくに役に立つ可能性が高いのは「所得税法」「法人税法」「相続税法」「消費税法」の受験者となることをご了承ください。
ちなみに「法源以外の情報」とは……租税法そのものは租税法律主義にしたがって本来は明確で一義的な表現であるべきですが、ところどころで複数の解釈が生じかねないように一般的・包括的な表現となっています。
そのため個別具体的な事象へのあてはめや制度の趣旨・解釈などについて疑問が生じることも多く、法制度のスムーズな運用のためにも、ある程度のメルクマールが税務当局から公表されており、それをここでは「法源以外の情報」と表現しています。
1.国税庁「質疑応答事例」と同じ論点が出題されたこともある!
「質疑応答事例」は、国税局において納税者からの照会に対して回答した事例等のうち、他の納税者にも参考になると想定されるものを掲載しています。
実務上、紋切り型に個別事例に結論付けてしまうのは考慮が浅いですが、いわゆる「要は何か」を解答するにあたっては、制度の全体像や留意点、重要部分を把握するのに役立ちます。
実際の出題実績を1つ挙げると、令和2年度の相続税法において第一問の問1で「相続税法に特別寄与料に係る規定が設けられている理由・相続税の課税価格及び税額の計算・申告手続」が出題されました。
これは、「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(民法(相続法)改正関係)について」の58ページ(リンク先では59ページ)に、「理由」「課税価格及び税額の計算」「手続」と段落ごとに記載されています。
同年度では第二問の計算においても「宅地と隣接する借地権とを一画地として評価する場合」が出題されましたが、これも「宅地の評価単位-自用地と借地権」とほぼ同じ図解となっています。
2.改正論点は国税庁「Q&A」で理解を深める!
「Q&A」はおおむね新しい法令の施行前に発行される冊子で、制度の概要や想定される具体的なあてはめ事例とその一般的な対応を紹介しています。
税法は改正が多く、昔から税理士試験においては、「改正」「新設」の規定について施行後すぐ、もしくは2~3年経ってから出題される可能性が高いです。
これに加えて近年は、「暗記力」ではなく「理解力」が問われる傾向が強まっているため、頻出の「改正・新設規定の事例問題」の解答のヒントが 「Q&A」に詰まっているといえます。
具体例としては、最近の税法の実務上大きな改正の1つに「消費税率改正」と「軽減税率新設」がありますよね。
令和2年度の消費税法では第一問の問2で「一体資産の適用税率・飲食料品、一体資産の意義」が出題されました。
これは、「消費税の軽減税率制度に関するQ&A目次一覧」のうち、制度概要編の問2「『飲料食品』の意義」、問3「『一体資産』の意義」、個別事例編の問92「一体資産に含まれる食品に係る部分の割合として合理的な方法により計算した割合」に目を通す機会があった方は、試験委員の求める解答に近い答案作成も可能だったのではないかと思います。
3.国税庁「パンフレット・手引」「タックスアンサー」は学習が進んだ方にオススメ!
納税者に向けて、制度の概要を時には図解を使用して簡潔に説明しています。
「簡潔」とはいっても初見で理解するのはなかなかに至難の業なので、専門学校の理論教材である程度学習を重ねて理解が進んだ方にとっては、時系列や重要事項を理解するための一助になります。
ただし、制度を使ううえで必要となる受験科目「以外」の法令についても網羅されています。中途半端な学習深度で目を通すと、いわゆる「論ずれ」の解答を作ってしまう危険性がある点には注意が必要です。
ちなみに……地方税科目または会計科目を受ける場合
地方税科目は、私自身が受験していないため推定にはなりますが、国税庁ホームページと同様の立ち位置にあるのは自治体ホームページになるかと思います。
事実、われわれ税理士も自分の受験科目以外の知識は仕事での経験や外部から情報を得るしかありません。
お客様からすると合格科目は関係なく、「○○税とつくもの(というかお金関係の制度すべて)を税理士は知っているもの」と思って質問されます。
そんなとき、「合格していないのでわかりません」とは言えないときもあります。
「そこまで詳しくないのでちょっと調べますね」などと言いつつ、お客様の住所地の自治体ホームページなどで情報を集め、誤りのないように細心の注意をはらって自分の言葉で説明する必要もあります。
また、会計科目については、私が財務諸表論を受験したあたりの年から企業会計原則や会計基準の穴埋め問題が出てきました。
令和3年度の簿記論では第一問の問2で「収益認識に関する会計基準」を基礎とした問題が出題されましたが、これも企業会計基準委員会の公表資料です。
会計科目におけるトピックや重要事項を確認するには、企業会計基準委員会/財務会計基準機構ホームページや企業会計原則が適切かと思います。
超直前期を迎えている受験生へのメッセージ
最後に、突然ですが質問させてください。試験後しばらくしてから国税庁ホームページで公表される「税理士試験出題のポイント」(リンク先は令和3年度)に目を通したことはありますか。
「○○年度に改正された」や「○○年度から適用される」という文字も目立ちますが、同様もしくはそれ以上に「基礎的な事項」「基本的な理解」というような表現が見られると思います。
「はじめに」でもお伝えしましたが税理士試験は相対試験です。他が正解できなかった問題を正解した人から合格していくのではなく、他が正解できた問題をしっかり正解できた人から合格していく試験です。
知識を1本の木でたとえたとき、この記事でいうところの「プラスアルファ」を、葉=「新しい知識の導入」ではなく幹=「既存の知識の補強」として活用してください。
合格に近づく方が1人でも増えるよう、みなさんを引き続き応援しています!!
〈執筆者紹介〉
梨井 俊(なしい・しゅん)
税理士
大手専門学校で相続税法の講師を務めるかたわら、月次顧問を主な業務とする開業税理士。大学受験の学習塾で英語講師を8年間務めた経験から、学習法や覚える仕組みを資格試験の勉強にもあてはめ、活用法や座学と実務の違いなど、積極的に情報発信も行っている。