この連載講座では、「日商簿記では学ばないけれど、税理士試験の簿記論・財務諸表論では必要になる論点」を学習します。
簿記論・財務諸表論の学習は広範囲にわたるため、日商簿記では深く学んでいない論点も対策しなければなりません。
税理士を目指して簿記論・財務諸表論の学習を始めた方、「いずれは税理士に」と考えている方は、この連載講座を使って効率的に学習を進めていきましょう。
千葉商科大学基盤教育機構専任講師 渡邉 圭
―商品売買編―
1 学習済項目と未学習項目の整理
日商2級までの学習項目 | 分記法・三分法・売上原価対立法 |
未学習項目 | 総記法・小売棚卸法・売価還元法 |
2 本試験の出題傾向
毎年、本試験で問われています。
仕訳、総勘定元帳から金額の推定問題、総合問題など日商簿記検定よりも出題形式が多様です。
本問以外の問題集などを使い、簿記論の論点を中心に学習することで、財務諸表論もカバーすることができます。
第7回 総まとめ1:仕入値引・売上値引
仕入値引と売上値引があった場合は次のように仕訳します。
仕入値引の取引例:取引先から掛けで仕入れた商品のうち、100円を品質不良のため値引きした。この金額は取引先に対する買掛金から差引くこと。
記帳方法 | 借方科目 | 金 額 | 貸方科目 | 金 額 |
分記法 | 買掛金 | 100 | 商品 | 100 |
総記法 | 買掛金 | 100 | 商品 | 100 |
三分法 | 買掛金 | 100 | 仕入 | 100 |
売上原価対立法 | 買掛金 | 100 | 商品 | 100 |
小売棚卸法 | 買掛金 | 100 | 商品売買益 | 100 |
売上値引の取引例:取引先に掛けで販売した商品のうち、150円について品質不良のため値引きを受け、これに応じた。この金額は取引先に対する売掛金から差引くこと。
記帳方法 | 借方科目 | 金 額 | 貸方科目 | 金 額 |
分記法 | 商品売買益 | 150 | 売掛金 | 150 |
総記法 | 商品 | 150 | 売掛金 | 150 |
三分法 | 売上 | 150 | 売掛金 | 150 |
売上原価対立法 | 売上 | 150 | 売掛金 | 150 |
小売棚卸法 | 商品売買益 | 150 | 売掛金 | 150 |
仕入値引と売上値引は、取引の取消しという返品取引と異なり、利益額の修正取引です。
売上値引は、商品を販売した事実は変わりませんので、利益額のみ減少させます。
そのため、原価率を算定する際に、売上値引控除前の売上高を基準に計算を行わなければいけません。
また、売上高から原価率を掛けて売上原価を計算する場合も、売上値引控除前の売上高を基準に計算を行います。
例えば、60円で仕入れた商品を80円で販売した場合、原価率は、原価60円÷売価80円=0.75(75%)となります。
ここに、5円の売上値引が生じた場合は、(80円-60円)-5円=15円の利益額になりますので、売価の金額が80円-5円=75円となります。
この金額で原価率を計算してしまうと、原価60円÷売価75円=0.8(80%)となり、先ほどとは異なる原価率が算出されてしまいます。
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