滝沢凜(福岡大学助教)
【編集部より】
本日合格発表があった令和5年第Ⅱ回短答式試験。
合格率は8.8%(答案提出者数:10,430人、合格者数:921人)と昨年よりは少し上がったものの厳しい戦いでした。
この結果を受けて、12月の短答式試験にむけて再挑戦する受験生はまず何をすべきか?
また、会計士試験の厳しさを実感し、受験を継続するか、他の道に進むか迷っている方も多いハズ。
そこで、福岡大学「会計専門職プログラム」担当教員として公認会計士受験生の指導をされている滝沢凜先生に、受験を継続して12月の短答式を目指す方、撤退を考えている方、撤退を決めた方にむけてアドバイスをいただきました。
本稿では、令和5年第Ⅱ回短答式試験において不本意な結果となった受験生に向けて、状況に応じたアドバイスを行います。
次の12月短答式を目指す方へ
挫折の効用を考える
論文式試験に登場するファイナンス理論(経営学)の学習では、「効用」という概念が登場します。これは、ざっくりいうと満足度という意味。例えばコーラを飲むとき、一般に1杯目は満足度が高い(効用が大きい)けれど、量を増やすにつれてだんだん満足度が低下して(効用が小さくなって)いくことが考えられます。
ここで、会計士試験について考えると、「失敗は成功の基」というように、不合格が効用をもたらす側面が考えられます。例えば、「挫折により研ぎ澄まされた大局観が、今後の人生において成功のカギになる」ことは、可能性として考えられるでしょう。
ただ問題は、不合格を重ねるにつれて効用が大きくなるかといったら、そうとは限らないこと。私自身、本気で臨んだ短答式に3回不合格となった経験があります。ここで今振り返ると、1回目の不合格によって精神が鍛えられたし、2回目の不合格によってそれ以上にストレス耐性がつきました。ただ、3回目の不合格によって更なる効用が得られたかと問われれば、正直微妙なところ。
したがって、できれば、挫折の効用が小さくなる前に受かりたい。意味の薄い失敗に、お金と時間を投じることは極力避けたい。そのために、まずは反省会をしよう、という話であります。
反省会をしよう
ここで、一度自問していただきたい。「過去の成功体験(大学入試や定期試験)に慢心して、予備校講師のアドバイスに反する学習法を採用していなかったか?」と。自己流の学習を進めることは、いうまでもなく、不合格の王道パターン。これをしてしまうと、たとえ過去に優秀とされてきた受験生でも、不合格のスパイラルに嵌ってしまいます。例えば、「今回の5月短答式を55%の得点率で不合格となった受験生が、次の12月短答式も55%で不合格となる」という最悪の事態。これは割と普通に起こり得ます。
したがって、肝心なのは、予備校講師の示す学習法に従うこと。換言すれば、予備校に蓄積された数十年分のノウハウを踏襲すること。大手予備校の教壇に立っている講師陣のアドバイスを受け入れることは、自己流で学習を進めるより、遥かに学習効果が高いはずです。
型にはまることは、何となくつまらない気がするかもしれませんが、大多数の受験生にとって、それが結局のところ最適解となるはず。もっとも、「自分独自の受験体験をコンテンツとして発信し、収益を得ている」等の事情があれば、また話は変わってきますが。自分の色を出したければ、合格した後に好きなだけ出すのがお勧めです。
撤退を考える方へ
しんどさ故の不戦勝
公認会計士試験の特徴は、なんといってもお金と時間がかかること。不合格を重ねれば重ねるほど、経済的負担・精神的負担が、重く圧し掛かってきます。もはや頭脳だけでなく、資金繰りとスタミナを武器に挑む耐久競技と言っても過言ではないでしょう。
ここで提起したいのは、この「しんどさ」を肯定的に捉えるべきではないかということ。なぜなら、それなりにレベルを上げた受験生(上級者)たちが、しんどさを理由に受験から撤退していくから。すなわち、しんどさのお陰で、格上を相手に「不戦勝」し得るわけです。
土俵の上で踏ん張っている今この瞬間も、目に見えないライバルを倒している。そう考えると、今置かれた苦境を肯定的に捉えられるかもしれません。
監査法人見学に行こう
12月短答式までの期間、オフィスツアーを開催する監査法人は多いのではないでしょうか。オフィスに足を踏み入れることで、実際に会計士として働くイメージが湧きますし、職員の方々の受験エピソードを聴くことは、今後の受験の励みになると思われます。
現在私が福岡大学で受け持っているゼミナールでは、そうした理由から、積極的に監査法人見学を企画しています。
撤退を決めた方へ
ある漫才師の話
『お笑いポポロ』(麻布台出版社)の2008年5月号には、ある漫才師の、芸人になった経緯が掲載されています。彼は、大学生のときに公認会計士を目指していましたが、受験から離れて漫才コンビを結成することに。その後、M-1決勝に進出し、多くのレギュラー番組を抱え、Netflixのドラマでは伝説の漫才コンビを演じました。
思うに、受験を続けるか否かに関わらず、今後の飛躍は自分次第なのでは。熟慮を重ねた選択の果てに、公認会計士たちをあっと言わせる未来があるとしたら、それは最高に熱い展開だと思いますよ。
【執筆者紹介】
滝沢凜(たきざわ・りん)
福岡大学商学部経営学科助教
2018年、早稲田大学4年次に公認会計士試験合格(5月短答式・8月論文式)。2019年以降、大学院修士課程・博士後期課程に在籍しながら、有限責任監査法人トーマツ・パブリックセクター・ヘルスケア事業部において監査業務に従事(2022年9月まで)。2023年より福岡大学に着任。1年生および2年生を対象としたゼミナールを受け持つほか、「会計専門職プログラム」担当教員として公認会計士受験生の指導にあたっている。