【『財務会計講義』を読もう!】第7回(最終回):割引現在価値


退職給付債務・資産除去債務などの算定方法

 今までは資産の評価基準の1つとして将来キャッシュ・フローの割引現在価値を取り上げてきた。

 将来キャッシュ・インフローを使って資産を評価できるのであれば、将来キャッシュ・アウトフローを使って負債を評価できるのではないかと考えるのが自然である。

 上記のリース負債は、まさにリース料総額という将来キャッシュ・アウトフローの割引現在価値から求めている。

 同様に将来退職金の支払い(キャッシュ・アウトフロー)となる退職給付債務についてもその割引現在価値で算定することが可能である。

 固定資産のなかには、それを取得し使用した者に、その資産を除去すべき法律上または契約上の義務を生じさせるものがある。

 原子力発電設備の解体義務、鉱山の土地の原状回復義務、借地に建てた建物の契約満了時点での撤去義務などがその典型である。

 このような有形固定資産の取得や使用によって生じ、その資産の除去が法令や契約で要求される場合の義務を資産除去債務という。

 資産除去債務を伴う固定資産を取得・建設・開発した企業は、その時点で予想される将来の除去のための支出額を見積って、その割引現在価値を算定し、これを資産除去債務として負債に計上する。

設 例(資産除去債務の計上)                                   

 X1年4月1日、当社は機械装置200,000円を小切手を振出して購入し、耐用年数を3年として使用を開始した。当社には、この機械装置を耐用年数経過時に除去すべき法的義務があり、除去時には6,749円の支出を要すると見積られている。割引現在価値の計算に適用する利率は年4%とする。

資産除去債務の割引現在価値の計算

*9 6,749÷1.04÷1.04÷1.04≒6,000円

(借)機械装置 206,000
 (貸)現金預金 200,000
 資産除去債務 6,000

 3年後の機械除去時に支払う予定の6,749円を、機械取得と同時に資産除去債務として割引現在価値の6,000円で計上しなければならない。本設例においても各決算時の減価償却費の計上や資産除去債務の調整の会計処理が気になる人は『財務会計講義』p.248を確認していただきたい。

〈執筆者紹介〉
長島 正浩(ながしま・まさひろ)
茨城キリスト教大学経営学部教授
東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。簿記学校講師、会計事務所(監査法人)、証券会社勤務を経て、資格予備校、専門学校、短大、大学、大学院において非常勤講師として簿記会計や企業法を担当。その後、松本大学松商短期大学部准教授を経て、現在に至る。この間30年以上にわたり、簿記検定・税理士試験・公認会計士試験の受験指導に関わっている。

連載バックナンバー

第1回(2020年12月)…「時価(洗い替え方式・切放し方式)」
第2回(2021年1月)…「自己株式」
第3回(2021年2月)…「引当金」
第4回(2021年3月)…「偶発債務」
第5回(2021年4月)…「減損処理」
第6回(2021年5月)…「償却原価法」
第7回(2021年6月)…「割引現在価値」

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