井上 修(福岡大学准教授・公認会計士)
【編集部より】
8月もあと数日ほど。高校生の中には、この夏休みに、大学のオープンキャンパスへ参加したという人もいるのではないでしょうか。
そこで、将来の一選択肢として「公認会計士」という職業を考えるきっかけになれば、という思いから、公認会計士試験の受験指導経験も豊富な井上修先生(福岡大学准教授・公認会計士)に、公認会計士を目指す場合の進路から、資格や仕事の魅力、試験のことまで、前編・後編に分けてナビゲートしていただきます。
前編では、高校卒業後の進路にはどんな選択肢があるのか、公認会計士がどんな仕事をしているのかがわかるので、ぜひ将来を考えてみてください!
公認会計士を目指す高校生の進路は?
まず、「公認会計士になりたい」と思った高校生が卒業後の進路をどのように考えると良いでしょうか。
公認会計士試験には受験資格がないため、年齢や学歴問わず、誰でも受けることができます。
しかしながら、詳しくは後ほど説明する通り、会計監査の専門家になるための試験ですから、非常に難易度が高い試験です。
したがって、独学ではなく、ほぼ必ず「公認会計士試験のための受験予備校」に通う必要があります。
大手の受験予備校としては、資格の大原、TAC、CPA会計学院、LEC東京リーガルマインドなどがあります。
ここで、もし公認会計士試験合格だけを目指すのであれば、受験予備校にだけ通えばよいということになります。
当然、公認会計士試験の受験対策に特化した「全日制専門学校」に進学し、公認会計士試験合格を目指す場合もありますが、公認会計士試験を受験する多くの人は、「大学」に通いながら受験予備校にも通うというダブルスクールで受験勉強をしています。
なぜダブルスクールをするのかについては、一般論としての大卒の資格を得ることのメリットのほか、公認会計士合格後のキャリア形成に有利、保険的な要素(受験に失敗する可能性)などがあるでしょう。
公認会計士だけが選択肢の全てではなく、状況によって目指すものが大きく変わる可能性があります。
そのためにも、ダブルスクールという形で公認会計士を目指すほうが良いと思われます。
しかしながら、ダブルスクールは経済的な負担が大きいです。
もちろん、公認会計士になることはそのような負担に見合った活躍の場がありますが、そうであっても、経済的な負担は大きな問題となります。
最近では、私が在籍する福岡大学をはじめ、公認会計士を目指す独自の取り組みをしている大学が他にも多数ありますので、是非、調べてみてください。
ダブルスクールの負担をできるだけ軽減した独自の取り組みをしている大学もあります。
大学と受験予備校とのダブルスクールについて、私が福岡大学のオープンキャンパスなどで関わった高校生が不安に思っている点としては、「時間的な負担」や「大学との両立」でした。
公認会計士を目指す独自の取り組みをしている大学であれば、単位や履修面で優遇したり、大学内に自習室や講義の実施など、いろいろな負担を軽減する仕組みを持っていると考えられます。
そうでない場合であっても、経済や経営商学系の学部であれば、公認会計士試験の受験科目との重複が多いため、必然的に両立はしやすい環境にあります。
大学との両立ができる人の傾向としては、「手を抜く」というよりも、「やるときはちゃんとやる」という人が多いように思えます。
大学の講義は休まずに、その代わり出席したらとにかく大学の講義に集中してあとでダラダラ勉強し直したりしないように全て大学の講義内で完結し、あとは公認会計士試験の勉強に完全特化するという感じです。
ただし、アルバイトやサークル活動などは難しいと考えてください。
その分、大学在学中に公認会計士試験に合格すれば、学生のうちから公認会計士試験合格者として、一般のアルバイトよりもはるかに高い時給で、監査法人でアルバイトもできます。
金銭的な余裕ができれば、趣味や旅行、留学などいろいろなことに挑戦する環境が手に入ります。
公認会計士の仕事ってなに?
さて、今回の企画は、高校生、特に商業高校などで簿記をすでに勉強している高校生に向けて、公認会計士のことを知ってもらうという趣旨でもあります。
そこで、まずは公認会計士の仕事について、簡単に説明します。
公認会計士は、医師・弁護士・公認会計士という「三大難関国家資格」の1つに挙げられている、まさに「会計のプロフェッショナル」という職業です。
医師や弁護士にしかできない仕事(独占業務)があるように、公認会計士にしかできない仕事として「監査(かんさ)」というものがあります。
企業をはじめとする大きな組織が、お金を外部から集めてそれを使っている場合に、「外部から集めたお金を何に使って、どれくらいの成果を上げたのか?」について、お金を提供した人に報告する責任があります。
その時に、お金の計算に関する報告が間違っていないかどうか、場合によっては、人をあざむくためにわざと間違えて報告するかもしれませんので、会計のプロフェッショナルである「公認会計士」にチェック(「監査」)をしてもらうように法律で定められています。
逆にいえば、監査をする公認会計士がいなければ、上場企業といった大きな組織はお金を集めることもできませんし、存在し続けることもできないということになります。
これだけ見ても、公認会計士がいかに社会にとって必要不可欠な存在であることが理解できると思います。
実は、上場企業をはじめとする様々な組織が、法律のもとで「監査を受けないといけない」ことになっています。
公認会計士は、その監査を「独占業務」とする非常に特別な存在です。
参考までに、法律によって「監査」が求められる組織の例を以下に挙げます。
太字で書かれた「株式上場企業」や「大きな会社」には、みなさんが知っているほとんどの会社が当てはまるはずです。
このように、様々な組織において、お金に関する不正を防止し透明性を確保することで、よりスムーズなお金のやりとりを促すための必須の手段として「監査」が求められています。
公認会計士という職業には魅力がいっぱい!
公認会計士の魅力は、「専門性の高さ」とそれに裏付けられた「自由さ」だと思います。
以下の図は、公認会計士が活躍する領域を簡潔にまとめたものです。
しかし、公認会計士の活躍する領域は、上の図だけにとても収まるものではありません。
私自身は大学教員として会計研究と教育に従事していますし、私の教え子には自分の会社を起業している人もいます。
日本だけにとどまらず、海外で活躍している公認会計士も非常に多いです。
このような「自由さ」は、公認会計士という「高い専門性」を有しているからこそです。
実は、公認会計士は比較的、離職率が高いほうだと思いますが、これは容易に転職でき、多くのニーズと活躍の場があるからこそ、積極的に環境を変えて、より自分が活躍できる場所を選ぶことができるのです。
もちろんこの他にも、社会的地位の高さ、高収入、グローバルに活躍できる点など、多くの魅力が公認会計士には詰まっています。
一生使える最強の資格を手に入れることができるので、将来が不安な昨今の経済状況等を考えると、非常に魅力的な職業だといえます。
また、女性が活躍しやすい職業であるという点も強調しておきます。
私が公認会計士として監査の仕事をしていたときにも、子育て中のママ公認会計士が多く在籍していました。
午後3時くらいに仕事を切り上げる人や、高額時給でパートタイムで働いている人、上司にも多くの女性がいました。
何年も前でもそのような状況でしたから、今はもっともっと多くの女性公認会計士が活躍できる環境になっています。
ビジネスの世界で「一生通用する最強の資格」を有していることは、人生のいろいろな場面で活用できます。
(後編:8月29日掲載につづく)
【執筆者紹介】
井上 修(いのうえ しゅう)
福岡大学准教授・公認会計士
慶應義塾大学経済学部卒業。東北大学大学院経済学研究科専門職学位課程会計専門職専攻、同大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。研究分野は、IFRSと日本基準の比較研究、特別損益項目に関する実証研究。福岡大学では「会計専門職プログラム」の指導を一任されている。当プログラムでは、現役の大学生が多数、公認会計士試験や税理士試験簿記論・財務諸表論に在学中に合格を果たしており、在学中合格を果たしており、本プログラムから2018年10名、2019年5名、2020年6名、2021年4名が公認会計士試験に合格した。