【税理士合格体験記】60歳からのチャレンジ! 働きながら、大学院に通いながら、独学で「簿・財・消」に合格 


KI
(大学院生・60代)

合格科目:簿記論(平成28年)、財務諸表論(平成29年)、消費税法(令和3年)
学習スタイル:独学

税理士を目指したきっかけ

私が税理士試験を受験したのは60歳の定年を迎える頃であった。大学卒業後は、何度か転職を重ねながらも会社員としてやってきた。その間に税理士になろうと考えたことはなかった。

それまで幸いにも経理部長や事業計画室長として200年近い伝統ある企業の幹部社員として働いてきたが、オーナーの事情から上場大手ビール会社に買収されることとなった。役員もほとんどが降格させられ、管理系の部長クラスもそのビール会社から派遣されてくることに。

不採算事業とか敵対的買収ではなく、単なる事業承継上の買収であったが、当時誇りをもって働いていた幹部社員たちの反発を買うものであった。

私自身も、ビール会社の役員と何度か会社の将来について話し合ったが、その役員はあまり乗り気ではなく、無駄な時間を過ごした。そして、従来であれば「経理部長から役員へ昇格」という道もあったが、それも閉ざされ、やる気を失うしかない。私の定年後は、退職するか再雇用として他部署に異動させられるかの選択しかなかった。

その後、いったんは会社に残るものの、1年以内に自分の得意分野を活かせる道を探して退職することを決心した。自分の得意なことは「財務経理」や「経営企画」。それを活かして転職することも考えたが、なにか資格を持っていたほうが有利と思い、税理士試験に舵を切った。

簿記論・財務諸表論の勉強法

仕事柄、会計や税法には自信があったので、最初から簿記論・財務諸表論・消費税法・法人税法の4科目を同時に受験した。

1日目に3科目をいっぺんに受験するので、60歳の自分には体力的な不安もあったが、終わってみると意外と元気で我ながらびっくりした。しかし、法人税法は翌日の朝一番。さすがに何もできずに試験に突入した。

結果は、簿記論には合格できたが、他は不合格であった。翌年(2017年)、なんとか財務諸表論に合格した。

簿記論・財務諸表論の勉強方法だが、「計算」については過去問を繰り返し解いた。他に各専門学校の模試も集め、また、雑誌「会計人コース」の特集なども活用し、できるだけ多くの問題にあたった。

ただ、仕事では立場上、それまで電卓を使うことがほとんどなかったため、計算スピードがかなり遅く、時間内にすべての問題に手をつけることができなかった。さらに「右手の1本指」打法であったため、左手の3本指で激しく電卓を叩く現役とは圧倒的な差があった。しかも、通勤に片道1時間半ほどかかっており、平日に自宅で勉強することも困難。電卓を速く打つ練習にかける時間はなく、その気も起きなかった。

そのため、計算スピードはなかなか速くならなかったのだが、正答率はかなり高かった。そこで、電卓を打つまでのアクセス時間を短縮することに集中した。方法としては、問題文を読んで瞬時に仕訳を思い浮かべる訓練、あるいは、計算過程をイメージする練習を繰り返した。

実際に電卓を叩きながら時間を計って問題を解くのは休日だけであった。平日は「計算」よりも「理論」で、もっぱら電車の中で財務諸表論の専門書を読んでいた。特に『財務会計講義』(桜井久勝著、中央経済社)が非常によかった。コンパクトに要点がまとまっている。

税理士受験生で専門書を読む人はほぼ皆無だと思うが、納得できないと進めない人間なので、自分にはこれが合っていた。

☆簿記論・財務諸表論ワンポイントアドバイス☆

【簿記論】 
大量の問題を時間内に解くには、かなりのスピードが必要。しかし、それは電卓を打つスピードではなく、そこまでのアクセス時間をいかに短縮するかにかかっている。

【財務諸表論】
理論は暗記ではなく「理解」が重要。テキストを丸暗記するのではなく、しっかり理解する。場合によっては、専門書を読んだほうが早く理解できることもある。

消費税法の勉強法

簿記論・財務諸表論には早く合格できたが、税法科目には手こずった。特に理論暗記が苦手で、なかなか点が伸びなかった。もともと「理論」というからには判例・学説を書くものと思っていたのだが、条文を暗記するというのでびっくりした。

暗記が苦手というか嫌いで、これは思ったより合格に時間がかかりそうだと考えていたところに、偶然ヘッドハンティング会社からオファーがあった。中堅会社の上席執行役員・管理本部長としてのオファーであり、面白そうだと思ったので受けることに。

しかし、この転職によって仕事がかなり忙しくなることが予想され、また、税法科目には必ず「理論暗記」がついてくるので、時間的にも性格的にも無理だと思い、大学院に進学して科目免除の道を選ぶことを決めた。

転職してからは、仕事に大学院、税理士試験と大忙し。幸いにも大学院が夜間に開講していたので、仕事が終わってから大学院に行くことはできたが、家では寝るだけ。そんなハードな日が続いた。

新しい仕事は国内のみならず海外への出張も多く、アメリカ、シンガポール、韓国など多方面に及んだ。さらに大学院では、講義に出席するだけではなく修士論文も書かなければならない。

そのため、研究に必要な書籍や論文はすべてpdfにし、移動中も読めるようにパソコンやスマホに保存した。紙は意外と重く、大量に持ち歩くのは不可能だった。

大学院に進学したことで税法科目は残り1つとなったが、受験する税法科目としては消費税法を選択した。ただ、大学院に進学する前から、A判定にはなるもののなかなか合格しないという状況が続いていた。仕事と大学院で非常に忙しいということはあったが、それよりも課題は「理論暗記」にあった。

計算は、申告書を作るのと同じなので、あまり問題ではなかった。しかし理論は、そもそも見ればわかる条文をなぜ一言一句覚えなければいけないのかが理解できなかった。これが理論暗記に力が入らなかった主な原因である。

予定では、大学院が修了するまでに消費税法に合格し、すぐに科目免除を受けることであったが、修士課程を修了した2020年も合格できなかった。

しかし、大学院での研究が自分の知的好奇心を喚起させてしまい、2020年4月にそのまま博士課程に進学した。とはいえ、博士課程では研究に大幅な時間を取られ、さすがに仕事・大学院・税理士試験の両立はできなくなったので12月に退職し、2021年からは大学院と税理士試験に専念した。

その功あってか、なんとか2021年には消費税法に合格し、科目免除を申請することができた。合格できた理由は、あれほど嫌いだった理論暗記を“諦めて”しっかりやったことに尽きる。

それまでは、時間がないこともあって苦手な理論暗記を後回しにしていたが、結局そこまで手が回らずに試験を迎えていた。しかし、さすがに会社を辞めたとあっては逃げ道がなくなる。否が応でも理論暗記せざるをえない状況に自分を追い込んだのが勝因だった。

理論暗記の方法としては、条文を壁に貼り、いつでも見られるようにした(トップ画像参照)。また、財務諸表論と同様に税法科目でも専門書を読んだ。

消費税法は、コンパクトに要点がまとまった良いものはあまりないのだが、『プロフェッショナル消費税の実務』(金井恵美子著、清文社)は比較的よかった。

法人税法を受験したときにも専門書は読んでいたが、法人税法の専門書はどれも分厚いので、『法人税法』(渡辺淑夫著、中央経済社)をpdfにし、スマートフォンに取り込んで読んでいた。

ちなみに、税法科目でも「計算」は得意であったが、相変わらずスピードは遅かった。そのため、ここでも電卓を叩くまでのアクセス時間を短縮することを目標とし、問題文を読んで取引分類等を瞬時に判断する訓練を行なった。

また、専門学校の答練なども入手して数多くの問題にあたるとともに、「間違いノート」を作り、苦手なところをチェックできるようにした。これも紙のノートではなくpdfに書き込み、どこでも見られるようにした。

◆pdfにして持ち歩いた「間違いノート」
☆消費税法ワンポイントアドバイス☆

計算は、やはりスピードが必要。ここも電卓を打つ前までが勝負。取引分類等を瞬時に見分ける訓練が重要である。しかし、条文の暗記も軽んじてはいけない。私はこれを軽んじて時間を無駄にした。試験は合格できなければ意味がないので、最低限のことはやっておく。

最後に

この合格体験記が働きながら勉強している人、家事育児をしながら勉強している人、私のようにある程度の年齢を経てから勉強を始めた人の参考になれば幸いです。

時間は作るもの、そして頭はいくつになっても鍛えることができるものです。

環境や年齢は人それぞれに違いますが目標は同じ、そこに違いもハンディもありません。初学者もベテランも、男女も、年齢も一切関係ありません。横一列みな同じです。なので諦めたらおわりです。

私もすでに65歳になりましたが、今年は税理士登録をし、今後は大学院での研究を続けて博士号取得を目指します。また、大学院在学中にAFPおよび2級FPを取得したので、その最上級資格であるCFPおよび1級FPの受験も今年は予定しています。まだまだ勉強は続きます。

最後まで自分を信じて頑張りましょう!


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