加藤久也(税理士)
【編集部より】
2024年8月6日(火)〜8日(木)の3日間にわたり、令和6年度(第74回)税理士試験が実施されました。
そこで、本企画では、「簿記論」・「財務諸表論」・「法人税法」・「相続税法」・「消費税法」について、各科目に精通した実務家・講師の方々に本試験の分析と今後の学習アドバイスをご執筆いただきました(掲載順不同)。ぜひ参考にしてください!
はじめに
受験生のみなさん、お疲れ様でした。インボイス制度開始後初の本試験であり、理論問題、計算問題ともに適格請求書の取扱いについて問う問題が多く出題されました。また、近年の傾向通り、計算問題のボリュームが多かったため、いかに要領よく解答し、基本論点について正解できたがどうかが合格の決め手になったと思います。では、問題を振り返ってみましょう。
〔第一問〕の講評
第一問は、問1と問2の2問が出題され、どちらも事例問題が出題されました。問1は規定の内容を述べさせたうえで具体的な事例について問う問題が2題出題されました。問2は事例の内容について正誤を判断させ、その判断の根拠を解答させる問題が3題出題されました。では、各問題についてみていきましょう。
問1(配点35点)
適格請求書の交付義務の規定について説明させ、家具製造業を営む内国法人A社が行う具体的な取引事例について解答させる事例問題でした。
(1)「課税資産の譲渡等」の意義と適格請求書を交付しなければならないこととなる要件について問う問題でした。
問題文に従い「課税資産の譲渡等」の意義(消費税法2条1項9号)を述べ、適格請求書発行事業者の適格請求書交付義務(消費税法57条の4第1項、5項)について述べることで解答できたと思います。
(2)非居住者を相手とする2つの取引に関して消費税の課税関係および適格請求書の交付の要否について説明を求める問題でした。
イは外国法人B社(非居住者)に対して意匠権の通常実施権を許諾した場合、ロは同じく外国法人C社(非居住者)に対してA社のホームページ上にC社の販売商品の広告掲載をした場合であり、どちらも基本論点である消費税の課税関係を条文にそって説明し、適格請求書の交付が不要となる旨とその理由を端的に示すことができたかどうかがポイントとなりました。
(3)媒介者交付特例(消費税法施行令70条の12第1項)の適用を受けるための要件と委託者、受託者のそれぞれが行うべき事項について説明を求めるという、実務的な対応を問う問題でした。媒介者交付特例の内容を説明し、この特例の適用を受けた場合において行う必要がある事項を委託者と受託者に分けて説明できたかどうかがポイントとなりました。(国税庁軽減税率・インボイス制度対応室「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」平成30年6月(令和6年4月改訂)問48参照。)
問2(配点15点)
3つの事例を説明する文章の正誤を判断し、その理由を解答する問題でした。
(1)「基準期間における課税売上高」(消費税法9条1項)に、非課税資産の輸出等を行った場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例の規定(消費税法31条1項)により課税資産の譲渡等に係る輸出取引等に該当するものとみなされるものの対価の額が含まれないとする記述は正しいものでした。その理由について、消費税法31条1項が仕入れに係る消費税額の控除の特例規定とされるのに対し、消費税法9条1項に定める「基準期間における課税売上高」は、納税義務の有無の判定の基礎となる取引規模を算定することを目的とするものとされるため、この対価の額は含まれないことを指摘する必要がありました。
(2)免税事業者であった課税期間中における棚卸資産の課税仕入れについて、課税事業者となる課税期間中に仕入れに係る対価の返還等を受けた場合において、仕入れに係る対価の返還等を受けた場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例の規定(消費税法32条)が適用されることはないとの記述でしたが、その仕入れに係る対価の返還等を受けた棚卸資産が納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整の規定(消費税法36条1項)の適用を受けた場合において、当該規定は適用されることとなるため誤りでした。
(3)仮決算をして中間申告書を提出する場合(消費税法43条1項)において、控除不足額が生じたときは、還付を受けることができるとの記述は誤りでした。仕入れに係る消費税額の控除不足額の還付(消費税法52条1項)には、確定申告書(消費税法45条1項)又は還付請求申告書(消費税法46条1項)の提出があった場合において還付すると規定されているため、中間申告書を提出した場合には仕入れに係る消費税額の控除不足額の還付を受けることができないことをその理由として説明する必要がありました。
〔第二問〕の講評
第二問は、例年通り問1と問2の2問が出題されましたが、解答上の前提事項が「問1及び問2に共通する計算に当たっての前提事項」としてまとめて与えられていたところが目新しい形式となっていました。特に問2の解答にあたり、これらの前提条件を確認するよう注意が必要だったと考えられます。
問1はブランド品などの買取・販売の事業を営む法人の納付税額を計算する問題、問2は、不動産賃貸業及び洋菓子の製造小売業を営む個人事業者の納付税額を計算する問題でした。どちらの問題も、納税義務の有無の判定が不要であり、かつ調整対象固定資産の調整計算のない原則課税の問題でした。その一方で、小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(平成28年法律15号附則51条の2第1項。以下「2割特例」という。)の適用の有無について判定させる出題となっていました。標準税率と軽減税率の区別、適格請求書の有無、少額特例の適用の有無など実務でも厄介な項目について判断させる内容が多く出題されており、解答するのに時間を要する問題だったと思います。では、各問についてみていきましょう。
問1(配点30点)
(1)2割特例の適用の有無の判定
2割特例は、基準期間における課税売上高が1千万円を超えるなど適格請求書発行事業者の登録を受けない場合においても納税義務が免除されないこととなる課税期間については適用されないこととされています。本問においては特定新規設立法人の納税義務の免除の特例(消費税法12条の3)の規定が適用されることにより、2割特例は適用されないこととなりました。この判定をするにあたり、特定要件の判定対象は乙社ですが、乙社の完全子会社である丁社が特殊な関係にある法人となり、さらに解散法人に該当するという非常に手の込んだ出題となっています。甲社の納税義務の有無の判定について問う代わりということだと思われると同時に、実務上も留意しなければならない論点ですが、解答時間が限られる中でこの判定を正しく行うことは困難であり、正解できなくても合否には影響ないと思われます。
(2)古物商特例
古物営業法上の許可を受けて古物営業を営む古物商が、適格請求書発行事業者以外の者から同法に規定する古物(古物商が事業として販売する棚卸資産に該当するものに限る。)を買い受けた場合には、一定の事項が記載された帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められることとされています(消費税法30条7項、消費税法施行令49条1項1号ハ(1))。したがって、【損益計算書に関する付記事項】ハ(ロ)古物であるブランド品の買取高のうち適格請求書発行事業者以外の者からの買取りについてもその全額が仕入税額控除の対象とされます。
(3)納付税額の計算
売上げ、仕入れの分類をすべて正解することは難しいため、最終値を合わせることは困難だったと思います。
問2(配点20点)
個人事業者について、所得税法上の取扱いとの違いを意識した内容が目立ち、所得税法履修者や実務経験者にとっては、かえって判断に迷うこととなったかもしれません。以下、それらについて確認していきましょう。
(1)【資料】(7)【不動産所得の損益計算書に関する付記事項】ハ「修繕費」、ニ「管理費」
所得税の不動産所得の計算上必要経費に算入されたとしても、消費税法上課税仕入れに該当しないため仕入れ税額控除の対象とされません。
(2)【資料】(8)【事業所得の損益計算書に関する付記事項】ロ「家事消費等」
消費税法28条3項1号により対価の額とみなされる金額は、当該棚卸資産の課税仕入れの金額及び通常他に販売する価額のおおむね50%に相当する金額以上の金額とすることができます(消費税法基本通達10-1-18)が、所得税の取扱いでは、50%ではなく70%によることとされています(所得税基本通達39-2)。
(3)【資料】(8)【事業所得の損益計算書に関する付記事項】タ「地代家賃」
Xと生計を一にする父Yから賃借している店舗の家賃については、事業所得の損益計算書に計上されておらず、事業所得の計算上必要経費として算入されていないことがうかがえます。これは、所得税法56条1項に従っているためです。消費税法には同様の規定はないため、課税仕入れに該当することとなります。
(4)【資料】(10)原材料保存のための冷凍庫
令和6年12月28日に納品され、令和7年1月以後使用開始したものとされています。所得税の計算では、減価償却費は使用開始日以後の期間について必要経費とされることとなりますが、消費税の計算では、課税仕入れは引取りの日に行われたものとされるため、当課税期間の計算において課税仕入れとして仕入れ税額控除の対象とされます。
合格の決め手
次に合格の決め手について考えてみましょう。各設問の配点をつぎのように予想しました。
〔第一問〕 50点
問1(1)7点、(2)イ、ロ各8点、(3)12点とし、計35点
問2(1)~(3)各5点とし、計15点
〔第二問〕 50点
問1 30点
<内訳>
課税標準額に対する消費税額の計算まで 2点
仕入れに係る消費税額の計算まで 23点
納付税額の計算まで 5点
問2 20点
<内訳>
課税標準額に対する消費税額の計算まで 4点
仕入れに係る消費税額の計算まで 14点
納付税額の計算まで 2点
上記の配点予想を前提に合格の決め手について検討します。
〔第一問〕
問1は、配点35点中30点を合格点と予想します。
問2は、配点15点中12点を合格点と予想します。
〔第一問〕の合格点は合計配点50点中42点と予想します。
〔第二問〕
問1は、配点30点中26点を合格点と予想します。
問2は、配点20点中17点を合格点と予想します。
〔第二問〕の合格点は合計配点50点中43点と予想します。
したがいまして、第一問、第二問合計で85点を合格予想得点とします。
おわりに
本年度の試験問題は、インボイス制度の適用開始に伴い出題傾向が変わりました。〔第一問〕では、消費税の課税関係と適格請求書の交付義務の関係が問われました。また、〔第二問〕では、2問体制に変化はないものの、納税義務の有無の判定が不要でありながら、2割特例の適用の有無を解答させることで納税義務判定の特例規定に対する理解を確かめる出題方法がとられました。
〔第一問〕をいかに手早く切り上げ、〔第二問〕に解答時間を配分できたかが、ポイントとなりました。問題文に示された配点と答案用紙の枚数から冷静に時間配分ができたかどうかが合格の分かれ目となったと思います。
ここまで、本試験の問題について講評し、合格の決め手について考えてきました。しかし、税理士試験の正解及び詳細な配点は公表されないため、あくまでも私個人の検討に過ぎないことをお含みの上お読みください。
大手専門学校からは模範解答と詳細な予想配点が公表されるものの、受験生のみなさん自身が答案用紙に書いた答案を正確に復元することは難しく、自信のない箇所を不正解として保守的に自己採点すると、実際の得点よりも低い点数となります。その結果、合格予想得点やボーダーラインに届かずがっかりされることも多いと思います。
では、模範解答を確認すること、自己採点することは無意味なのでしょうか。合格確実ラインやボーダーラインに届いていなくても、どの程度の点数が取れたかと、講評や模範解答で「基本的な項目」「簡単な内容」とされた箇所について正解できたかどうかで、次の行動すなわち次の科目へ進むのか、同じ科目の勉強を再度行うのかが変わります。税理士試験の合格するためには、現実をしっかり受け止め、次の行動に活かすことが大切です。
最後になりましたが、受験されたみなさんに吉報が届くことを願っています。本当にお疲れ様でした。
<執筆者紹介>
加藤 久也(かとう・ひさや)
税理士/名城大学大学院非常勤講師(消費税法担当)
1991年、富山大学理学部卒業。1991年~1995年、株式会社日立製作所に勤務。1998年、税理士試験合格。2000年、税理士登録。2002年、愛知県春日井市に加藤久也税理士事務所開業。税理士業のほか、1998年~2019年に名古屋大原学園、2016年より名城大学、2019年より愛知淑徳大学にて非常勤講師を務める。2017年より東海税理士会税務研究所研究員、2021年より同研究所副所長に就任。2019年より日本税法学会所属。著書に『ワークフロー式消費税[軽減税率]申告書作成の実務』(共著、日本法令)がある。