大学院に進学する税理士受験生が入学前に準備しておきたいこと〜税理士・森﨑千晶先生


森﨑千晶(税理士)

【編集部より】
大学院ルートを目指す税理士受験生の場合、8月の税理士試験後に大学院の入試を受け、秋頃には進学先が決まることが多いのではないでしょうか。11月の税理士試験合格発表や4月の大学院入学まで考えることが多くなる時期。そこで、大学院ルートを経験した税理士の方々に入学前に準備しておくとよいことについてアドバイスを頂きました。ぜひ参考にしてください!

大学院に入学してから変わったこと

税理士試験の税法科目を学ぶ中で、大学院進学という選択肢を考える方も多いのではないでしょうか。私自身もその一人でした。

大学院への進学が決まると、「入学までに何を勉強しておけばよいのだろう」と考えるものです。租税法の専門書を読んだ方がよいのか、判例や論文にも目を通しておくべきなのか。私も同じように考えていました。

しかし、大学院生活を終えた今、当時の自分に伝えるとしたら、「焦って知識を増やそうとしなくても大丈夫」ということです。

もちろん、事前に勉強しておくことは決して無駄ではありません。ただ、実際に大学院へ入って感じたのは、税理士試験と大学院では、同じ租税法を学んでいても、学んでいることそのものが大きく違うということでした。

税理士試験が「できあがった制度を学ぶ場」だとすれば、大学院は「制度が形成された背景や立法趣旨、そしてその制度が実務の中でどのように解釈・適用されるのかを学ぶ場」でした。

税理士試験では、成立した法律や制度を正しく理解し、その知識を正確に適用する力が求められます。一方、大学院では、「なぜこの制度が生まれたのか」「どのような議論を経て現在の制度になったのか」という立法の背景に加え、その制度が実務の中でどのように解釈・適用されるのかについても学びます。そこでは学説や判例が重要な役割を果たしており、一つの制度であっても、さまざまな考え方があることを知りました。

条文を理解し適用することが中心だった租税法が、その背景や解釈まで含めて考える対象へと広がりました。

そして、変わったのは学び方だけではありませんでした。

大学院受験では研究計画書を提出するため、私も研究したいテーマを決め、その分野について本を読みながら準備をしていました。しかし、授業やゼミで先生方や同期と議論し、文献を読み、学説や判例をたどる中で、「なぜこの制度はこのような形になったのだろう」「この解釈はなぜ採られているのだろう」「別の考え方は成り立たないのだろうか」と考えるようになりました。

入学前には「このテーマを研究したい」と思っていましたが、新しい文献や議論に触れるたびに、「本当に知りたいことは別のところにあるのではないか」と感じるようになり、自分の問題意識そのものが少しずつ変わっていったのです。

だからこそ、今振り返ると、入学前に一つのテーマを深く勉強しておくことが最も大切だったとは思いません。大学院では、新しい考え方や価値観に触れることで、自分自身の問題意識も自然と変わっていくからです。

入学前に準備しておきたいこと

むしろ、入学前に準備しておきたいのは、知識よりも「考える時間」を確保できる環境でした。

大学院では、授業に出席し、文献を読み、レポートを書き、修士論文を進めます。社会人であれば、そこに仕事も加わります。

税理士試験では、成立した制度を正しく理解し、その知識を適切に適用することが求められます。一方、大学院では、一つの制度や判例を読み、「本当にこの解釈が妥当なのだろうか」「他の考え方は成り立たないのだろうか」「実務ではどのような影響が生じるのだろうか」と考え、自分なりの考えを組み立てる時間が欠かせません。

そのため、入学前には本を何冊読むかよりも、仕事の進め方を見直したり、学ぶ時間を確保できる環境を整えたりすることの方が、結果的には役に立ちました。

大学院で学んだことで、税理士試験で身に付けた知識や日々の実務を見る視点も変わりました。制度が形成された背景や立法趣旨を踏まえ、その制度が実務の中でどのように解釈・適用されているのかという一連の流れを意識するようになったことで、租税法をこれまで以上に立体的に捉えられるようになったと感じています。

もしこれから大学院へ進学されるのであれば、知識を詰め込むことに焦る必要はありません。

入学前に考えていたテーマや興味は、大学院での学びを通じて変わるかもしれません。その変化は迷いではなく、学びが深まっている証拠です。

専門書を読んだり、判例や論文に目を通したりすることは決して無駄ではありません。ただ、それ以上に大切なのは、自分の考えが変わることを恐れず、じっくり考える時間を確保することだと私は感じています。

新しい考え方に出会い、自分の問題意識や視点が少しずつ変わっていくことこそが、大学院で学ぶ醍醐味なのだと思います。どうか、その変化を楽しむ気持ちを持って、大学院生活を迎えていただければと思います。

【プロフィール】

森﨑 千晶(もりさき ちあき)

森﨑千晶税理士事務所代表。フランス文学博士課程を満期退学後、税理士に転身。令和3年龍谷大学大学院修了後、令和4年2月税理士登録。税理士として独立開業後、英語を学び直し、現在、10カ国を超える異なる国籍のクライアントと仕事中。仕事での使用言語は、日本語、英語、仏語。英語と仏語に加え、中国語と独語を勉強中。

【書籍紹介】

『税理士になるための大学院進学ガイド』(中央経済社編)
本書には、多数の先輩の体験記を掲載し、大学教員による入試対策、面接対策、大学院での学び方や修士論文の書き方の解説まで、税理士になるための大学院の情報が満載です!


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