海外で働く公認会計士のリアル:#インド編・野瀬大樹


【編集部より】
「海外で働くこと」を一度は憧れたことがある人も多いのではないでしょうか。しかし、言語や仕事、生活など、乗り越えるないといけないようなハードルもたくさんあって、なかなか踏ん切りがつかないという人もいるでしょう。
そこで、本企画では、海外で働いたことがあったり、今まさに海外でビジネス展開していたりする6名の公認会計士に、海外で働くリアルについて教えていただきました。きっと、今後のキャリアを模索するさいのヒントになるはずです!
今回は、「インド編」として、野瀬大樹先生(公認会計士・税理士)にご登場いただきます。
また、本シリーズは、#中国(北京・上海)→#シンガポール→#インド→#アメリカ(ニューヨーク)→#イギリス→#アフリカ(ルワンダ)と世界周遊気分を味わいながらご紹介する予定です。ご期待ください!(全6回・不定期掲載)

海外で働くことになったきっかけ

私は実家が自営業であったこともあり、もともと独立開業志向だったのに加え、監査法人でのキャリアもこれ以上は厳しいなあという思いもあって、「とりあえず辞めてみるか」と思い立ち、特にノープランで退職してみました。

1年ほどは公認会計士っぽい仕事は全くせず、執筆やセミナー講師の仕事をしており、その間にアメリカやオーストラリアで働いている監査法人時代の友達に会いに行ったりしていました。一方、同業の公認会計士である妻は、大学院に入り直し、修了後を見据えて就職活動をしていました。

そんな中、ちょうど私自身も海外での仕事に興味が湧いたタイミングで、妻が就活で知り合った香港の公認会計士から、「インドで一緒に会計事務所作らない?」という提案を受け、「はい!」とその話に夫婦2人で乗った形になります。

自営業の父からは「人と会社を作る時は必ず株は半分以上持つように」と昔からずっと言われていたので、その教えに従い、75%私の出資にしてインドに今の法人を作りました。それまでインドには全くの縁はなく、インドに初めて渡航したのも会社を作るためです。

インドでの仕事内容

インドでの仕事は、まず税務申告や記帳代行、給与計算サービスを現地日系企業に提供しています。日本の税理士事務所の仕事をインドのデリーでやっていると言えばわかりやすいかもしれません。

これに加えて、会社や支店の設立です。これは「今からインドでビジネスをしたい」という会社向けのサービスです。

他に、「これぞ会計士」という仕事としては、連結パッケージの作成や本社向けのレポートの作成です。これは日本の本社からの要望なので、どうしても「日本語英語の双方でコミュニケーションが取れる現地在住専門家」という人物が求められます。そのあたりの仕事はローカルの会計士では対応不可能なので、日本の会計士への需要はまだまだあると思います。

今は、日本人公認会計士2名と、インド人会計士5名、その他スタッフ3名という体制で業務を行っています。基本的には仕事はすべて英語、日本人クライアントや日本本社への説明などが必要な場合は日本語というイメージです。

▶スタッフとの一枚(写真右が野瀬先生)

現地での生活やビジネス慣習

「インドで仕事をしている」と日本の人に話すと、水などの衛生面や暑さなどを心配され、「生活大変ですね」と言われるのですが、正直その点は全然苦になりません。半年で慣れました。

では、実際どういった点が大変かというと、やはり「仕事観」「人生観」などが違う社内外の人たちとの仕事です。日本が異常なだけで海外ではどこもそうなのかもしれませんが、インドの人はとにかくこれらの「価値観」が日本人とは真逆なのです。

この違いを簡単に説明すると、日本の人が「緻密・計画的・長期的」なのに対して、インドの人は皆、「おおざっぱ、とりあえずやってみる、短期的…」といった具合です。

双方に良し悪しがあるとは思うのですが、最初は、…いや、今もこのギャップに苦労します。

極端な話、少額であれば貸借対照表の貸借が一致してなくても、インドの人は気にしません。たとえ会計士であっても、「そんなの期末までに雑費か何かで帳尻を合わせればいいじゃないですか」という人がいるのが実際です。

例えるなら、私の仕事は「インド人を使って、日本企業に日本人が求める品質のものを提供する」というものなので、事務所のスタッフに日本が求めるもののレベル、緻密さなどを徹底するのにいつも苦労します。

また、仮に「日本企業が求めるものをようやくわかってくれた!」と思っても、いきなり「会社辞めます」と言われることも日常茶飯事です。

インドの会計事務所では皆少しでも給料が高いところがあったらすぐに転職するため、だいたい2年ほどで従業員が入れ替わります。そのため、また新しい人を雇って、また日本的価値観を教える…という作業を繰り返し続ける必要があります。

海外業務の醍醐味

苦労話ばかりしてしまったのですが、実際こちらで仕事を始めたことはとても良かったと思います。

縁もゆかりもない国にフラッと来て、1から会社を作り、13年も経営を続けるのは大変でしたが、日本で開業している同業の友人から話を聞いても、結局のところ独立開業には苦労はつきものです。

何より、海外案件をメインでやっている公認会計士や税理士はまだまだ少ないので、普通に日本で独立していたらお会いすることもなかったような大手企業から仕事のオファーが来ます。

また、対クライアントだけではなく、業界内でも海外業務をやっている人はまだまだ少ないので、色々な人からお声がかかることでご縁ができ、海外案件に係るたくさんの同業者(国籍問わず)に仕事やプライベートでも仲良くさせてもらっています。

クロスボーダーな案件になると、絶対に一人の専門家では対応できないので、自然に国をまたぐネットワークの輪に加わることになります。

日本での勤務時代は、仕事は国内法定監査ばかりで海外案件はゼロ、もちろん英語も全く話せなかったのですが、今の仕事を始めることで、強制的にキャリアをチェンジすることができたのは、私の人生においてとても大切な転機だったと思います。

皆さんも、機会があればぜひ(できれば体力ある若いうちに)、海外案件にチャレンジしてほしいと思います。

【執筆者紹介】

野瀬 大樹(のせ ひろき)

公認会計士・税理士
1977年生まれ、滋賀県出身。
2002年に公認会計士試験2次試験に合格後、大手監査法人にて法定監査業務に従事。その後退職し独立。2011年にインドのニューデリーにコンサルティング会社を設立し現地にて日系企業に、会計・税務サービスを提供している。
著書に「お金儲けは『インド式』に学べ!」(ビジネス社)など多数。
Xアカウント(@hirokinose

<こちらもオススメ>
「海外で働く公認会計士のリアル」

▶︎「中国(北京・上海)編(津田 覚)

▶︎「シンガポール編(林 竜太)

▶︎「インド編(野瀬大樹)


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