今こそ身につけたい、新時代の会計人の「教養」とは


田口  聡志

不確実な未来

新型コロナウィルス問題を筆頭に、現代は不確実性が極めて高く、暗い将来しか見通せないような状況にある。たとえば、クライアント企業の財務困窮を目の当たりにして「自分には一体何ができるのだろう…」と憤りを感じている会計専門職の方もいらっしゃるかもしれない。また、新しいテクノロジーの進展を背景に、公認会計士や税理士の業務が、今後テクノロジーに代替されるという声もあり、「このまま勉強を続けて、自分は本当に大丈夫なのか?」と将来に大きな不安を抱えている受験生も、少なからずいるのではないだろうか。

そのような大きな時代のうねりの中で、まさに今、われわれ会計人は、これからの新しい時代に向けて、自分たちが身に付けておくべき「教養」とは一体何かということを、突き付けられているようにも思われる。

「多様性」と「そもそも論」

では、その「教養」とは一体何か。それは大きく2つあると考えられる。

第1は、多様な視点から物事を捉える力である。

前述のように、現代は不確実性が高く、かつ極めて複雑な世の中であるといえる。たとえば、現代企業が直面している課題は、様々な要素が複雑に絡み合っていることが多い。それらを解きほぐすには、多様な視点からアプローチする必要がある。研究も同じで、現代は、領域を超えた「総力戦」で戦うことが求められている。このことからすると、会計人といえども、単に会計のみならず、会計以外の領域にも広く精通し、かつ、それらを会計とを掛け合わせるとどんな新しい「知」が生まれるのかを、絶えず考え抜くことが今まさに求められているといえよう。

第2は、物事を「そもそも論」に戻って考える力である。

複雑な現実世界を解きほぐすには、多様な視点だけでなく、「“そもそも”この問題のエッセンスは何か?」という素朴な疑問を持つことが有効である。エッセンスをシンプルに捉えることができれば、一見すると全く違ったかたちにみえていた他の事象との親和性もみえてくるし、そうすると、第1の教養との「あわせ技」で、物事の本質的な理解や問題解決へと繋がる可能性が高くなる。

未来を切り拓く

「教養」という言葉は、ともすれば「簡単」「広く浅く」などと誤解されやすい。しかし本来は、人間を自由にする学問のことをいう。そう考えると、教養とは、答えのない社会の中で、自由な発想をもち、困難な未来を切り拓いていく力ともいえよう。不確実性の高い今だからこそ、われわれ会計人には、このような新しい教養の涵養が、社会から求められているように思われるのである。

<執筆者紹介>
田口 聡志
(たぐち・さとし)
同志社大学大学院商学研究科後期博士課程教授、博士(商学、慶應義塾大学)、公認会計士。㈱スペース社外取締役(監査等委員)、㈱GTM総研取締役。慶應義塾大学商学部助手(有期)などを経て現職。主著に『実験制度会計論―未来の会計をデザインする』(中央経済社)、『心理会計学―会計における判断と意思決定』(監訳/中央経済社)、『教養の会計学―ゲーム理論と実験でデザインする』(ミネルヴァ書房)ほか多数。

『実験制度会計論』は、 第58回日経・経済図書文化賞、第44回日本公認会計士協会学術賞、日本ディスクロージャー研究学会2017年度学会賞(著書の部)を受賞 し、高く評価されています。

関連記事

ページ上部へ戻る