税理士・油谷景子先生に聞く! キャリアチェンジの時に大切にしたこと


油谷景子(税理士)

【編集部より】
令和8年度税理士試験を受験された皆さま、お疲れ様でした。束の間の夏休みを過ごす方もいらっしゃるのではないでしょうか。一方、例年、試験明けには就職説明会が実施されることも多く、就職・転職活動をスタートする方も多いはずです。そこで、本企画では経験豊富な税理士の方々に、キャリアを考えるときに大切にしてほしいことについてお聞きしました。

こんにちは、税理士の油谷景子です。

名古屋市で開業して7年目になる現在、たくさんのご依頼を頂き、主業務である法人顧問の他、相続税の申告相談に対応し、やりがいのある充実した日々を送っています。こんな今があるのは、間違いなく、独立までの経験の積み重ねがあったからです。そんな私の経験をご紹介します。

4社での勤務

私は、4つの税理士法人等で勤務した後、独立しました。
個人の税理士事務所2社、KPMG税理士法人、PwC税理士法人で勤めました。

どの職場も違いがあり、それぞれ良さがありましたが、私は20歳過ぎの頃から独立志向で、独立に向けて様々な環境下でたくさんの実務経験を積みたい想いがあったため、結果として独立までに4社で勤めました。

初めての税理士業界、仕事と勉強

私が初めて税理士業界に飛び込んだときは、科目合格もしていない状況でした。高校時代に取得した簿記2級をもって、面接・筆記試験を経て採用され、そこから税理士を目指す日々が始まりました。

平日は三重県の税理士事務所で働き、土日は片道約1時間かけて名古屋の専門学校に通いました。仕事に勉強に懸命に励み、平日は早朝、移動時間、夜に3~5時間、土日は12時間(時に15時間)程勉強し、正社員として働きながら7年かけて5科目合格しました。この間に、名古屋の税理士事務所に転職しました。

20代の大半を仕事と勉強に費やしました。このときが私の人生にとっての頑張り時の1つで、やはり、「頑張り時」は必要と思います。

この頃は、1年の中でメリハリをつけていました。税理士試験が終わって合格発表までの間は旅行や楽しみももちつつ、合格発表後から税理士試験の期間は、とにかく仕事の他は試験勉強に集中していました。メリハリがあったから、7年間走り続けることができました。また、思い切って関係のないことは「雑音」と思って、取捨選択をし、今不要なことはやめていました。

四大事務所へ

個人事務所では、中堅中小企業の顧問先との距離も近く、法人税、所得税、資産税、経営、資金繰りなど様々な相談を受けました。やりがいを感じる一方で、海外進出している中堅企業もあったため、国際税務など複雑な税務への対応が悩ましくもありました。

当時は、複雑な税務に手探りで対応する日々で、「上場企業の実務を知りたい」、「国際税務の実務を学びたい」という思いと、独立へ向けてプラスになると考えて、四大税理士法人で働きたい想いが強くなり、転職を決めました。

転職前に独学で勉強して、TOEIC800点ほど取得して、KPMG税理士法人(東京)へ入社しました。この頃は、不動産関連、再編関係の業務をしていました。

その後、やはり開業予定の名古屋エリアに多い業種の事業法人の税務に携わりたかったため、PwC税理士法人(名古屋)のカジュアルインタビューを経て、魅力を感じ転職しました。

後から考えると、入社前後のギャップを防ぐには、自分がそこで何をしたいのか、面接時にしっかり伝えていればよかったかもしれません。その意味では、カジュアルインタビューは有用でした。また、名古屋と東京、大阪など地域でそれぞれ業務内容の違いがある場合もあり、その後のステップアップや開業などの計画があるのであれば、転職時に考慮するとよいでしょう。

業界歴約20年の今、キャリアを振り返って

転職先等で「何をしたいのか?」、具体的にやりたいことを考えて、言語化して、明確に伝えることが大事です。
また、受け身の姿勢ではなく、「自ら学びに行く」マインドが大事です。

私の場合は、四大税理士法人では、上場企業の税務と国際税務の実務を学ぶ目的がありました。また、そこでの経験と経歴は、開業後にプラスになると考えました。実際に、現在も国際税務やグループ通算などに対応しており、四大税理士法人で培われたノウハウが役立っています。

四大税理士法人か個人事務所か?

四大税理士法人か個人事務所か悩む声もありますが、私の経験上どちらも役立っています。

四大税理士法人でよかったことは、
・上場企業の税務に携われた
・国際税務やグループ通算税務に携われた
・ワーキングペーパー(調書)の作成方法を習得できた
・文章力がついた(想像以上に文章力が問われた)
・チェックリストの活用、仕組化を学べた
・日報、工数管理を学べた
・利益率への意識がついた
・契約書の作成など総務関係を学べた
ことなどです。また、優秀な方がたくさんいる環境で働くことができ、貴重な人間関係もできました。

個人事務所でよかったことは、
・クライアントとの距離が違いため、より近くで経営者の相談に対応できた
・相続や贈与・非上場株式の評価などの資産税業務に携われた
・幅広いご相談への対応力が身についた
ことなどです。

現在、資産税の相談も少なくありません。現在の主業務は法人顧問とはいえ、代々続くような中堅中小企業では資産税が密接に関係します。また、相続税の申告相談は需要が多いです。相続税で関与した方から、ご親族の方の相続税業務を紹介頂くこともあります。

個人事務所での仕事は、お客様との関係性がより重要となり、より人間味を感じることが多いかもしれません。未熟だった20代のころは大変失礼ながらどこか街の税理士なんてと思っていましたが、この業界を続けるうちに実は頼りにされる「街の税理士」は貴重だということに気づかされました。

知識だけではなく、「人となり」も問われます。お客様から信頼されありがとうと言われる税理士には、知識だけではなれません。そこがまた、税理士として年月を重ね、自分自身が歳を重ねて内面を磨いていく面白さかもしれません。
今はプロフェッショナルさを兼ね備えた「相談しやすい街の税理士」でありたいと思っています。

四大税理士法人での仕事は確かにやりがいがありました。けれど、独立した今は、クライアント様に近い距離でよりやりがいをもって仕事をすることができ、独立してよかったと感じています。中堅中小企業の税務相談、国際税務、グループ通算申告業務から、経営や今後のビジョンなどの話をします。また、相続税の申告相談では、普段税理士に関わることがないため「誰に相談したらよいかわからない」という声も多く、地域のお客様に役立っているという実感があり、税理士の使命を実感するひとときでもあります。

キャリアの中で大切にしたいこと

皆さんは挫折の経験がありますか?

私にもあります。そのときは、辛いですね。たくさん勉強して初めて簿記論・財務諸表論を受験し、自信があったのに一歩及ばなかったときもそうでした。けれど、振り返ったときには意外と挫折の経験が後に役立っていると思えます。精神的に強くなり、人の痛みがわかり、寄り添えるようになります。

悩みを抱え、信頼して相談してくださる相談者に対して、何ができる税理士か?は大事ですが、人と人、人の痛みがわかり、理解し寄り添えることもまた大切だと思います。

ときに、どうしたらよいのか?と頭を抱える困難な場面もあるでしょう。そんなときは、「楽しむこと」と「どうしたらできるか?」の思考を大切にしています。

私もまだまだ続く税理士人生で学びたいことや実現したいことがたくさんです。

今後も「やってみる!」を大切に、一度しかない人生を楽しみ、挑戦していきたいと思います。心身を大切に、無理はせず、けれど、変化のAI時代に小さな一歩を大切に進んでいってください。

【プロフィール】

油谷景子(あぶたに けいこ)

税理士
日本の企業の99%を占める中堅中小企業を税務会計面から支援する名古屋市の開業税理士。
四大税理士法人(東京・名古屋)で上場企業等向け税務申告、連結納税や国際税務、コンサルティング業務に従事。また、個人事務所で中小企業向け税務会計サービス、資産税の申告・相談など様々な実務経験を積んだ後、独立開業。
取得科目:法人税、消費税、相続税
著書に『スタートアップ企業の税金To Doリスト』(中央経済社)、『図解とポイントでしっかり学ぶ 法人税の教科書』(清文社)がある。
事務所ホームページ
・YouTube「税理士YouTubeスクール【ビジネスとまなび】
・X:(@keiko_taxmgt

【著書紹介】

スタートアップ企業の税金To Doリスト』(油谷 景子、中央経済社)

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