渡邉 圭
(千葉商科大学基盤教育機構准教授)
日商簿記2級や1級を取得している方、これから取得しようとしている方のなかには、税理士試験を検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
日商簿記から税理士試験を目指す場合、まず気になるのが「どのタイミングでどの科目から勉強をスタートするか」ということだと思います。
合格者に伺うと、「5月から簿記論・財務諸表論を同時に」「9月から財務諸表論だけ」「1月から簿記論だけ」、と実にさまざまです。これは、その人自身の生活状況、確保できる学習時間、日商簿記検定の習得レベルなどが、それぞれ違うからでしょう。
また、税理士試験では、学習方法やメンタル対策なども、日商簿記検定と比べてより精度の高いものが求められます。
そこで、日商簿記2級や1級から税理士試験を目指す方に向け、全4回にわたって「受験の心得」をご紹介します。
日商簿記から税理士へ
第1回 いつ、何から学習するか計画すべし!
第2回 計算は、己を知ってケアレスミス対策すべし!(4月21日公開予定)
第3回 理論は、暗記より理解を優先すべし!(4月22日公開予定)
第4回 ポジティブな心でプラスに成長すべし!(4月23日公開予定)
簿・財は同時? 片方ずつ?
税理士試験科目のうち、日商簿記検定の知識・技術を活かせるのは、「簿記論」と「財務諸表論」です。
そして、はじめて税理士試験を受験しようとする場合、両方を受験すべきか、片方ずつ受験すべきか、と悩む方は多いようです。
学習の流れは、どちらも「個別問題→総合問題(基礎)→総合問題(応用)→予想問題集→過去問→模試」とステップアップしていくかたちですが、同時受験と1科目受験は、どう違うのでしょうか。
ここでは、それぞれのメリット・デメリットを見ていきましょう。
簿・財を同時受験する場合
計算問題の試験範囲に重複する論点があり、効率よく学習できます。また、財務諸表論で財務会計理論を学ぶため、理論的な背景を踏まえて計算問題を学習することができます。
一方で、学習量が1科目受験と比べて多いので、それに対応する学習時間の確保が必要です。
また、税理士試験では、日商簿記1級の出題範囲である原価計算は学習しませんが、商業簿記・会計学と工業簿記(一部)の試験範囲は学習します。理論も文章で解答できるように仕上げていく必要があります。
1科目ずつ受験する場合
簿・財同時受験に比べて学習量が減るため、会社員、アルバイト、家庭の事情などで学習時間の確保が難しい方、スキルアップとして試しに1科目だけ受験してみたい方にオススメです。
私が教えている千葉商科大学 会計教育研究所「瑞穂会」*には、日商簿記1級取得後にスキルアップのため簿記論のみ受験したいという学生もいます。
しかし、簿記論・財務諸表論にそれぞれ一発合格しても、最短でも2年はかかるため、長期的な学習計画を検討する必要があります。
簿記論は計算が得意な方、財務諸表論は決算整理事項と財務諸表の構造など、理論的に学習を進めたい方にオススメです。テキストなどを参考に、科目を選択していきましょう。
* 会計教育研究の実践の場として「瑞穂会」が設立され、千葉商科大学の学生であれば日商簿記検定3級講座から1級講座、税理士試験講座(簿記論・財務諸表論)を受講料無料で受講することができます。
【タイプ別】学習スケジュール
それでは、概略的ではありますが、学習スケジュールの一例を参考までにご紹介します(目標は2022年の税理士試験です)。
タイプ① 日商簿記2級取得→簿・財同時受験
日商簿記検定のネット試験は随時受験できます。2021年6月13日(日)実施予定の統一試験かネット試験で、7月頃までに2級に合格することを目標にしましょう。
そして、目標とする2022年度税理士試験の1年前である今年の8月から簿・財の個別問題をスタートします。また、財務諸表論の理論学習は長期的に行うため、これも同時にスタートします。
タイプ② 日商簿記2級取得→1科目受験(簿記論のケース)
こちらも、2021年6月13日(日)実施予定の統一試験かネット試験(随時受験可能)で、10月半ばまでに2級に合格することを目標にしましょう。
そして、10月半ばから個別問題をスタートします。
タイプ③ 日商簿記検定1級取得→簿・財同時受験
昨年から1級の学習をしていることが前提です。まだ1級を取得していない方は、2021年6月13日(日)実施予定の試験での合格を目指しましょう。なお、1級はネット試験がないので要注意です。
その後は、8月までは「自主トレ期間」として、気分転換や1級の復習にあてても問題ありません。
そして、目標とする2022年度税理士試験の1年前である今年の8月から簿・財の個別問題をスタートします。また、財務諸表論の理論学習は長期的に行うため、これも同時にスタートします。
タイプ④ 日商簿記1級取得→1科目受験(簿記論のケース)
2021年6月13日(日)実施予定の試験か11月21日(日)実施予定の試験で、11月半ばまでに1級に合格することを目標にしましょう。
そして、11月半ばから個別問題をスタートします。
①~④のいずれのスケジュールにおいても、専門学校が毎年6月に実施している公開模試には、時間があったら参加しましょう! また、過去問に入る前に振り返り学習をしたい方は、ヨコ解き問題集を利用すると効果的です。
次回は、「計算は、己を知ってケアレスミス対策すべし!」と題して、計算の学習方法をご紹介します。それでは、またお会いしましょう!!