並木秀明
(千葉経済大学短期大学部教授)
【編集部より】
「会計人コースWeb」でおなじみの並木秀明先生に、会計用語や勘定科目について、多様な視点を踏まえて、ゆるりと解説していただく連載です。
今回は、前回(真実性の原則)に引き続き、企業会計原則の一般原則2の「正規の簿記の原則」から説明する。
企業会計原則の最終改正は、昭和57年(1982年)であるが、その後に設定された企業会計基準に反映されている。
そんな理由からか、一般原則は、税理士試験の財務諸表論で2014年、2015年と連続出題されている。
正規の簿記の原則
企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない。 |
「正規の簿記」とは何なのか、それが問題である。
正規とは「正式」の意味をもつ。
会計の世界では、算盤の時代から電卓へ、パソコンの普及により会計ソフトの誕生という歴史的流れで、「正規」の意味も変化しているといえる。
一般に、「正規の簿記」の3要件として、下記の3つが取り上げられる。
①網羅性
企業が行った取引のうち、記録すべき事実は、もれなく会計帳簿に記録されなければならない。 |
架空の取引や取引をしたのに記録しないようなことをしてはいけないという意味でもある。「架空の取引」とは、架空資産や架空負債の計上(存在しない資産・負債の計上)は、経営者の保身や株価下落防止の粉飾につながる行為をいう。
②検証可能性
会計記録が、すべての取引事実を示す証拠資料に裏付けられたものでなければならない。 |
「証拠資料」とは、契約書、身近なものでは領収書などをいう。事件が起こると、テレビでダンボールに入れた書類が押収される場面を見たことがあるでしょう。
③秩序性
記録は、一定の法則に従って秩序正しく行われなければならない。 |
「一定の法則」とは、簿記一巡(下記参照)をいう。仕訳帳の元帳欄、総勘定元帳の仕丁欄を覚えているだろうか? これも一定の法則に含まれる。
取引 → 仕訳帳 →(転記)→ 総勘定元帳 → 試算表 →(決算整理)→ 貸借対照表・損益計算書などの財務諸表
上記のように財務諸表は、取引の結果を帳簿記入の結果として作成している。いいかえれば、財務諸表は、「帳簿記入の結果」として作成しなければならない。
このような財務諸表の作成方法を「誘導法」という。正規の簿記の原則は、誘導法による財務諸表の作成を要請しているといえる。
上記3つの要件を満たした会計帳簿は、正規の簿記に従っていると解釈されている。
その解釈は、コンピューター会計といった電磁的記録がない時代に生まれた解釈であり、現金出納帳など借方または貸方のみの記帳する単式簿記でもであっても3要件を満たせばよいと解釈されてきた。
しかし、誘導法による財務諸表の作成は、借方と貸方に同金額を記帳する複式簿記が前提であり、会計ソフト上の「仕訳日記帳」も複式簿記である。
したがって、現在の正規の簿記は「複式簿記」と解釈してよいのではなかろうか。
<執筆者紹介>
並木 秀明(なみき・ひであき)
千葉経済大学短期大学部教授
中央大学商学部会計学科卒業。千葉経済大学短期大学部教授。LEC東京リーガルマインド講師。企業研修講師((株)伊勢丹、(株)JTB、経済産業省など)。青山学院大学専門職大学院会計プロフェッション研究科元助手。主な著書に『はじめての会計基準〈第2版〉』、『日商簿記3級をゆっくりていねいに学ぶ本〈第2版〉』、『簿記論の集中講義30』、『財務諸表論の集中講義30』(いずれも中央経済社)、『世界一わかりやすい財務諸表の授業』(サンマーク出版) などがある。