税理士 尾藤 武英
皆さんは、「過去問」というツールに対して、どのようなイメージをおもちでしょうか。本記事では、「そんなん別に解かんでも受かるわ」と思っている方のために、本試験を攻略するうえで過去問がいかに大切なのかを、私自身の経験を交えつつお伝えします。
過去問はインフルエンザの予防接種のようなもの!?
過去問は、本試験で「上位10%に入るための実践力」を養うにはもってこいのツールです。その理由は、「彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」ということわざがあるように、税理士試験もまずは「彼(=本試験)を知る」ことが重要であり、それを最も可能にするのが過去問だからです。
過去問を解くことで、
☑ 本試験の問題全体のボリューム感 ☑ 本試験独特の出題方法(指示の出し方や解答欄の大きさ) ☑ 普段の答練ではありえないケースとの対面(資料不足や誤謬) |
など、本試験問題の「空気」を感じることができます。
過去問を解いた後は、普段の答練とは少し質の違う疲れが残ります。見慣れない様式や資料の不足など、いつも解いている問題よりも少し荒削りなのが原因です。本試験は受験校の答練とは作成の手順が大きく違いますので、必然的に、いつも解いている問題とは少し雰囲気が違ってきます。
過去問を解くことで、そうした本試験の問題に対して免疫をつけることができます。いわば、過去問はインフルエンザの予防接種みたいな存在なのです!
昔は私も「過去問否定派」でしたが…
とはいえ、私も受験生の初期の頃は、過去問の存在を軽く見ていました。私の父はとある士業をしているのですが、その父からことあるごとに
と言われても、
とマトモに聞いていませんでした。
しかし、とある年の本試験でその認識を変える失敗を起こします。
消費税法(初受験)と所得税法(3回目)を同時に受けた年。初日の消費税法(結果的に運よく合格)で燃え尽きてしまい、次の日の所得税法(こっちがド本命)でケアレスミスを連発して落ちる、という経験をしたのです。
なぜ初日の消費税法で燃え尽きてしまったのか? その原因を自分なりに考えた結果、消費税法の本試験の問題に慣れていなかったことがわかりました。
消費税法については初学だったこともあり、直前答練の成績はまったくよくなく、なんとか本試験に間に合ったという状態でした。そこで、「時間もないし、これはいらんやろ」と思って、過去問をマトモに解かずに省いていたのです。
もし過去問を解いていれば。そこで本試験の問題に慣れておけば。ひょっとしたら「初日の消費税法で集中力を使い果たす」という状態は避けられたのかもしれません。
「これは怖いな」と感じたので、翌年からは、直前期の勉強方法も過去問重視に切り変えて、最後の数日は総合問題については過去問しか解かない、という形に変えました。
過去問は直前期に解く+予防接種に徹するべし
そうして税理士になれた私がオススメする過去問活用のタイミングは、断然、直前期です。「本試験の問題に免疫をつける」ことが過去問を解く最大の目的なので、直前期中盤ぐらいまでは(授業内での解答も含めて)サッと解いてレベル感を把握する程度で大丈夫。直前期の後半以降、それも本試験が近づくにつれて解答する頻度を上げていきましょう。
また、過去問否定派のよくある意見として、
といったものがありますが(2つ目は特に経験者に多い…)、過去問は知識の習得を狙うツールではなく、あくまでも本試験の問題に免疫をつけるためのツールです。足りない知識の確認や習得は他の教材で行い、過去問は「予防接種」として使うことに徹しましょう。
そういう点では、「いろいろなパターンの過去問に触れる」ことが重要なので、2〜3年分を何度も解くのではなく、解く問題は多ければ多いほうがベストです。
必要なのはあくまでもAランク
以下は、特に初学の方にお伝えしたい注意点です。
過去問を解いていると、授業や教材では触れていない、重箱の隅をつつくような論点(=Cランク項目)に結構出くわします。「こんなんも解けな受からへんの?」と不安に思うかもしれませんが、忘れてはいけないのは、本試験で問われるのは、あくまでもAランク項目を合わせる力であるという点です。
繰り返しになりますが、過去問を解く理由は、本試験の問題に免疫をつけるためです。過去に出ている論点を丸々無視するのはよくないですが、そこばかりを追いかけるのも得策ではありません。
実質相対試験である税理士試験の勉強で何よりも重視すべきは基礎固めです。解けない論点を追いかけるためではなく、Aランク項目を漏れなく拾うための練習ツールとして過去問を活用しましょう。
本試験で合格を勝ち取るために
ここまで述べてきたように、過去問は正直言って「実力を養うのに適したツール」ではありません。
しかし、過去問を解くことで、「本試験の問題は例年こんな雰囲気やボリュームなんだ」というイメージをもって本試験に臨むことができ、もし本試験で過去の傾向にないイレギュラーな問題が出たとしても、「自分が見たことのないものは他人も見たことがない」「他人はもっと慌てているだろう」と精神的に優位に立つことができます(こういう自信が得られるだけでも大きい!)。
まさに、本試験で「上位10%に入るための実践力」を養うためのツールとして、これほど適したものはないハズです。
本試験は、他の受験生よりいかにハナ1つでも抜け出せるかの勝負です。勝てる要素を1つでも多く確保するために、ぜひ過去問を有効活用してみてください!
<執筆者紹介>
尾藤 武英(びとう・たけひで)
京都市出身。大学卒業後は流通業などで勤務ののち,2002年・26歳で税理士試験の勉強を開始。07年からは「資格の大原」にて相続税法の講師を担当。10年の税理士試験合格を経て会計業界に入り,15年9月に京都市左京区にて独立開業。講師時代に担当科目として深く学んだことをきっかけに,税理士としても相続税の申告業務をメインに活動している。事務所HP内の税理士試験ブログでは税理士試験受験生に向けたコンテンツも公開中!
※ 本記事は、会計人コース2019年5月号掲載「「過去問」120%活用術」を編集部で再編集したものです。本誌では、「びとう流過去問(計算問題)のオススメ活用法」をご覧いただけます。ぜひバックナンバーをお買い求めください。