よせだあつこ
(willsi株式会社取締役/公認会計士)
簿記受験生と電卓は切っても切れない関係ですが、試験用電卓には機能がたくさん付いているため、「使い方が不安…」「便利な機能らしいけど使ったことがない…」という方も多いのではないでしょうか。
今回は簿記受験生にとって必須の操作スキルを3つご紹介します。
【スキル1】桁下げキー
簿記では次の計算のように「桁の多い金額」を「いくつも」合計する機会が非常に多いです。
254,000+43,800+1,232,000+5,530,000+76,400=7,136,200
簿記の試験は時間との勝負なので「速く」「正確に」電卓を打つのが一番よいのですが、誰にでも入力ミスをしてしまうことはあります。
最初の254,000で入力ミスをした場合は、CEを押して最初から入力しなおせばよいですが、最後のほうの5,530,000を入力するさいに間違えて5 5 2と押してしまったら大変です。
最初から入力しなおすのは時間がかかるし、Cを押そうかどうしようか…と慌てます。
そこで役立つのが桁下げキーです。
桁下げキーは電卓の「→」や「▶」で、このキーを押すと、電卓のディスプレイに表示されている1番右の数字が消えます。
5 5 2と入力しディスプレイに552と表示されているときに → や ▶ を押すと、ディスプレイは55となります。続けて3 0 0 0 0と押すと、何事もなかったかのように5,530,000を入力することができます。
「速く」「正確に」電卓を入力するには?
「速く」「正確に」電卓を入力するためには、数字を高速で入力するよりも、ゆっくり正確に入力してミスをなくし、何度も電卓を打ちなおす時間を節約したほうが効果的です。
よくいただく質問とそれに対するアドバイスです。
電卓は左手で打ったほうがいいですか?
左手と右手どちらもメリット・デメリットがあるので、打ちやすいほうで大丈夫です。
ブラインドタッチ(電卓を見ないで入力すること)をしたほうがいいですか?
最初は、問題文や計算用紙と電卓のキーやディスプレイを交互に見ながら正確に入力したほうがミスしにくいです。慣れてくると自然とブラインドタッチになります。
【スキル2】サインチェンジキー
サインチェンジキーは電卓の「+/-」で、プラスとマイナスを変更できます。
簿記ではとてもよく使う機能で、2つの例を挙げて説明します。
例1 損益計算書
次の損益計算書では、まず販売費及び一般管理費を合計し200+100+120=420、次に売上総利益1,000-販売費及び一般管理費420=営業利益580という計算をします。
計算式を書くと上記のようになりますが、電卓でサインチェンジキーを使うともっと速く計算することができます。
2 0 0 + 1 0 0 + 1 2 0 =(ディスプレイに420と表示される)+/-(ディスプレイに-420と表示される)+ 1 0 0 0 =(ディスプレイに580と表示される)
販売費及び一般管理費の合計420を電卓に残したまま、サインチェンジキーで-420に変えて1,000-420=580の計算に続けます。
損益計算書では数回このような計算をするので、サインチェンジキーを使いこなすことができれば、同じ金額を何度も入力する手間が省け、速く解くことができます。
例2 仕訳の集計
仕入は左側に残高がくる勘定科目ですが、次のような仕訳を集計するとき、右側始まりになってしまうことがあります。
4月2日 買掛金50 / 仕入50 4月3日 仕入200 / 現金200 4月7日 仕入350 / 買掛金350 |
計算式で書くと-50+200+350=500ですが、電卓では次のように計算します。
- 5 0 + 2 0 0 + 3 5 0 =
または
5 0 +/-(ディスプレイに-50と表示される)+ 2 0 0 + 3 5 0 =
200+350-50=500という順番で計算すればよいのではないか、と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際の仕訳では上記の例のように仕入が3行続いていることはなく、飛び飛びに仕入が出てきます。
2回目の仕入を探して1回目の仕入を入力するのは時間も手間もかかるので、サインチェンジキーを使った方法はとても便利です。
【スキル3】入力の順番
電卓の機能ではないのですが、簿記で電卓を入力するときにぜひ覚えておいてほしい操作スキルをご紹介します。
簿記では次のような計算式が多く出てきます。
5,000円 × 3ヵ月/12ヵ月 =1,250円
借り入れをしたので1年間(12ヵ月)で5,000円の利息を支払いますが、当期借り入れていた期間は3ヵ月しかなかったので3ヵ月分だけ当期に計上する場合です。
考え方としては「5,000円を12ヵ月で割って、そのうちの3か月」という意味で、次の入力方法が理解しやすいでしょう。
5 0 0 0 ÷ 1 2 × 3 =
しかし、この順番で入力してみてください。答えが1,249.9999…となり割りきれません。
それでは、次のように入力してみてください。×3と÷12を入力する順番を入れ替えます。
5 0 0 0 × 3 ÷ 1 2 =
答えが1,250となり割り切れました。
実務では1,249.999…でも1,250として計上するので大きな問題にはなりませんが、試験だと「小数点以下が発生した場合には…」という指示がないかぎり、出題者は割りきれる数で解答してほしいという意図があります。
そこで、算数では「×と÷は並列」のように習ったのですが、簿記では÷より×を先に計算するようにしてください。
電卓の設定を確認しよう!
電卓を買ったら最初に小数点指定スイッチとラウンドスイッチを次のように設定しておきましょう。
また、模擬試験の前、試験本番の前には次のように設定してあるか確認しましょう。
小数点指定スイッチとラウンドスイッチの設定がいつもと違うと、ディスプレイが見づらくなるだけでなく解答を間違えてしまうこともあります。
小数点指定スイッチ
小数点の位置を指定するスイッチです。
簿記ではディスプレイに表示できる桁いっぱいまで小数点以下の数字を表示させ、小数点以下の数字については自分で判断する必要があります。
次のように設定しておきましょう。
※シャープ製(EL-G37)とカシオ製(ND-26S)を例にしています。
〈シャープ製〉
〈カシオ製〉
ラウンドスイッチ
ラウンドスイッチは、端数処理について四捨五入や切り上げ、切り捨てを指定するスイッチです。
小数点指定スイッチで桁いっぱいに数字を表示させる設定にしているので、ラウンドスイッチは効きません。次のように設定しておきましょう。
※シャープ製(EL-G37)とカシオ製(ND-26S)を例にしています。
〈シャープ製〉
〈カシオ製〉
【参考】シャープとカシオの比較
電卓は、正しい知識と操作スキルを身につけることができれば、簿記学習の強力な相棒となってくれるでしょう。
みなさまの簿記学習を応援しています。
〈執筆者紹介〉
よせだあつこ
willsi株式会社取締役/公認会計士
監査法人トーマツを経て、スマートフォンアプリの企画・開発・販売をおこなうwillsi株式会社を設立。開発した学習アプリ「パブロフ簿記」はシリーズ累計100万ダウンロードの大ヒット。主な著書に『パブロフ流でみんな合格 日商簿記3級テキスト&問題集』(翔泳社)、『パブロフくんと学ぶ電卓使いこなしBOOK』、『パブロフくんと学ぶはじめてのプログラミング〈第2版〉』、『パブロフくんと学ぶITパスポート〈第3版〉』(いずれも中央経済社)などがある。
★もっと電卓を使いこなしたい人へオススメ!
『パブロフくんと学ぶ電卓使いこなしBOOK』
著者:よせだあつこ
定価:1,430円(税込)
発行日:2016/03/28
A5判 /144頁
ISBN:978-4-502-18311-9
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★ほかの「パブロフくんと学ぶ」シリーズ
『パブロフくんと学ぶはじめてのプログラミング〈第2版〉』
著者:よせだあつこ
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発行日:2021/10/26
A5判 /192頁
ISBN:978-4-502-40521-1
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『パブロフくんと学ぶITパスポート〈第3版〉』
著者:よせだあつこ
定価:1,958円(税込)
発行日:2021/03/29
A5判 /336頁
ISBN:978-4-502-38121-8
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