
油谷景子(税理士)
【編集部より】
実務では、受験勉強で学んだ税法知識以外の周辺知識やノウハウが求められます。頼られる税理士になるにはどういった姿勢で臨むと良いでしょうか。本連載では、税理士の油谷景子先生に相続税業務について教えて頂きます(全3回)。
<前回までのあらすじ>
・第1回:相続税業務を引き受ける?
相続税申告を受任することにした新米先生。そんな新米先生の相続税申告が円滑に進むよう、ケイコ先生がアドバイスをしていきます。
<登場人物>
・ケイコ先生:四大税理士法人、個人税理士事務所を経て開業。2026年で開業して7年目。業界歴約20年。
・新米先生:最近開業した新米税理士。法人担当ばかりで、相続の経験はほとんどない。
ケイコ先生:
まず、相続税業務では、法人向け業務とまた違った点がありますね。
新米先生:
どういったところが違いますか?
【解説】相続税業務と法人向け業務の違い
相続税業務は、法人向けの業務と大きく異なる点があります。常にこの点を前提として相続税業務を進めていきたいものです。
それは、法人向けの場合、相手の方もビジネス感覚を持ち、会計や税金のことをある程度知っている方も多いです。また、基本的には税理士とのやり取りに慣れています。
一方で、相続税申告の依頼人である相続人の方々は、経営者や事業主ではない、「一般の方」であることも多いです。相続人の配偶者でお仕事はもうされていない方(中にはお仕事をされたことがない方も)、会社員の方、パートの方など。経歴や考え方もさまざまです。そのため、私たち「税理士にとって当たり前」は、通じません。丁寧にわかりやすく、「一般」の感覚で説明が必要になります。
また、相続税申告に慣れている相続人の方は多くありません。第一、悲しみが癒えない中、よく分からないけど「相続税のことをきちんとしなくては」と来所される方もいます。私たちは、そんな相続人の不安を理解し、寄り添い、「安心していただく」こともまた必要だと考えています。
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新米先生:
確かにそうですよね。安心してもらえるようコミュニケーションを大事にしていきます。
ケイコ先生:
いいですね。相続人の方々も安心してもらえますね。
そうそう、ご満足いただけると、不動産所得の確定申告の依頼や、その方から別の相続税のご紹介もあったりするものですよ。
具体的に相続税業務はどのように進めて、何に気をつけたらよい?
新米先生:
相続税申告はどんな流れで進めていけばよいでしょうか?
ケイコ先生:
一般的な流れとその中で気をつけたいポイントを説明しますね。
相続税申告の進め方は、大まかに次のとおりです。
①初回面談
②お見積り
③契約
④契約後初回面談
⑤資料お預かり・ヒアリング
⑥財産一覧
(⑦遺産分割協議)
⑧相続税額計算・申告書作成
⑨内容ご説明・ご承認
⑩相続税申告書提出
⑪申告書控えお渡し
それぞれの段階で何に気を付けたらよいか、解説しますね。
①初回面談
相続人の依頼内容や要望と相続の概要をヒアリングします。
スケジュール等の希望があるかも確認します。申告期限は、通常、被相続人の死亡の日の翌日から10ヵ月以内で、申告期限内に終わればよい方もいれば、早期に完了させたいと希望される方もいます。認識に齟齬がないようあらかじめ確認しておきましょう。
また、準確定申告が必要な場合は、原則として相続開始日の翌日から4ヵ月以内に申告納税をしなければならず、スケジュールがタイトなため、準確定申告の必要性についても確認しておきます。特に、これまで個人事業で関与していなかった場合などは、注意が必要です。
遺言書の有無や、相続人の数・関係性、相続人代表なども確認しておくとよいでしょう。
②お見積り・③契約
相続税申告業務における税理士報酬の額はどのように算出し、どこまでが業務範囲(スコープ)を明確にしておきます。
例えば、「不動産登記」は司法書士へ依頼するなど他士業の報酬は別途必要であること、税務調査の場合には立会報酬が別途必要など、契約書に記載しておきます。
なお、紹介希望の方には、司法書士を紹介します。士業間で連携できると、相続人の負担も減ります。
相続人が複数人いる場合は、相続人代表を決めていただき、基本的には代表者を通じてのやり取りにしています。
④契約後初回面談
必要資料一覧をお渡しし、相続人へ相続税の申告業務に必要な資料を依頼します。可能であれば、必要資料一覧は、事前にお渡ししておくとスムーズです。
必要資料一覧はなるべくわかりやすくまとめ、ご高齢の相続人の場合には、フォントサイズにも配慮します。
相続人にとっては、見慣れない資料もあるかと思います。その際は、こういうものですという説明をします。
通帳などは、どうしてその年分必要かを説明したり、財産漏れが生じないよう協力をお願いします。
⑤資料お預かり・ヒアリング
相続人が認識されていない財産や債務がある場合もあります。そのため、「こういうものは相続財産になるけれどありませんか?」、「こういうものは債務控除できるけどありませんか?」などを確認します。
また、家計の管理をどのようにしていたか、被相続人の生前のご職業や趣味などもお聞きしています。意外な趣味をお持ちだったりして、相続人とついお話してしまうこともあります。
なお、電子申告を行う場合は、相続人が利用者識別番号を既に取得していないか確認し、取得されていなければ、新規で取得してよいか承諾をとります。
⑥財産一覧
頂いた資料をもとに財産一覧を作成し、内容と評価等を説明します。
⑦遺産分割協議
当事務所で相続税の申告を受任するケースでは、公正証書遺言書を作成されているケースも多いですが、遺言書がない場合は、遺産分割協議書が必要となります。ケースに応じて、弁護士や司法書士に依頼するなどします。
⑧相続税額計算・申告書作成、⑨内容ご説明・ご承認
相続税の申告書を作成し、内容を説明し、不明点がないかを確認します。
相続人へメリットのある書面添付制度も検討するとよいでしょう。
⑩相続税申告書提出
相続税申告書の電子申告の利便性は以前より向上しており、当事務所では電子申告で申告しています。
なお、私は経験したことがありませんが、相続税申告報酬を回収できなかった事例もあるようです。そのため、相続税申告の税理士報酬を頂くタイミングにも留意したほうがよいでしょう。
⑪申告書控えお渡し
電子申告が完了したら、速やかに申告書の控えや資料をお渡しします。
たとえば会計事務所向けにサービスを提供する株式会社エッサムなどでは、相続税申告書の控えを渡す専用ファイルがあります。
以上が、ざっと相続税申告の一連の流れと注意点です。
次回は、ケイコ先生の経験から、相続税申告におけるその他の注意点などをお伝えします。
(第3回(最終回)へつづく)
【プロフィール】
油谷景子(あぶたに けいこ)
税理士
日本の企業の99%を占める中堅中小企業を税務会計面から支援する名古屋市の開業税理士。
四大税理士法人(東京・名古屋)で上場企業等向け税務申告、連結納税(グループ通算)制度や国際税務、コンサルティング業務に従事。また、個人事務所で中小企業向け税務会計サービス、資産税の申告・相談など様々な実務経験を積んだ後、独立開業。
取得科目:法人税、消費税、相続税
著書に『スタートアップ企業の税金To Doリスト』(中央経済社)、『図解とポイントでしっかり学ぶ 法人税の教科書』(清文社)がある。
・事務所ホームページ
・YouTube「税理士YouTubeスクール【ビジネスとまなび】」
・X:(@keiko_taxmgt)
【著書紹介】












