教えてみき先生! 税法論文の書き方と生成AIの使い方


脇田弥輝(税理士)

【編集部より】
税理士試験科目の免除を受けるには、国税審議会に修士の学位等取得に係る研究について認定されなければなりません。そこで避けて通れないのが修士論文。そもそも論文の執筆はどのように進めたら良いのか。また身近になった生成AIをどのように活用できるのか。大学院で講師を務める税理士の脇田弥輝先生にお聞きしました!

自分なりの結論を出す力

大学院ルートで税理士を目指す皆さんにとって、避けて通れないのが「税法論文」です。「論文なんて書いたことがない」「何万字も書ける気がしない」と、不安に思っている人も多いのではないでしょうか。実際、私もそうでした(理学部卒です)。

ただ、私が論文を書いた2009年ごろと違い、最近では、ChatGPTなどの生成AIが身近になりました。わからないことを質問すれば、すぐに答えてくれますし、「このテーマで論文の構成を考えて」と頼めば、それらしい目次まであっという間に作ってくれます。とても便利な時代になりました。

では、生成AIを使えば、税法論文も簡単に書けるのでしょうか。

私は、生成AIは使っていいと思っています。おそらく、全く使わないという人は少ないのではないかと推測しています。ただし、絶対に心にとめてほしいのは、「生成AIが作った文章を鵜呑みにしない」ということ。そして最後は必ず自分で原本にあたることです。

大学院に入ると、どうしても「修士論文を完成させなければ」「期限までに何万字書かなければ」という気持ちになりがちです。でも、論文を書く目的は、単に「たくさんの文字を書くこと」ではありません。税法について疑問を持ち、法律を読み、判例や裁決、文献を調べ、「なぜこうなるのだろう?」と自分の頭で考える。その過程こそが、論文を書く意味だと私は思っています。

税理士になった後も、答えがすぐに見つからない問題にはたくさん出会います。そんなときに必要なのは、誰かが書いたり話したりしている解説をそのまま信じるのではなく、自分で根拠を探し、原典を確認し、考えて、自分なりの結論を出す力です。税法論文を書く経験は、そのトレーニングでもあるのです。

生成AI、使う?使わない?

では、生成AIは全く使わない方がいいのでしょうか。私は、そんなことはないと思います。たとえば、

「このテーマにはどんな論点がある?」
「この章立てで抜けている視点はない?」
「この文章をもっとわかりやすくするには?」
「この考え方に対して、反対の立場からはどんな指摘ができる?」

こんな使い方なら、生成AIはとても優秀な相談相手になるでしょう。自分一人で考えていると、どうしても視野が狭くなります。生成AIとのやり取りによって、「そういう見方もあるのか」と気づくこともあるでしょう。文章を書き始める前の壁打ちや、論点整理、構成の検討、文章表現のチェックなどにも役立ちます。

ここで大事なのは、AIから出てきたものを「完璧」だと思わないことです。

生成AIは、ときどき間違えます。しかも困ったことに、間違っていても、とても自信満々に答えることがあります。存在しない判例を紹介したり、条文の内容を微妙に取り違えたり、もっともらしい文献を示したりすることもあります。だからこそ、税法論文を書くときには、

「本当にその条文にそう書いてあるのか」
「その判例は実際に存在するのか」
「判決文では実際にどのような言葉が使われているのか」

と、自分で確認しなければなりません。AIに判例を要約してもらったのであれば、そこで終わりにせず、実際の判決文を読みましょう。法律について質問したのであれば、実際の条文を確認しましょう。国税庁の通達について聞いたのであれば、国税庁の原文にあたりましょう。「AIがそう言っていました」では論文にならないのです。AIは「調べるきっかけ」にはなっても、「根拠そのもの」にはなりません。

実際に、こんなことがあったそうです。ある学生が、とてもよくできた論文を書いてきました。文章もしっかりしていて、内容も整理されていて、一見すると、「よく書けているな」と思うような出来栄えでした。

ところが、論文公聴会で先生方から質問されると、ほとんど答えられなかったのです。

「なぜここでは、このように考えたのですか?」「この判例について、あなたはどう考えますか?」「この部分の根拠は何ですか?」質問されても、自分の言葉で説明できません。そして話を聞いていくと、論文のかなりの部分を生成AIを使って書いていたことがわかったそうです。

AIを使って「立派な論文」という成果物を作ることはできても、その人自身の中に何も残っていなければ、質問された瞬間にわかってしまいます。逆に、自分で悩み、条文や判例を何度も読み返しながら書いた論文なら、文章自体は多少不格好でも、「私はこう考えました」と自分の言葉で説明できるはずです。

自分が考えるためにAIを使う

税法論文を書くのは、決して楽ではありません。私自身も論文を書いているとき、「これでいいのかな」「全然進まない…」「とんちんかんなことを書いてしまってないかな?」と悩むことが何度もありました。

でも、調べて、考えて、書いて、先生に指摘されて、また調べる。その繰り返しの中で、少しずつ自分の考えが形になっていきました。そして最後に完成した論文を見ると、「これを自分で書いたんだ」という、何ともいえない達成感がありました。

生成AIが登場した今だからこそ、この経験を大切にしてください。生成AIに助けてもらうのは、悪いことではありませんが、「AIに考えてもらう」のではなく、「自分が考えるためにAIを使い」ましょう。

生成AIに質問してヒントをもらう。そこから自分で原本を探し、読み、悩む。そして、自分の言葉で書く。

そうやって論文を書いていったとき、税法を調べる力、考える力がつき、そしてそれが将来税理士として仕事をするときの力になっていきます。

ぜひ、生成AIを便利な「相棒」として使いながら、最後は「これは私が調べ、私が考え、私が書いた論文です」と胸を張って言える一本を完成させてください。応援しています!

<執筆者紹介>

脇田弥輝(わきた みき)

脇田弥輝税理士事務所代表 
出産後、会計・税務知識ゼロから税理士を目指す。個人税理士事務所、税理士法人勤務を経て2016年開業。同年4月より東亜大学通信制大学院法学専攻非常勤講師。
著書
・『教えてみき先生! 税法論文ってどう書くの?』(中央経済社)
・『改訂 ダンゼン得する知りたいことがパッとわかる青色申告と経費・仕訳・節税がよくわかる本』(ソーテック社)他

<オススメ書籍>

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