
梨井俊(税理士)
【編集部より】
さる11月28日(金)、令和7年度税理士試験の合格発表が行われました。合格発表をうけて、受験戦略を再検討する人、同じ科目の受験に再挑戦する人などさまざまだと思います。
来年の本試験まで、どのように学習計画を立てればよいかなどについて、主要科目ごとにアドバイスを頂きます。本記事を参考に、合格に向けてよりよいスタートを切りましょう!
はじめに
令和7年度(第75回)税理士試験を受験されたみなさん、おつかれさまです。
合格の喜びを迎えた方も、悔しい結果になった方も、この「合格発表の日」は、いまの自分を振り返る大切な節目です。一喜一憂したあとは次につなげましょう。
合格率
近年ない特殊な構造の試験となった相続税法ですが、合格率は13.8%。
昨年(18.7%)から大きく下がったものの、科目全体の歴史で見ると高めの位置です。難解な問題でしたが合格率は高いのはいくらかの救済措置感はあります。「取り切れなかった成績優秀者」と「取れるところを取った合否ライン者」とが集まるボリュームゾーンに、それだけたくさんの受験者がいた、ということではないでしょうか。
出題のポイント
ここでは、国税庁が公表した「出題のポイント」(相続税法)で示された本試験の意図や方向性を踏まえ、来年に向けて力を積み上げるためのひとつの選択肢を予備校講師の立場からお伝えします。
今回の出題のポイントはいつもより記載分量が多く読みごたえもあります。
是非ご一読し、自身の解答意識とつなげてください。今年の出題が単なる知識の暗記ではなく、条文・政令についての取扱いを言語化できるかどうかが問われていることがわかります。
また、相変わらず「実務」「改正」がキーワードになっています。
理論
第1問の問1「未分割の場合の申告手続」、こちらについては「実務でしばしば見受けられる」という記載がされています。また、第一問の問2「配偶者居住権の取扱い」では、「実務上の重要事項である小規模宅地等の特例の基本的な要件を理解しているか、近年の税制改正事項を理解しているかを問うこととしたものである。」とあります。
計算
第2問の個別問題では、「改正にポイントを置きつつ、税理士として実務を行う上で重要、かつ、基本的な贈与税等の取扱いについての理解を問う問題」と表記されています。
うーむ・・・。
「基本的な」と書いてあるわりに難しかったとは思いますが、この表記が事実であれば難解な部分(最終値があっていたかどうか)の配点ではなく、基本的な部分(基礎控除や特別控除のタイミング)での配点であったと信じましょう。
まとめ
今年の相続税法は、従来の難易度を超え、「理論1題・計算2題」+難解な資料読解という、かなり特殊な形式でした。
理論:事例形式で、条文ではなく政令・質疑応答レベルの理解を要求
計算:複数論点を絡めた評価、ノーヒントでの細かい判定
資料:情報量が多く、読み切るだけで時間を取られる構造
これらは、努力の量だけでは突破しにくく、「作問者の意図を読み、資料を処理するスピード」が試された試験だったといえます。
“点数が伸びなかった=実力がない・税理士になる素養がない”では決してない。
ということは改めて伝えたいところです。
ミスはミスですが、逃げずに改善改良するのが肝要です。
来年に向けた学習
毎回同じような結論になってしまい申し訳ないですが、改めてここがちゃんとできていたのか?を自省してみてください。
1.基礎事項の早期反復を最優先に
複雑な論点ほど「基礎を素早く正確に処理できるか」で合否が分かれます。出題のポイントでいうところの「基本的な事項」をまず落とさないことがその先の難解な問題に対する時間と心の余裕を与えてくれます。
2.条文・政令・通達・質疑応答を「つなげて理解する」
今年のように、政令レベル・質疑応答レベルの理解を要求されると、
覚えただけの学習では十分とは言えず、「なぜその結論になるのか?」を、自分の言葉で説明できる状態をつくることが必須です。よく言われますが「教えるつもりで勉強していれば伸びる」です。税理士になったら。納税者に対し制度の目的や可否について言葉や文字で誤解なく伝える必要があって、これを問われている認識をもって勉強に臨みましょう。
3.理論と計算のバランスは絶対に崩さない
答案用紙は理論と計算と別々に回収されています。講師としてたくさんの答案を見させていただいていますが、相続税法は得意不得意の偏りがよく見られる科目です。弱点の方が知識量の余白は大きく伸びしろがあるわけですから、弱点をちゃんとなくしましょう。理論計算どちらも合格点の“少し上”を狙う意識が必要です。
最後に
相続税法もようやく暗記主体の試験から事例主体の試験になってきました。最近はSNSや動画サイトの普及により、「表面的・浅学的な解釈による情報提供」や「制度の趣旨・背景を軽視した可否判断」をよく聞くようになってしまいましたが、この環境下で社会を正しい申告納税制度に導くような役割も求められてきたことの証左ではないでしょうか。
悔しい結果になった方も、今回の反省はあなたの力になります。大切なのは、合格発表という節目にちゃんと向き合うこと。
この記事が、来年の合格に向けて歩む皆さんの力になれば幸いです。引き続き、あなたの努力を応援しています。
〈執筆者紹介〉
梨井 俊(なしい・しゅん)
税理士
大手専門学校で相続税法の講師を務めるかたわら、月次顧問を主な業務とする開業税理士。大学受験の学習塾で英語講師を8年間務めた経験から、学習法や覚える仕組みを資格試験の勉強にもあてはめ、活用法や座学と実務の違いなど、積極的に情報発信も行っている。











