会計人コースWebを運営する中央経済社が刊行している『財務会計講義』。
これまでたくさんの方に読まれ、今年3月には第22版を重ねたベストセラーです。
今回は、そんな『財務会計講義』を税理士試験・財務諸表論の理論学習に使われていたという合格者のKさん(匿名)にお話を伺いました。
国税専門官として働きながら独学で簿記論・財務諸表論に挑戦し、2020年に同時一発合格を果たしたKさん。
どのように『財務会計講義』を勉強に活かしていたのでしょうか?
独学をされている方はもちろん、財務諸表論の受験生は必見です!
本試験4ヵ月前に財務諸表論をスタート
――はじめに、本書を読もうと思われたきっかけを教えてください。
Kさん 2020年1月に税理士試験の勉強を始めたのですが、日商簿記検定は1級を受験しておらず、当時は2級程度の知識と実務の知識しかなかったので、2020年3月までは簿記論だけを受験するつもりで勉強していました。
ただ、簿記論の勉強が落ち着いた頃にふと、この“簿記漬け”の生活を続けることが嫌になってしまったんです。
たとえ簿記論に合格しても、次は財務諸表論のためにまた1年勉強できるだろうかと考えたら、自信がありませんでした。
「簿記が楽しい」という方もいると思うのですが、私はそういったタイプではなかったので、それなら財務諸表論も同時に受験してしまおうと思い、4月から財務諸表論の勉強も始めたんです。
そこから、まずは財務諸表論の理論問題を過去5年分見てみました。
ただ、穴埋め式や選択式の問題は会計基準を勉強すればいいのかなと想像できたのですが、論述式の問題はどう対策すればいいのか、まったくイメージがつかなかったんです。
しかも、毎年違った論点が出題されているので、何をどう勉強するのか、本当に悩みどころでした。
とはいえ、少なくとも白紙答案だけは避けなければいけないと思っていたので、それなら財務会計の「骨組み」とか「土台」だけでも書けるようになろう、それで勝負するしかないと決めました。
そこで本屋に行ったところ見つけたのが『財務会計講義』です。
帯に「日本一読まれている財務会計のテキスト」とあるのを見て、「たくさんの人に読まれているなら、この本さえ押さえておけば母数に入れるかもしれない」と思い、すぐに購入しました。
1日1時間、『財務会計講義』を音読
――帯を見て本を手に取っていただけるのは、出版社としては嬉しいです! 『財務会計講義』はこれまでたくさんの方にお読みいただいているのですが、伝統的なテキストだからこそ読むのにハードルを感じるという方もいらっしゃいます。Kさんは、実際に読まれてみてどうでしたか?
Kさん たしかに、文章が少し堅いと感じる方もいるかもしれません。ただ、私のように独学をしている方にとっては、逆に読みやすいように思いました。
というのも、最初にテキストを選んだとき、専門学校で使われているテキストを偶然見る機会があったんです。
たしかにやさしく説明されていると思ったのですが、講師の方の説明があってこそ理解できるものだとも感じました。
その点、『財務会計講義』は、解説が簡略化されていたり、文章がくだけたりしていることがなかったので、「この文章さえ読めば理解できるんだ」という安心感がありました。
また、ハードカバーで一見分厚いのですが、実際には単元ごとにその全体像がコンパクトにまとめられています。
私は1日1時間、『財務会計講義』を音読していたのですが、1週間もあれば全ページを読むことができました。
この一気に財務会計の世界に触れられる感じが、4月に勉強を始めた私にとっては、すごくよかったです。
――「一気に財務会計の世界に触れる」、いいですね。Kさんは、財務諸表論の理論学習では、全体像をつかむことを重視されていたのでしょうか?
Kさん そうですね。一言一句「てにをは」まで暗記する方もいると思うのですが、私はそういった記憶力や気合い、時間がそもそもなくて……。
どちらかというと、全体の骨組みや土台だけを理解して、あとは本質から外れない範囲で自分なりの意見を答えるようにしようと考えていました。
会計基準を読むときも、「なぜそうなるのか」というロジックを理解することを重視していました。
財務諸表論の理論はコアを重視
――自分なりの意見で解答しようとする場合、出題者の意図を汲み取ることがかなり大事になってくると思います。Kさんは、普段からそういった訓練をされていたのでしょうか?
Kさん 「訓練」というほどではないのですが、そこは学習当初に意識した点ではありました。
というのも最初の頃、過去問や専門学校の解説を見ているうちに、「この問題にはこのキーワードを入れて解答すればいいのかな」と、コアとなる部分があることに気づいたんです。
そこから、その〝コアとなるキーワード〟だけは絶対に外さないようにしようと考えるようになりました。
そのため、はなから「完璧な文章を書こう!」という気持ちはなかったんですよ。
――なるほど。いい意味で力を抜いた状態で勉強ができていたのかもしれないですね。
Kさん そうですね。キーワードだけでも入れれば部分点がとれるというのは、安心感もありました。
個人的には、簿記論・財務諸表論の学習で、あれもこれもと「完璧」を求めるのはリスクがあると感じています。
私の場合、もともと最小限の時間でしか勉強できなかったので、学習範囲も限定せざるをえなかったのですが、だからこそ、いわゆる「捨て問」といわれるような部分にまで時間をかけることなく、効率的に重要な論点だけを押さえることができました。
自分でいうのもなんですが、勉強する論点の取捨選択はすごく上手だったと思います(笑)。
――そうなのですね! 論点はどのように選別されていたのでしょうか?
Kさん 驚かれてしまうかもしれないのですが、自分の中でAランク~Cランクを決めていました。自分がよく勉強していた論点(使用教材に収録されている問題)はA、あまり勉強していない論点はB・Cです。
使う教材も厳選しており、勉強する時間も限られていたので、自分が回していた論点だけをAとしていました。もはや、ある種の割り切りですよね。
他にも、直前予想問題などで「ココが出る!」といわれている論点もAランクとしました。ヤマが当たるかどうかは別にして、最後は神様にすがるしかないという気持ちもありました(笑)。
【メインの使用教材】
簿記論・財務諸表論(計算) ・簿記論 総合計算問題集 応用編(TAC) ・簿記論 個別問題の解き方(TAC) ・財務諸表論 総合計算問題集 応用編(TAC) 財務諸表論(理論) ・財務会計講義 ・重要会計基準(TAC) |
【導入期の使用教材】(1~2回解いて終わり)
・みんなが欲しかった! 税理士 簿記論の教科書&問題集 全4冊(TAC) ・簿記論 総合問題の解き方(TAC) ・財務諸表論 総合問題の解き方(TAC) ・過去問 |
【直前期の使用教材】
・ラストスパート模試(ネットスクール) ・公開模試(TAC、大原) ・直前予想問題集(会計人コースBOOKS) ・会計人コース2020年7月臨時増刊号 ・会計人コース2020年6月号付録 |
『財務会計講義』、どう読んだ?
――『財務会計講義』はどのようなスピードで読まれていたのでしょうか?
Kさん 1週間で1周できていたので、そんなに遅いわけではなかったと思いますが、ゆっくり読んでいました。
1文1文をかみしめるイメージです。
理解しているかどうか、常に自分に問いかけるように音読していました。
――特にこだわることなく、1からまんべんなく読まれていましたか?
Kさん そうですね。特定の単元だけを多く読むということはなかったです。
ただ、「収益」に関するものとか、さまざまな論点に横断的にかかるような単元は、先ほど話した〝かみしめ度〟がより違っていたように思います。
――最終的には何回読まれたのでしょうか?
Kさん 3~4回ほどです。財務諸表論の勉強を始めた4月は、まるまる『財務会計講義』を読むことに充てました。
5月以降はTACの『重要会計基準』を読んでいたのですが、各会計基準を深掘りしていくと、どうしてもわからない部分が出てきます。
そんなときは『財務会計講義』で該当する部分を見返していました。
常に勉強机の片隅に置いておいて、辞書のように使っていましたね。
――読んでいてわからない部分があれば、どうされていましたか?
Kさん そのまま読みつづけました。
たしかに読みはじめて1~2回目だと、よくわからない、しっくりこない部分もありました。
ただ私は、一度で理解できるほど財務会計の世界は浅くないと思っています。
そのため、わからなくても過度に落ち込まずに読みすすめようと考えていました。
実際はそれで問題なく、たとえば『重要会計基準』を読んでいるときに、「『財務会計講義』で言っていたのはこういうことだったんだ!」と気づくことが何度もありました。
最初から「完璧」を求めず、立ち止まることなく読むことで、徐々に理解が深まっていくと思います。
――『財務会計講義』を読んだ効果はどうでしたか?
Kさん 意外なことに、最初は「計算」に効果が出ました。
計算は4月までに一通りの学習を終えていたので、その後は問題集を回していたのですが、意識しないと解き方を忘れてしまう論点が出てくるんですね。
私は特に「分配可能額」が苦手で、頻繁に総合問題で見る論点ではないので、解くたびに忘れていました。
そんなときに『財務会計講義』を読んだら、分配可能額の算定方法が論理的に解説されていたんです。しかも図表入りです!
それがすごく頭に残って、その後は数ヵ月ぶりに問題を解いても正答できるようになりました。
もともと私は、計算でも「なぜこの仕訳になるのだろう?」と意味を考えることを大事にしていました。
『財務会計講義』では、そういった計算の意味も論理的に解説されているので、その点も私の学習スタンスに合っていたのかなと思います。
――計算と理論で相乗効果があったのですね。
Kさん そうですね。ただ、計算を先行で学習していたので、抜けている部分を理論で補強していったというイメージです。
4月以降、計算がさらに伸びたのですが、これは『財務会計講義』で理論を押さえたからだと思っています。
『財務会計講義』×他の教材で、さらに理解を深める
――4月から『財務会計講義』を読まれていたKさんですが、もう少し早い段階で本書を手に取っていたとしたら、どのように使っていたと思いますか?
Kさん おそらく「音読する」という方法や「全体像を理解する」というスタンスは変えません。
ただ、もっと時間があったのなら、『財務会計講義』をメインテキストとして読みながら、つどつど関連する会計基準を読んでいたと思います。
実際は、4月は『財務会計講義』、5月以降は『重要会計基準』を読むのに精一杯だったので、『重要会計基準』でピックアップされた会計基準しか深掘りできませんでした。
あまり勉強していなかった会計基準もあるので、今思うと、それが出題されていたら合格できていただろうかという怖さもあります。
そのため、『財務会計講義』でアウトラインをつかみ、『重要会計基準』を読み、これは使っていなかったのですが『会計法規集』で掘り下げていく、というような〝タテに深い勉強〟をしたかったですね。
また、これは単純にイメージなのですが、計算と理論も分断するのではなく、最初から並行して学習すると、どちらも理解や定着が早まるように思います。
そのため、『財務会計講義』を読みながら、計算問題集も解いていたかもしれません。
独学受験生へのメッセージ
――最後に、Kさんと同じように独学で簿記論・財務諸表論に挑戦される方にメッセージをお願いいたします。
Kさん 私のやり方は、「限られた期間でベストを尽くすには」と考えた末のスタイルだったので、必ずしもおすすめできる方法ではないかもしれません。
ただ、私のように働きながら勉強していて、「自分の時間はスキマ時間だけ」という方もいると思います。
私も残業が多く、しかも財務諸表論は試験4ヵ月前に勉強を始めたので、不安もある受験生活でした。
しかし、そんな私でも合格することができ、嬉しかったと同時に、「簿記論・財務諸表論は、勉強できる時間が限られていても、独学でも挑戦できる試験なんだ」と思いました。
これが、いま独学で勉強されている方に一番伝えたいことです。
独学に対してはネガティブな意見などもあるかもしれないですが、SNSなどを見ると、独学されている方も増えているように思います。
本試験まで時間もあります。ぜひ自分に合った学習スタイルを見つけ、自信をもって勉強を進めていってほしいです。頑張ってください!
――励みになるメッセージですね! 貴重なお話、ありがとうございました!
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著者:桜井 久勝
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発行日:2024/03/22
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