【連載】経理のための実践的勉強法~⑥法人税等の計算スキルを身につける(後編)


葛西一成@元上場企業経理部長(経理部IS)

【編集部より】
経理部に配属され、会計のことを勉強しないといけなくなったけど、仕事に直結する勉強法ってどうすればよいの? 担当することになった業務について知りたいとき、どのようにアプローチして、どんな本を読めばいい? そんな悩みを抱えている人もいるのではないでしょうか。
そこで、複数の上場企業で経理の実務経験のある、経理部ISこと葛西一成氏に、経理のための実践的な勉強法についてアドバイスをいただきます。ぜひ、スキルアップにお役立てください!(月1回掲載予定)

本連載第6回前編では、「法人税等の計算スキルを身につけるためのステップ」として7つ挙げ、ステップ1~3まで解説しました。

<計算スキルを身につける7つのステップ>
ステップ1 事前準備
ステップ2 課税所得の計算方法の勉強
ステップ3 課税所得の計算の再現
ステップ4 再現結果の答え合わせ
ステップ5 法人税額の計算の再現
ステップ6 地方税額(法人住民税・事業税)の計算の再現
ステップ7 法人税等の仕訳の確認

後編では、ステップ4以降について見ていきましょう。

ステップ4 再現結果の答え合わせ

課税所得の計算を再現したら、申告書別表4の課税所得と一致しているか答え合わせをします。一致しない場合は、加算・減算項目の入力漏れや不要なデータの入力が行われている可能性があります。
また、課税所得の計算のしくみをしっかり理解できておらず、作成した課税所得計算シート自体に不備があることも考えられます。
例えば、事業税の中間納付額は減算の調整が必要であることを理解しておらず、課税所得計算シートにおいて入力漏れが見つかることもあります。

さらに、課税所得計算シートと別表4では、一部、加算・減算項目が違っているものがあります。
例えば別表4では「損金経理をした法人税及び地方税」、「損金経理をした道府県税法及び市町村民税」、「法人税等調整額」などの調整項目がありますが、課税所得計算シートにはそれがありません。

事例:別表4

これは、課税所得計算シートでは税引前当期純利益を基に計算していますが、別表4では税引後当期純利益から計算がスタートしているためです。
税引後当期純利益は、法人税等の金額や税効果会計の調整項目である法人税等調整額が計上された後の金額であり、これらは課税所得に含まれないため、別表4では加算・減算の調整を行います。一方、税引前当期純利益は、これらの計上前の利益であるため、調整は不要です。

このように、課税所得計算シートで再現した課税所得と別表4を比較し、それぞれの計算の違いを知ることで、課税所得計算の仕組みがわかるようになり、さらに別表4の作成方法についての理解を深めることができます。

ステップ5 法人税額の計算の再現

課税所得計算シートで再現した課税所得と別表4の一致が確認できたら、次は法人税申告ソフトを使って、法人税額と地方法人税額の計算を再現します。

その手順は次のとおりです。

<手順>
① 申告ソフトにおいて、再現用データを作成
 (本番データではなく、いつでも削除できるテストデータを作成します)
② 再現用データに計算に必要な基本情報を入力
 (納税地等、資本金等の額といった会社情報、事務所等・従業者数など)
③ 再現用データに、課税所得計算シートに入力した加算・減算項目を入力
 (課税所得計算シートと同様に、税引前当期純利益をベースに計算)
④ 課税所得を再現
⑤ 別表1の法人税額の計算の流れを確認
⑥ 自動計算された法人税と前期の法人税申告納付額の一致を確認

この手順の中で特に確認しておきたいのが、⑤の別表1の法人税額の計算の流れです。④の課税所得を再現すると同時に別表1も作成されますが、ここではどの税率を使い、どのような流れで法人税額が計算されているかを理解することが重要となります。

●事例:別表1次葉法人税額の計算欄で、税率と税額の計算方法を理解する

●事例:別表1法人税額の計算欄で、税額計算の流れを理解する

そして、手順⑥で実際に計算した法人税額と前期の法人税額が一致した場合、再現した法人税の計算方法は正しいと言えます。

なお、この再現では、使用する申告ソフトによってデータの入力方法が異なる点に注意が必要です。一般的な申告ソフトでは、課税所得を集計すると法人税額が自動計算されますが、ソフトによっては別表間で連携があり、別表4への入力だけでなく、別表5(1)や5(2)、別表15など各別表へ加算・減算の金額の入力も必要となります。

最初は各ソフトの操作に慣れるまで苦労するかもしれません。しかし、試行錯誤しながら入力操作を行うことで、徐々にソフト独自の操作方法や別表の記載方法がわかるようになってきます。実際の決算作業でも同じソフトを使って税額の計算を行うことになるため、この機会に操作に慣れておくのが良いでしょう。

ステップ6 地方税額(法人住民税・事業税)の計算の再現

法人税申告ソフトでは、法人税額の計算が行われた後、事前に設定した事務所等のデータを基に自動的に地方税額が計算されます。

そして、計算の結果、事業税・道府県民税(第6号様式)、市町村民税(第20号様式)の申告書が作成されますので、それぞれの申告書においてどの税率を使って、どのように地方税が計算されているかその流れを理解します。

※申告ソフトによっては、自分で税率を調べて手入力しなければならない場合もあります。

●事例:道府県民税(第6号様式)の計算欄で、税額計算の流れを理解する

申告書から地方税の計算の流れを追っていくと、道府県民税と市町村民税には「均等割」という税金が発生していることがわかります。

※均等割
法人の所得が黒字か赤字かを関係なく、資本金や従業員数に応じて課税され、また事務所等の所在地によってもその課税額が異なります。詳細は以下のサイトをご参照ください。
令和5年度法人住民税、法人事業税 税率一覧表(総務省)

この「均等割」は、所得が黒字か赤字か関係なく必ず発生しますので、どのように税額が算出されているかを理解することが重要です。

そして、申告ソフトで計算した地方税額と前期の地方税額の一致が確認できたら、再現した地方税の計算方法は正しいと言えます。

ステップ7 法人税等の仕訳の確認

法人税額及び地方税額の計算の再現が完了したら、法人税申告ソフトで税額一覧表を出力し、その表に記載された税額がどのように仕訳として起票されているか、過去の仕訳と照合します。これにより、計算された税額の仕訳への反映のしかたを理解することができます。

ここまでが、法人税等の計算スキルを身につけるためのステップとなります。

まとめ

今回の連載では、法人税等の計算スキルを身につけるために必要な勉強内容について、順を追って解説しました。

法人税等の計算は、税務上の専門用語を理解することから始まり、課税所得や税額の計算方法など覚えるべきことも多いことから、実務を理解するのは非常に難しいと言えます。それゆえ、法人税等の計算スキルを持つ人材は経理の現場で高く評価されています。

法人税等の計算を担当する方や、経理で専門性の高いスキルを身につけたい方にとって、今回の記事が参考になれば幸いです。

次回のテーマは「税効果会計の実務」です。法人税等の計算に続けて学んでおきたいのが税効果会計です。この税効果会計は、経理処理の中でも特に難易度が高く、理解するまでには時間と労力が必要です。
そこで、経理実務で活用できる税効果会計の知識を得るまでにどのような勉強をしたらよいか、順を追って解説していきます。

次回もぜひご覧ください。

(連載第6回おわり)

<執筆者紹介>

葛西一成@元上場企業経理部長

東証プライム・グロース上場2社で経理部長を経験後、独立開業。独立後は経理パーソン向けキャリアサポート・会計関連システム開発導入サポート・決算業務フォローや執筆活動に注力。X(旧Twitter)では、フォロワー1.5万人超の「経理部IS」アカウントにて、経理の仕事に関する情報を発信中。
著書に『経理のExcelベーシックスキル』(中央経済社)がある。
経理部IS(@keiri_IS

<著書紹介>

経理のExcelベーシックスキル(葛西 一成 著、中央経済社)
▶︎業務効率がアップするノウハウを現場経験豊富な著者が伝授します! Excelの難しい機能を極める前に知っておきたい使い方から管理方法まで。チーム全員に必須の1冊です。

【「経理のための実践的勉強法」バックナンバー】
第1回:スキルアップを目指そう!
第2回:前払費用の実務
第3回:賞与引当金の実務(前編)(中編)(後編
第4回:固定資産実務をマスターするまでの道のり
第5回:固定資産の実務における基本的な理解(前編)(後編

経理部ISこと、葛西一成@元上場企業経理部長さん執筆のバックナンバー記事もぜひご覧ください!

【連載バックナンバー(全10回)】
第1回:現役経理部長が教える! 経理の仕事でExcelがマストな3つの理由
第2回:現役経理部長が教える! 経理に必要な4つのExcelスキル~ミス削減&作業効率化にマスト!
第3回:現役経理部長が教える! 仕事が効率化するExcelを‟見やすくする”スキル
第4回:現役経理部長が教える! 今すぐやるべき‟Excelでミスを防ぐ”方法
第5回:現役経理部長が教える! 仕事で評価される‟わかりやすいExcelの表”を作成する方法
第6回:現役経理部長が教える! Excelを使いやすくする5つの方法(前編)(後編)
第7回:現役経理部長が教える! 経理業務の効率化に役立つ! 使いやすいExcelファイルの管理方法(前編)(後編)
第8回:現役経理部長が教える! 仕事スピードを速くするExcel関数とショートカットキー
第9回:現役経理部長が教える! Excelピボットテーブル活用術
第10回:現役経理部長が教える!  作業効率化に役立つExcel機能3選


関連記事

ページ上部へ戻る