令和3年度税制改正大綱が、12月10日に取りまとめられました。
税制改正の内容は新聞やテレビ等でも報じられていますが、受験生にとって気になるのは、「税理士試験に影響はあるの?」ということ。
そこで、昨年大好評だった「2020年税制改正が税理士試験に与える影響と対策」を執筆していただいた税理士の井上幹康先生に、今年も税理士試験への影響を「影響度大☆☆☆~影響度小☆」でまとめてもらいました。
今後の学習の参考にしてください♪
1 法人税法関係
【影響度☆】デジタルトランスフォーメーション投資促進税制の創設(大綱2-3項、57項)
産業競争力強化法の事業適応計画の認定を条件に計画に基づき、企業がデジタル環境構築に必要なクラウド型システム(ソフトウェア)投資を行った場合、30%特別償却と税額控除の選択が認められる制度が創設されます。
本措置は、産業競争力強化法の改正を踏まえた上での時限措置なので、試験上は産業競争力強化法の改正日以降に出題可能性が考えられますが、個人的には出しても面白みがないので影響度は小としました。
【影響度☆】試験研究費の税額控除の改正(大綱3項、57-60項)
コロナ禍で売上が一定程度減少したにもかかわらず、研究開発費投資を増加させた企業に対して試験研究費の税額控除の控除上限を引き上げる等の見直しが行われます。
大綱をみますと控除上限の引き上げ以外にも細かい数値の改正がなされています。
試験研究費の税額控除は計算パターンの暗記がただでさえ大変ですが、今回の改正を踏まえてこれまで覚えた計算パターンを一部修正する必要が出てくるでしょう。
受験生的には自力で改正後の計算パターンを組む余裕のある方はいないと思いますので、専門学校の改正レジュメまちでもよいと思います。
計算パターンは細かすぎて捨てるという方もいると思いますが、実務上大企業が使える数少ない税額控除の1つとしてそれなりに重要なので、試験上の影響度を小としました。
【影響度☆☆】繰越欠損金の控除上限の特例の創設(大綱4項、61項)
特例対象欠損金額(令和2年4月1日~令和3年4月1日までの期間等、コロナ禍の期間に限定して発生した欠損金)について、産業競争力強化法の事業適応計画の認定を条件に計画に基づく投資の範囲内で最大100%控除可能とする臨時異例の措置が創設されます。
本措置は、産業競争力強化法の改正を踏まえた上での時限措置なので、試験上は産業競争力強化法の改正日以降に出題可能性が考えられます。
繰越欠損金自体は最重要論点なのですが、本措置はコロナ禍の欠損金に限定した話ですので影響度は大ではなく中としました。
【影響度☆☆☆】所得拡大促進税制の改正(大綱4項、13項、60-61項、71-72項)
大企業向けの所得拡大促進税制については、新たな人材獲得を重視し、適用要件が新規雇用者の給与支給額に着目した要件に一新されます。
中小企業向けの所得拡大促進税制については、雇用者給与等支給額が1.5%以上増加という要件に一新されます。
所得拡大促進税制自体は創設時から改正を繰り返していますが、適用している企業も多く実務上及び試験上も重要性が高いので、影響度大としました
2 所得税法関係
【影響度☆】住宅ローン控除等の改正(大綱7項、23-24項)
個人の住宅投資を喚起するために、消費増税対策として措置した控除期間13年の特例を延長されます(ただし一定期間内の契約に限る)。
試験上の重要性は低いと思いますが、会計検査院からの指摘を踏まえて、令和4年度税制改正で、住宅ローン年末残高の1%を控除する仕組みについて1%を上限に支払利息等を考慮して控除額を設定する等の見直しがあるようです。
こちらは令和4年以降の試験上やや影響度が高い論点となるかと思われます。
【影響度☆】退職所得課税の適正化(大綱20-21項、35項)
令和4年以降、法人役員以外の従業員でも勤続年数5年以下の短期の退職金については2分の1課税の適用から除外されることとなります。
ただし、退職所得控除後で300万円までは引き続き2分の1課税の適用があるようですので、実務上も試験上も影響度は小さいと思われます。
3 相続税法関係
【影響度☆】国際金融都市に向けた税制上の措置(大綱5項、40-41項)
こちらは相続税・贈与税の納税義務者と課税財産の範囲の改正になります。
改正趣旨としては、高度外国人材の日本での就労等を促す観点から、就労等のために日本に居住する在留資格を有する外国人に係る相続について、その居住期間にかかわらず、国外に居住する外国人や日本に短期的に居住する在留資格を有する者が相続人として取得する国外財産を相続税の課税対象外とするものです(贈与税も同様)。
受験上は納税義務者や課税財産の範囲は暗記する論点ではありますが、実務上はそこまでインパクトのある改正ではないと思いますので、影響度は小としました。
【影響度☆☆】教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し(大綱18項、42-43項)
こちらは2つの贈与税の非課税措置の取扱いを厳格化したうえで適用期間は2年延長されます。
改正前はどちらの制度も孫が受贈者の場合における使い残りの管理残額について相続税の2割加算対象外でしたが、2割加算の適用対象となってしまいました(厳格化)。
2割加算の対象外に着目した節税的使用を防止する趣旨のようですが、実務上教育資金の方はよく見かけますし、受験上も2割加算自体は重要度が高い論点なので影響度中としました。
また、改正前の教育資金の方は、資金管理契約期間中に贈与者が死亡した場合、管理残額が相続税の課税対象となるのは死亡前3年以内の贈与に限られていましたが、年数にかかわらず相続税の課税対象とされてしまいました(厳格化)。
受験上は上記2割加算の改正の方がやや重要性が高い気はします。
〈執筆者紹介〉
井上 幹康(いのうえ・みきやす)
税理士
大学在学中に独学で気象予報士試験に一発合格。社会人となった後,働きながら4年で税理士試験に官報合格を果たす。開業税理士として税務に従事するかたわら,不動産鑑定士試験にも一発合格。税理士試験・不動産鑑定士試験の受験生向け相談サービス,会計学のゼミ(Zoom等での対応可)も開催。
▶井上幹康税理士事務所HP(主に実務家向けの記事を掲載)
▶note(主に税理士試験・不動産鑑定士試験に特化した記事(一部有料)を掲載)
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