わたしの独立開業日誌 #行政書士・山尾加奈子


【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。

会社員から兼業時代を経て、帰化専門行政書士に

皆さんこんにちは。

東京都千代田区で行政書士をしております山尾加奈子と申します。

私は、2018年8月に行政書士登録をしたものの、すぐには独立開業せずに会社員と兼業で行政書士業務を開始しました。会社を退職し本格始動したのは2021年9月です。本格始動して丸2年が経ちました。

ここでは、私が会社員と兼業時代に行った業務内容や、本格始動のために行った開業準備についてご紹介させて頂きます。

今後のキャリア形成についてお悩みの方のヒントにしていただけたら幸いです。

プロフィール写真

ゲーム会社で激務に追われる中、行政書士という資格を知る

私は、大学卒業後、周りの人と同様に企業に就職し、平凡な会社員人生を歩んできました。

ゲーム会社に勤めていましたが、部長に昇進し、日々の業務に追われていました。「行政書士」という資格の存在を知ったのは、中間管理職として疲れ切っていたちょうどその頃です。

ゲーム会社には、優秀な外国人のエンジニアが多く在籍していて、彼らが「永住」や「帰化」を真剣に考えている姿を見ていました。彼らのような外国人が日本で安心して暮らせるように、在留資格や帰化のサポートができたらいいなと思って調べたところ、そういった業務ができるのが行政書士だったのです。

人の役に立ちたいという思いがあったのも事実ですが、同時に、「行政書士になったら、漫然と会社員として過ごしている人生から解放され、やりがいのある仕事に就けるのではないか」という気持ちがあり、挑戦することにしました。

激務のなか、朝4時起きで勉強して合格するも、開業に踏み出せず…

前述のとおり、ゲーム会社は激務でした。しかし、どうしても合格したいという思いが強く、朝4時に起きる生活を半年間して独学で勉強をしました。
しかし、1回目の受験は6点足りずに不合格でした。諦めきれず、2回目は土日に半年間専門学校に通い勉強をしました。おかげで、2回目の受験で合格できました。

会社員からの解放を夢見ていたにも関わらず、合格してみると独立開業するのが怖くなり、暫く行政書士登録もせずに会社員を続けていました。

独立に関して一番恐れていたのは、顧客がいないことでした。独立してもお客様が来なければただの無職と一緒です。また、会社員でいれば給料が保証されているのに、個人事業主になったら収入が安定しないだろうという気持ちが強く、ストレスはあるものの、現在の地位を捨てるのが惜しくなりました。

兼業可能なIT企業に転職し、ミニマムにスタート

「一度きりの人生、やりたいことは諦めたくない」と思った私は、開業に向けて少しずつ歩みを進めました。開業準備なしで独立してもギャンブルになると思い、まずは兼業にてミニマムに行政書士業務を開始することにしました。

そこで、兼業が可能なIT企業に転職し、行政書士登録を行いました。そして、実務を学ぶべく、有料の入管業務セミナー、さらに、マーケティングセミナーを受講し、HPを作成しました。

入管業務セミナーとマーケティングセミナーを選んだのは、「実務知識」と「経営力」に偏りがあっては良くないと考えたからです。「まずは実務知識と経営力の両方をお金で仕入れよう」と考えました。

振り返ると、この先行投資は自分にとって大きな意味を持ったと思います。
他の新人行政書士と差をつけることができ、さらにセミナーで知り合った同期の仲間たちとは今でも切磋琢磨できる良い関係が築けているからです。

他に、地道な営業活動も行いました。友人や知人を紹介してもらったり、士業のセミナーに参加し、名刺交換の際には開業当初から「帰化専門」であることをアピールしました。
専門特化型はとても興味を持たれ印象に残るようで、半年後など忘れた頃に、紹介案件として依頼を頂くことも増えました。

SNSを利用したマーケティングをコツコツと積み上げる

兼業時代は会社との取り決めで、業務時間中は会社業務に専念しなければなりませんでした。
必然的に行政書士業務は平日の夜や土日に行うことになりましたが、私にとっては、好都合でした。
帰化サポートを専門としていることから、ターゲットが個人のお客様だったからです。多くのお客様が会社員であるため、相談は土日に行われることがほとんどでした。

さらに、帰化業務の特殊なところで、法務局に書類を提出するのは「申請者本人」でなければならないため、平日の昼間に私自身が役所に行って書類を提出する必要もありません。書類を作成し、申請者の自宅に書類を郵送すれば足りました。

兼業時代は、HPのコンテンツを増やすことやYouTubeでの配信をメインに行っていました。
これらの作業はスキマ時間にできるのが良いところです。地味な作業ではありますが、「継続は力なり」と、出勤前の早朝からYouTubeを収録したり、平日の夜に記事を書き続けました。

効果はすぐには現れませんが、徐々にボディーブローのように効いていき、半年から1年経った頃にはHPやYouTubeからも集客ができるまでになりました。

自宅登録から事務所を借り、「会社員卒業の日」を決める

開業当初は、固定費がかからないように自宅を事務所として登録していました。
しかし、徐々にお客様との面談が増えるようになり、毎回カフェで面談をするのも大変です。

会社員ではありましたが、個室の事務所を借りることにしました。事務所を借りるタイミングは、業務内容にもよりますが、売上が立つようになってから考えたら良いと思います。

そして、事務所を借りると決めた時、会社員を卒業する日を決めました。
会社員であり続けることは簡単ですが、期限を決めないといつまでも会社員で居続ける可能性が高いと思ったのです。

そして、自分で決めた退職日から逆算し、それまでにすべきことをマイルストーンを立てて実行していきました。

売上の安定のため、「to B」である顧問業を獲得していくことも、マイルストーンの一つでした。

当時在籍していたIT企業から法務顧問を依頼され、現在でも継続して行っています。これは、全力で会社員としての責務を果たしたことで、勝ち得た結果だと思っています。
他にも、勤務会社の同僚から、スタートアップ企業の法務サポート案件を紹介され、当初決めていた日に、予定通り退職することができました。

兼業から3年が経過していました。

やる気があれば何でもできるのが士業の良いところ

独立当初はひとりでマイペースにやっていきたいと考えていました。
しかし、労働集約型の士業の業務には限界があります。お客様が増えれば増えるほど多くの方に同じようなクオリティを提供することが難しくなります。
また、昨年から業務範囲を拡大したこともあり、一人では抱えきれないほどの業務量となってきました。そこで、スタッフを雇用し始めました。

将来、どのような形で業務を行っていくのかはまだ模索中です。
他士業と提携するにしても、組織化して業務を拡大するにしても、決めるのは自分です。
いろいろな選択肢があり、今は、忙しいながらも毎日楽しく業務を行っています。

行政書士になるまで、入管業務や帰化業務を経験したことがありませんでした。
しかし、やる気があれば何でもできるのが士業の良い所だと思います。
もちろん、一から実務の勉強や実績を積んでいく必要はありますが。

自分が将来どうありたいのか、受験生時代には見えていなかった景色が少しずつ見えてくるようになりました。人生を切り開くのは自分です。これからも、模索しながらではありますが人生を楽しんでいきたいと思います。

<プロフィール>
山尾 加奈子(やまお かなこ)
ゲーム会社やIT企業の法務部員として勤務しながら2018年8月行政書士登録。その後2021年9月完全独立し飯田橋に行政書士事務所を開業。
法務部では管理職を経験し、訴訟、英文契約書、GDPR、個人情報保護法、知的財産権、著作権に関する業務を担当。法務部での経験を元に、現在は、スタートアップ企業の顧問、NPO法人や一般社団法人の監事に就任。
個人向けのメイン業務は帰化・永住申請。
HP: https://visa-corazon.com/

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