『USCPAになりたいと思ったら読む本』の著者に聞く 資格の活かし方、試験のリアル


“USCPA”という資格の名前は聞くけれど、どんな資格? 仕事で活かせる? 試験は難しい?など、気になることも多いのではないでしょうか。 

そんな皆さんの素朴なギモンに応えるべく、新刊『USCPAになりたいと思ったら読む本』(中央経済社)の著者にインタビューをさせていただきました。

*本インタビューは初版刊行時に行ったものです。同書は2023年12月に改訂版が刊行されました。
USCPA(米国公認会計士)になりたいと思ったら読む本〈改訂版〉

お話を聞いた人
【どこ】
ワシントン州のUSCPA(米国公認会計士)。
「USCPAどこのブログ」管理人。
USCPA試験全科目合格後、大手監査法人に転職し、東京事務所の国際部にて、外資系企業をメインのクライアントとする会計監査人になる。
その後タイのバンコクに移住し、米国企業のタイ子会社にて、親会社への会計レポートを担当し、さらに帰国後、日系グローバル企業の東京本社にて、連結決算に携わる。

USCPAの資格のことを聞いてみよう!

――USCPAとはどのような資格ですか?

どこさん USCPAは、米国の公認会計士です。日本からの視点で建て前的な表現をすると、「英語力」と会計をはじめとする「ビジネス知識」の両方があることを示せる資格です。

米国の資格なので、試験は当然、英語で行われます。試験科目は「FAR(財務会計)」「BEC(経営環境と諸概念)」「AUD(監査証明業務)」「REG(諸法規)」と多分野にわたり、ビジネス知識が幅広く試されます。

「英語だけできる人」「会計だけできる人」は多くいますが、「英語も会計もできる人」となると限られ、USCPAは希少価値の高い人材になれる可能性も高くなります。

特に、外資系企業やグローバル展開している企業などではUSCPAの需要が大きいです。

USCPAは「好待遇な条件を得る切り札」になるでしょう。

一方で、海外との取引がなく、英語を必要としない日本企業などでは、USCPAより日本の公認会計士や日商簿記1級保持者のほうが評価が高くなる印象です。

会計関連の職種に限らず、なんらかのビジネス経験がある人は、USCPAの知識を経験にかけ合わせて仕事に活かせます。

ただし、USCPAではビジネス知識を「広く浅く」しか学ばないため、特定の分野で専門家として活躍したいと思うなら、合格後に自分で専門性を身につけ、さらに自己研鑽を続ける必要があります。

USCPAは単なる「専門的な世界へのパスポート」とも捉えられます。

USCPA試験は、1年半という制約はありますが、日本の税理士試験のように1科目ずつ合格を積み上げていくことができます。自分で受験科目の順番や受験日が決められるため、日本の公認会計士に比べると社会人でも挑戦しやすい資格といえますね。

USCPA試験の勉強と仕事が両立しやすいとはいえ、決して簡単ではありません。一般的な勉強期間は1年~1年半と長丁場。仕事をしながら勉強を継続するのは、思った以上に大変だという覚悟も必要です。

このように、USCPAには厳しい側面があるのも事実ですが、個人的には「自分の望む働き方を後押ししてくれる資格」だと思っています。

USCPAだと日本での独占業務権限がないため、反対に監査業務や税務業務だけに縛られることがありません。資格を活かす場も日本だけと考える必要もありません。

今まで多くのUSCPAと一緒に働いてきましたが、「定年まで同じ会社で働きたい」といった安定志向タイプはほとんどいなく、よい意味でアグレッシブかつ新しもの好き、変化にどんどん立ち向かうタイプが多かったです。

そういった意味では、USCPAは、「新しい働き方がしたい」「上を目指していきたい」という人を魅了する資格なのかもしれませんね。

本書を読むと、資格のリアルがわかる!

――USCPAの資格はどのような場面で活かすことができますか?

どこさん 大きく分けると、次の3つになると思います。

① 転職で活かす
② 現職で活かす
③ 海外で働くチャンスを得る

①については、会計関連の仕事に就いている場合は、「会計×英語」を武器に外資系企業やグローバル企業などに転職できます。

まったく専門性がない方でも、「USCPA」という肩書を得ることで、会計関連のプロフェッショナルとしてキャリアを始めることが可能になるでしょう。

また、②のように、特に転職をしない場合でも、USCPAの知識を業務に活かして高い評価を得たり、昇進や希望部署への異動などを実現させることができるかもしれません。

転職で活かすとしても、現職で活かすとしても、年収ややりがいがアップするのではないでしょうか。

そして、③のように、「海外で働きたい」という方にもUSCPAは人気です。

資格があれば、海外駐在員に選ばれやすくなったり、自分で海外で仕事を見つけるにも採用されやすくなります。

USCPAは、なくてはならない「マスト」な資格ではありませんが、あれば「プラス」になり、優遇される理由になりえます。

本書カバーより

「USCPA×○○」というダブルライセンスの活かし方

――最近、公認会計士試験や税理士試験に合格した後、USCPAの学習を検討しはじめる方を見かけるようになりました。どこさんの周りはどうですか?

どこさん 実は、私の周りだけを見ると、日本の公認会計士や税理士でUSCPAも取る方はいないんです。逆に、USCPAから日本の公認会計士を目指す方は多くいました。

ただ、SNSを見ると、たしかに公認会計士試験や税理士試験に合格した後、USCPAの学習を始める方を見かけるようになりましたね。

日本国内で仕事をするぶんには、日本の公認会計士や税理士の資格だけで食べていけるはずです。そのため、日本の公認会計士や税理士といった方がUSCPAに挑戦するのは、「プラスアルファ」の効果を得たいからだと思います。

USCPAの活かし方としては、大きく「日本国内」と「海外」に分かれるのではないでしょうか。

日本国内の場合、国際的な案件を獲得できることがUSCPA資格の大きなメリットになると思います。

ダブルライセンスがあることで、他にも大勢いる公認会計士や税理士と差別化できます。

会計英語の理解や、USGAAP(米国会計基準)の知識があることで、競争が少ない分野で、高い報酬を得られる可能性が高くなります。

たとえば、「公認会計士×USCPA」であれば、米国企業の監査業務や会計業務を引き受けることが可能になるでしょうし、「税理士×USCPA」であれば、国際税務に携わることも可能になるでしょう。

そして、海外の場合ですが、USCPA資格は海外でも高く評価されるので、名刺に「USCPA」と記載できることで、より信頼が得られやすくなると思います。これは、海外で自分のビジネスを始める場合にも有効です。

さらに、USCPA資格があれば、米国に限らず、「相互承認協定(Mutual Recognition Agreements:MRA)」を結んでいる国(たとえば、オーストラリアやカナダなど)で、その国の公認会計士として働くことができるようになります。日本は「相互承認協定」を結んでいないため、日本の公認会計士資格では、この制度は利用できません。

そのため、ビジネスをグローバル展開したい場合は、USCPA資格が大きなメリットになるかもしれませんね。

USCPA試験と日本の会計資格試験の違い

――USCPAで学習する「英文会計」は、日本で学ぶ簿記と比較して、どのような特徴がありますか?

どこさん まず、日本の簿記より英文会計のほうがシンプルなのはたしかです。勘定科目ひとつとっても、日本語より英語で示したほうが意味を捉えやすいんですね。

試験という観点でも、日本の簿記検定は、計算させる問題が多く、どちらかというと取引の発生から財務諸表の作成までの過程を「下から上に」見ていくような感じがします。

一方でUSCPA試験は、計算問題が出るとしても理解を試すためであり、財務諸表という最終形がどのようにできてくるのか、「上から下に」細かく分解していくようなイメージです。

英語の試験にたとえると、英検とTOEICの違いに似ています。受験したことのある方はご存じかと思いますが、英検よりTOEICのほうがビジネスシーンでの会話やe-mailといった実用的な問題が多いですよね。

それと同じで、必ずしも日本の簿記が実務的ではないというわけではないのですが、英文会計より日本の簿記のほうがより学問的な感じがします。

――日本の会計資格試験とUSCPA試験で親和性が高い点はありますか?

どこさん USCPA試験のFARでは、簿記3級から簿記1級の一部の内容が出題されます。難易度としては簿記2級くらいですね。そのため、もしすでに簿記2級に合格していれば、FARのインプットが楽になることはたしかです。

ただし、英語で理解する必要があるので、わざわざ簿記検定の勉強をして遠回りする必要はなく、最初からUSCPA試験の勉強を始めてもよいと思います。

また、日本の公認会計士の場合、すでにUSCPAの試験内容の多くを知っているはずです。

特にFARとAUDは、かなりインプットの時間が短縮できるのではないでしょうか。

とはいえ、FARの公会計、BECのIT、REGの連邦税法などは追加で学習する必要がありますし、英語で専門用語を覚えたり、JGAAP(日本の会計基準)とUSGAAP(米国の会計基準)の違いを押さえたりする必要があるでしょう。

さらに、出題形式が異なりますので、問題演習などのアウトプットの時間もそれなりに必要となります。

ちなみに、USCPAから日本の公認会計士を目指す場合は、苦戦されている方が多い印象です。

いくらUSCPA試験に合格しているとしても、日本の公認会計士試験は「広く深く」出題されるので対策に時間がかかり、働きながら勉強時間を確保するのは大変なようです。

そういった意味では、日本の公認会計士からUSCPAを目指したほうが、ダブルライセンスを揃えやすいのかもしれません。

――同じ英文会計を学ぶ試験として、東京商工会議所主催のBATIC?(国際会計検定)がありますよね。先日、2022年度をもって終了することが発表されました。

どこさん 発表を聞いて驚きました。もともと、英語で会計を勉強することとの相性を確かめるため、USCPAに挑戦する前にBATICの勉強をしてみることをおすすめしてきましたので、非常に残念です。

USCPAはBATICとはまったくの別物ですので、BATICがなくなるからといって、代わりにUSCPAを学べばよいということにはならないでしょう。

BATICは「英語版の簿記3級」といった感じで、FARの基礎が学べますので「USCPAを受ける前のお試し」としてはちょうどよいと思います。

ですが、他の3科目(BEC、AUD、REG)はカバーしていませんので、USCPAと比較対象にはならないです。

発売元:中央経済社

英語が得意か、苦手か。

――英語に苦手意識がある方でも挑戦できる資格ですか?

どこさん 英語に苦手意識があっても挑戦自体はできます。ただし、USCPA試験の「学習はできる」という意味であり、「合格できるか」というと別問題です。

苦手意識があると、USCPA試験の勉強を続けることが苦痛になってくるのではないでしょうか。そうなると、合格する前に挫折してしまうことが考えられます。

また、USCPA資格を活かして仕事をする場合は、英語力が少なからず期待されます。USCPAであれば当然高い英語力があり、国際的な業務にも対応できる、とみなされます。

英語に苦手意識があるということは、そのような期待に応えられず活躍の場が限定される可能性があり、苦手なものを仕事で使うことに苦痛を感じると思います。

なるべくなら、自分が得意だと思うこと、自分が好きなことを十分に活かすのが、幸せな働き方ですよね。

試験に合格できる可能性・自分に合ったキャリアが築ける可能性が低いことを考えると、英語に苦手意識がある方には、あまりおすすめはできません。

とはいえ、USCPA試験の学習を通して英語力は向上させられますし、合格後の努力で英語力はなんとでもなります。「英語が得意ではないけれど好き」という方でしたら、ぜひUSCPAに挑戦してもらいたいです。

――USCPAとしては、仕事でまんべんなく英語力が求められるのでしょうか。

どこさん そうですね。USCPAの試験自体は「読む」と「書く」だけが必要ですが、外資系企業などで働く場合は、海外との電話会議などが多くなりますので、「読む」と「書く」だけではなく、「話す」と「聞く」ができることも期待されます。

ただ、実は監査法人だと、「話す」「聞く」が必要な場面は、そこまで多くありません。

外資系企業の監査をする場合、クライアントのトップが外国人ということがあっても、やりとりをする経理部員は全員日本人ということが多いです。

マネジメントインタビューは英語になり、「話す」と「聞く」が必要ですが、それ以外は英語で監査資料を「読む」、そして英語で監査調書を「書く」のがメインとなってきます。

読者へのメッセージ

――USCPAに興味のある方、いま勉強している方にメッセージをお願いします。

どこさん USCPAについては、「試験が簡単」とか「資格を取っても活かせない」など、色々なことが巷で言われています。

ですが、「試験が簡単」とは考えないほうがよいと思います。コツコツと勉強を続ければ合格できるので、恐れる必要はありませんが、甘く見て挑戦すると後悔することになると思います。

また、USCPAに限らず、どの業界・どの職種でも活かせる「完璧な資格」は世の中に存在しません。

たとえば、病院で働きたい場合は弁護士資格ではなく医師免許が必要ですし、フレンチレストランで働きたい場合も弁護士資格よりワインソムリエが活きるでしょう。

「USCPAは日本の公認会計士より試験が簡単だから活かせない」などと言われることがありますが、資格は試験の難易度は関係なく、活かせる場所・活かせない場所があると思います。

そして、資格は今までの自分自身の経験やスキルにかけ合わせていくものだと思うので、資格が活かせる人・活かせない人にも分かれます。

ですので、USCPAへの挑戦を決意する前に、今までのキャリアとこれからのキャリアプランを見つめなおし、さらに自分の経験やスキルを棚卸して、USCPA資格がプラスに働くか、よく考えてみてください。

USCPAに興味のある方は、「自分ならUSCPAが活かせる」、そう思えるならば、ぜひ挑戦していただきたいです。

USCPA試験に限らず、一定期間勉強を続けるのは大変なことです。「USCPAに絶対なる」という強い決意が、勉強を続ける原動力になると思います。

いま勉強している方は、合格後にUSCPAとして活躍している自分をイメージしながら、モチベーションを維持しつつ頑張ってくださいね。

――ありがとうございました!


【書籍紹介】

『USCPA(米国公認会計士)になりたいと思ったら読む本』

どこ 著
定価:2,200円(税込)
発行日:2022/03/16
A5判 / 176頁
ISBN:978-4-502-41901-0

〈目次〉
第1章 USCPAになりたいと思ったらはじめに確認すること
第2章 何ができる? USCPAという資格の活かし方
第3章 こんな活躍ができる! USCPAのキャリアパス
第4章 自分にはどれが最適? USCPAと他の会計資格の比較
第5章 USCPAになると決めたら「合格の誓約書」を作成しよう
第6章 USCPAになるまでの道のりをたどってみよう
第7章 USCPAに絶対なるなら短期合格を目指そう
第8章 途中で挫折しないためのサポート

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