【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。
結婚を機に税理士を目指し、独学で官報合格!
みなさん、こんにちは! 税理士の西﨑恵理と申します。現在、小学6年生・小学2年生の二人の子供を持つ母ですが、昨年の4月に独立開業し、ちょうど1年が経ちました。
私が税理士を目指そうと決めたのは、結婚が決まり、それと同時にそれまでの仕事を辞めて縁もゆかりもない土地へ引っ越さなければならない、となった時に、その後の人生において、パートナーの仕事に左右されず、かつ、家庭と子育てとを両立しながらずっと続けていける仕事がしたい、と思ったからです。
ですので、目指した当初から「ゆくゆくは独立して、ワークライフバランスを重視した仕事の仕方が出来れば良いな」という風には思っていました。
結婚後、奨学金の返済と実務経験のために未経験で税理士事務所(その後税理士法人化)に雇用していただき、間に出産・育児による休業も挟みつつ、パート勤務の傍ら独学で勉強し、7年間で官報合格を果たしました。
所属税理士として登録、40歳になったら独立…のはずが!?
35歳の時に合格はしましたが、すぐに独立ということは頭になく、まずは勤務していた税理士法人の所属税理士として税理士登録をしました。
その理由は単純に「自信がなかったから」です。というのも、税理士は平均年齢が60代という業界で、30代以下は10%程度です。
さらに、女性税理士の割合も全体の15%ほどしかいません。そうすると、30代・女性で、かつ、実務経験もまだ乏しい私がすぐに独立したとして、「色んな業界の百戦錬磨の社長さん達と渡り合えるだろうか…、今のまま給料をもらって与えられた仕事をこなしていく方が楽では…」と、独立に対して前向きな気持ちがどうしても持てなかったのです。
一方で、迫りくるDX化や次々やってくる税制改正の波と、昔ながらの態勢での働き方との間に大きなズレを感じていたこともあり、独立したい気持ちと、躊躇する気持ちと、両方の気持ちを行ったり来たりしながら、ようやく「40歳になったら(当時38歳だったので、2年後)独立しよう!」と決心が固まりつつあったある日のことです。
「来年から、欧州に3年間勤務になった」
と、某大手自動車メーカー勤務の夫から、衝撃の一言が出たのです。
どうなる!? 私の税理士資格
本社勤務の総合職なので、転勤族にならないことは確定していましたし、まだコロナ禍で出張すらも長らくなかった中での突然の出向命令(しかも国外)。
実は、この半年前ぐらいに既に上司からの匂わせはあったそうなのですが、そう言われた全員に必ず決定が下りるわけでもありませんし、匂わせがあった後も、それが具体化するような雰囲気も一切出ないままの状態でした。
ですが、私としては本決まりになる前に、念のために調べておく必要がありました。仮にも国家資格保有者です。仮に、海外へ数年間帯同ということになったら、私の資格はどうなるのでしょう?
税理士会に問い合わせた結果(窓口の方もあまりのレアケースに驚いていました)、税理士会には休会制度というものはなく、帯同する(=日本に住所がなくなる)となると登録を抹消しないといけなくなる、ということでした。
(厳密に言うと実家の住所などに登録を残すことも出来なくはないそうなのですが、実家だと所属会も変わりますし、会費は当然ながら発生、さらには確定申告期の無料相談の従事も免除はされません、とのことでした。)
そして、登録抹消を選択した場合には、帰国したのちに再度登録をするのだそうです。もちろん、登録料などは、新規登録の場合と同じだけ必要となります。
迫られる究極の選択、夫婦で出した結論
さて、皆さんならどうしますか?
税理士を辞めて3年間海外へ行きますか? それとも日本に残りますか?
帯同するとした場合、ずっと続けてきた仕事を辞めて専業主婦になって海外生活を楽しめるか、といった不安や、小学校・中学校を海外の学校で過ごす子供たちの学習面の心配もありましたが、3年後に戻ってきてから税理士として再スタートが切れるか、という不安が特に大きくのりかかりました。
元々縁もゆかりもない土地でここまで頑張ってきて、担当するお客様も徐々に増えてきました。少なくとも独立という点では最後のチャンスかもしれない、とさえ思いました。
もちろん、日本に残るとなった場合でも、海外で一人暮らしとなる夫の心身の健康や、父親と離れることとなる子供達のメンタルといった心配もあります。
結局、どちらを選んでも、皆が満足できる保証はどこにもありませんでした。
色々なことを考えて、夫婦でたくさん話し合い、結論を出しました。
夫は単身赴任、私は独立、と。
令和4年の11月に出向命令が出て(出発は翌年夏)、年内にこの結論を出してからというもの、独立のための準備や退職に向けての手続きなど、わずか3か月間しかない中(しかもちょうど確定申告期!)で忙しく走り回り、無事に令和5年4月1日の独立開業に至ったわけです。
完全ワンオペ生活も、独立開業で動きやすくなった!
そして現在、夫が出発してからの生活ですが、もともと、平日の家事や保育園・学校・習い事といった子供関係の仕事はほぼ全て私がやっていましたので、子育てに関する負担は出向後でも特に変化することはありませんでした。
むしろ、独立したことによって、家で仕事をする時間を増やすなど自由に動けるようになり、仕事と子育ての両立はとても楽になったと感じています。
ちなみに、開業するにあたって自宅事務所か自宅外事務所か、という二択で皆さん悩まれるかと思いますが、男性(夫)が不在となる自宅を事務所として登録することで、名簿や名刺、ホームページなどから自宅住所を知られることは避けたかったので、私は賃貸事務所での開業を選びました。
また、今は仕事でLINEなどのアプリを使うことも多いので、携帯を仕事用に別に購入したことも正解だったかな、と思います。このように公私を分けることで、確かにコストはかかりますが、管理面では非常に楽ですので、その分仕事を頑張ろう、と思ってなんとかやっています。
受験、勤務、独立を経て、よく感じるのが「資格は行きたいところへ行くためのパスポートだ」ということです。
パスポートは取って終わり、というものではありませんよね。パスポートがあれば、どこへだって行けるようになります(税理士資格で海外に進出することはさすがに叶いませんでしたが…)。
積極的に使ってどんどん先へ進むことも出来ますし、お守りとして持っておくだけでも気持ちは変わります。「コレがあれば、何とかなるさ!」と思えるものがあると、人生の選択肢が格段に広がるのではないでしょうか。
実際、日本に残ることを決める際にも、出向にあまり前向きでなかった夫に対して、「じゃあ私が無職になってついて行くより、日本で仕事を続けておくから、無理だと思ったらいつでも会社辞めて帰ってきたらいいやん。 そう思っておいたほうが気楽でしょ!」というふうに言えたのも、自分に資格があったからこそだと感じています。
かなりのレアケースだと思うので、独立を考えられている受験生の皆さんのご参考にはならないかもしれませんが、是非とも、合格の「その先」にある未来を目指して、頑張ってください。応援しています!
【執筆者紹介】
西﨑恵理(にしざき・えり)
税理士
愛媛県松山市出身。大阪大学法学部卒業後、大阪市内の法律事務所でパラリーガルとして勤務するも、結婚を機に退職、愛知県へ転居。未経験から税理士事務所へ就職し、仕事と子育ての合間に独学で税理士試験を受験し、2019年度(第69回)本試験で官報合格。2023年4月に個人事務所「エンTAXサポート」を開業。
著書に 『税理士試験 独学×家勉で合格する方法Q&A』(中央経済社)、『税理士試験 税法理論のすごい暗記法』(共著、中央経済社)がある。
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