諸角 崇順
受験生のみなさま、連日の猛暑の中での受験、本当にお疲れさまでした。
毎年のことではありますが、本試験が終わると「予想が当たった!」「なんで、こんなのが出るの?」といった感想が飛び交います。そこで、私もその1人として、今回(第72回)の財務諸表論について所感を述べるとともに受験生へのアドバイスをしたいと思います!
何が合否を分けた?
全体的な感想としては、知識の量というよりはむしろ戦略(各問の時間配分や解答順序の決定)が大事だったと思います。第一問に20分程度(問1・問2を解答し、問3は後回し)、第三問に90分程度、そして最後に第二問に10分程度、という解答順序および時間配分をとった受験生は、かなりの確率で合格圏内に入るでしょう。
次に各問の感想ですが、第一問は多くの専門学校の予想通り「収益認識に関する会計基準」から出題されました。これに関しては、ほとんどの受験生が何らかの対策はしていたと思いますが、いわゆる「理論」として解答する部分がほとんどなく、用語で解答したり記号を選択したりする部分が大半であったため、かなりの得点差が生じるでしょう。1つひとつの知識を正確に押さえていた方は、かなり得点が伸びてきますが、曖昧な知識のまま受験された方は、いわゆる部分点が望めないため厳しい戦いになったと思われます。特に問1・問2で半分以上落とした方は、かなり厳しい結果になることを覚悟しておきましょう。
第二問も、多くの専門学校の予想通り「企業会計原則」から出題されました。ただし企業会計原則といっても、有形固定資産、かつ、総合償却というマニアックな論点であったため(法人税法を学習している受験生であれば容易だったとは思いますが)、ほとんどの専門学校で対策ができておらず、得点はそれほど伸びないと思います。合否は、この第二問に時間をかけすぎなかったかがポイントになるでしょう。
第三問は、1つひとつの資料の難易度はそれほど高くなかったのですが、問題量がかなり多かったため、捨てるべきところ(もしくは後回しにすべきところ。たとえば、CC銀行為替予約、丙社に対する貸付金、Y社株式、ストック・オプションなど)をしっかり見極められたかが合否を分けると思います。資料1つに費やす時間と得点につなげられる可能性を判断しながら解いた方、つまり満点狙いではなく、冷静沈着に合格点を狙いにいった受験生は、かなりの高得点になったはずです。
理論は「やや難」、計算は「並」
第一問の難易度は実はそれほど高くないと思いますが、得点につながったかは別問題です。
また、第二問の難易度も実はそこまで高くないのですが(講師の解説を聞けば1回で理解できるはず)、未学習だと当然得点できません。よって、理論については「やや難」レベルと判断します。
第三問は、いわゆる捨て論点以外は比較的平易な問題であったため、時間配分さえ間違えなければ、かなりの得点が望めそうです。よって、計算については「並」レベルとします。
予想ボーダーラインは「57~58点」
第一問は、「問1・問2でなるべく点を稼ぎ、問3は点がもらえればラッキー」ぐらいでよいと思います。よって、12~15点前後がボーダーラインになると予想します。
第二問は、企業会計原則から出題されたものの、受験生の対策が手薄な部分であり、得点は伸びないと思います。よって、問1の穴埋めで確実に得点し、その他は深追いせず5~8点がとれていれば十分ではないでしょうか。
第三問は、先に述べたように捨てるべきところを捨てたうえで、その他の基本論点の取りこぼしを防ぐことができたかが合否を分けるポイントになるでしょう。かなり問題量が多かったものの、計算に90分程度かけられた場合は、35~40点前後は得点できたと思います。
よって、得点調整等が行われないと仮定すると、全体として57~58点前後がボーダーラインになると予想します。
【科目選択別】9月からフレッシュスタートをきる受験生へのアドバイス
新しく税法科目に取り組む受験生
これは長年の講師経験からいえることですが、税法科目に取り組むと会計科目との勉強量の差に愕然とされると思います。そして、日々、税法理論の暗記に追われ、財務諸表論の復習をする時間がない、ということが現実となってきます。いくら講師が「財務諸表論の勉強も、ときどきしておいてよ!」とお願いしても、です。
ならば、いったん財務諸表論のことはきっぱり忘れて、新しい税法科目をしっかり学習してください。その際、比較的ボリュームの少ない税法科目、かつ、12月末までに全範囲の学習が終わるコースを選択しておくとよいと思います。
そうすれば、財務諸表論に合格していた場合、年内に学習していた税法科目については、そのまま年明け以降に受験経験者コースに合流し、さらに知識に磨きをかけることができます。
また、財務諸表論に不合格となったとしても、税法科目の一部分をつまみ食いしたわけではなく、年内に全範囲の学習を終えているので、税法のボリュームを把握でき、今後本格的に税法を学習する際、大きなアドバンテージになります。
再度、財務諸表論に挑戦する受験生
合格発表まで、今の実力を落とさないようにしましょう。そのために実行したいことを理論と計算に分けてお伝えします。
<理論>
月1回のペースで、財務諸表論(会計学)の基本書(たとえば、『エッセンシャル財務会計』(中央経済社)など)を通読してください。今までは「暗記!暗記!ひたすら暗記!」と前のめりになってしまい、「木を見て森を見ず」になっていた可能性があります。本試験までまだ余裕のあるタイミングで財務諸表論の全体を俯瞰しておくことはかなり効果的です。そうすることで、今まで点だった知識が線としてつながりはじめます。
そして、受験生から毎年のように質問されることとして、「暗記した理論を忘れない努力はしておいたほうがよいですか?」というものがあります。この質問に対する私の回答は「しなくていいよ」です。意外に思われるかもしれませんが、ちゃんとした理由があります。
というのも合格発表まで約4ヵ月ありますが、あえて記憶をメンテナンスしないことで丸暗記に頼っていた部分がそげ落ち、理解を伴っていた部分だけが残ります。万が一、合格発表で結果が思わしくなかった場合、仕切り直してリスタートをきるわけですが、そのときに丸暗記した部分を残しておくと、次も結局、丸暗記に頼った受験をしてしまうことになります。
そこで、あえて合格発表までの4ヵ月を「基本書の通読」という知識の連結に使うことで、合格発表後の理論の理解につなげてほしいと考えています。
<計算>
可能であれば、毎週1問は総合問題を解いてください。特に簿記論の受験が終わっている場合は、必ず実行してほしいです。
計算に関しては、仕訳を丸暗記している方はほとんどいないと思います。よって、理解したうえで解いているはずですが、生まれたときから慣れ親しんでいる日本語を使う理論とは異なり、普段の生活で計算の知識はまず使いません。そのため、合格発表までの約4ヵ月、計算にまったく手をつけないと確実に知識が抜けてしまいます。
また、本試験後は比較的心に余裕のある状態で問題に向き合えると思いますので、いろいろなことを試してください。
まず、解き方。インターネットなどで他の受験生の勉強方法を知る機会もあったと思います。たとえば、「計算用紙に仮計を作る or 作らない」、「最初から解く or 解けるところから解く」など。
次に、時間配分。基本的に問題集には標準的な解答時間が書かれていますが、「その時間を3分の2程度に短縮して解く」など。焦ると自分がやらかすミスが浮き彫りになります。
他には、「あえて騒がしい場所で解く」、「完全に真っ白な紙を解答用紙にする」など、本試験直前には試せなかったことを試して、自分にとって最善の勉強方法を見つけましょう。きっと、税法科目に取り組む際にも役に立つと思います。
さいごに
本試験、本当にお疲れさまでした。
特に悔しい気持ちで受験を終えた方は、捲土重来を期すため、すぐに勉強に戻られるかもしれませんが、少しは頭と身体を休めておかないと、長丁場の税理士試験は乗りきれません。
短い夏とはなりますが、受験生活に協力してくれたご家族や恋人、友人などと楽しい時間を過ごして、心身ともにリフレッシュし、フレッシュスタートをきりましょう!
<執筆者紹介>
諸角 崇順(もろずみ・たかのぶ)
大学3年生の9月から税理士試験の学習を始め、23歳で大手資格学校にて財務諸表論の講師として教壇に立つ。その後、法人税法の講師も兼任。大手資格学校に17年間勤めた後、関西から福岡県へ。さらに、佐賀県唐津市に移住してセミリタイア生活をしていたが、さまざまなご縁に恵まれ、2020年から税理士試験の教育現場に復帰。現在は、質問・採点・添削も基本的に24時間以内の対応を心がける資格学校を個人で運営している。
ホームページ:『かえるの財務諸表論』 (peraichi.com)