
【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。
YouTubeやSNSでも発信する2代目
はじめまして。徳島でSSK税理士法人を営む、税理士の佐々木梨絵と申します。
「税理士りえ」としてYouTubeやSNSでも発信をしています。
私は、父も税理士という、いわゆる「2代目」です。とはいえ、最初から後を継ぐつもりだったわけではなく、むしろ税理士になる気などまったくありませんでした。
そんな私が独立開業(正確には、父との共同設立)に至るまでの道のりを、受験生のみなさんの背中を少しでも押せたらという思いで書いてみます。

税理士になる気は、まったくなかった
子どもの頃の父は、まだ税理士試験の受験生でした。だから私が覚えている父は、机に向かって勉強している後ろ姿です。「税理士試験って、大変そうやな」という印象だけが、子ども心に強く残っていました。実際、父は資格を取得するまでに10年かかっています。
そんな背中を見て育ったからか、私自身は税理士を志すことなく、大学卒業後は銀行に就職しました。数字を扱う仕事ではありましたが、税理士という選択肢は、正直、頭にありませんでした。
転機になったのは、子どもが生まれたことです。わが子の顔を見ながら、これから自分はどう働いていくのだろうと、改めて将来を考えるようになりました。そのとき、ふと、あの父の後ろ姿が思い浮かんだのです。
「税理士を目指してみようか」
一度は遠ざけたはずの道に、今度は自分から戻っていく決心をした瞬間でした。
記憶のない2年間
実は、簿記論と財務諸表論は、比較的時間のあった大学生のうちに取得していたので税法のみの受験でした。ただ、父が資格取得に10年かかったことを間近で見ていた私は、「働きながら税法3科目を……」という選択は、子育てと仕事をしている自分には現実的ではないと判断しました。そこで選んだのが、大学院で修士論文を書いて税法2科目の免除を受けるルートです。大学院への入学と同時に、残る国税徴収法の勉強も始めました。
当時、私の手元には1歳の子どもがいました。会計事務所でフルタイムで働き、大学院に通い、国税徴収法を勉強し、修士論文を書く——正直に言うと、この2年間の記憶がほとんどありません。それくらい、目の前のことをこなすだけで精一杯の毎日でした。
それでも折れずに続けられたのは、大学院の同級生たちの存在が大きかったです。それぞれに事情を抱えながら机に向かう仲間との交流は、孤独になりがちな受験生活の、何よりの支えでした。ひとりではとても走りきれなかったと思います。
「実質、父の事務所へ」——2代目の開業準備
2024年、私は地元・徳島に戻り、父とともにSSK税理士法人を設立しました。
「独立開業」というと、事務所を借りて、机や什器をそろえて……という大がかりな準備を想像されるかもしれません。でも私の場合は、実質的に父の事務所へ合流する形だったので、新しく用意したものといえば、自分のパソコンくらい。開業コストという点では、とても恵まれたスタートでした。これも、2代目の正直なところです。
「SSK」という名前は、実はある冗談から生まれました。以前、父と「もし税理士法人にするなら、SASAKIの頭文字でSSKがいいね!」と笑いながら話していたことがあり、いざ設立となったときに、そのまま採用したのです。
そして開業と同時に始めたのが、YouTubeやSNSでの発信でした。徳島では、まだ情報発信に力を入れている税理士が少なかったこともあり、税理士の会合では「YouTube見たよ」とお声がけいただくことも増えました。地方だからこそ、発信は思った以上に効く。これは、開業して得たうれしい発見のひとつです。

2代目の壁は、「摩擦」ではなく「IT」だった
2代目というと、「先代とのやり方の違い」や「顧客から比較される目」といった摩擦を想像されるかもしれません。ありがたいことに、私の場合、そうした大きな衝突はほとんどありませんでした。
ただ、ひとつだけ、はっきりとした「壁」がありました。ITです。父はIT関係がまったくと言っていいほど苦手で、事務所の環境は、正直かなりアナログなままでした。そこで私の出番です。クラウド会計やデジタルツールを少しずつ導入し、私が加わってから、事務所のIT環境はかなり改善したと思います。
「2代目=しがらみ」というイメージとは逆に、2代目だからこそ持ち込める新しさもある。世代が違うということは、弱みではなく、役割分担の強みになり得るのだと感じています。
スタッフ4名とAIで、仕事の中身が変わってきた
現在は、4名のスタッフに記帳やその他の事務を担ってもらいながら、事務所を運営しています。
そして今年に入って大きく変わったのが、AIの活用です。記帳はもちろん、ホームページの作成や執筆関係まで、AIを使うことでずいぶん楽になりました。……と言いたいところですが、正直に告白すると、「できること」が一気に増えた分、本当に時間が短縮されて楽になっているのかは、実はまだよくわかりません(笑)。ここは、みなさんに正直にお伝えしておきたいところです。
ただ、確実に変わったこともあります。それは、お客様との時間を、以前よりずっと大切にするようになったことです。会計や記帳といった「作業」は、これからどんどんAIができるようになっていきます。でも、経営者の悩みに寄り添い、背中を押す「心」の部分は、いまのところAIにはありません。だからこそ私は、コンサルやコーチングをメインにした税務顧問を、これから増やしていきたいと考えています。AIの登場は、私にとって、税理士という仕事の本質を問い直すきっかけになりました。
これから資格を目指す、あなたへ
税理士試験は、本当に大変です。記憶をなくすほど必死になった2年間のことを、私は今でもよく覚えています(記憶はないのに、大変だったことだけは覚えているのです)。
でも、これだけは断言できます。試験に合格したあとには、本当にいろいろな可能性が広がります。独立して自分の事務所を持つこともできれば、私のように発信して人とつながることも、AIを味方につけて新しい働き方をつくることもできます。
そして税理士は、AIがこれだけ進化しても、まだ簡単には取って代わられない仕事です。数字の向こうにいる「人」と向き合う仕事だからです。
どうか、あきらめないでください。あなたの努力の先には、想像以上に広い景色が待っています。心から応援しています。
【プロフィール】
佐々木 梨絵(ささき りえ)
税理士・SSK税理士法人 代表社員
徳島県徳島市出身。信託銀行に勤めたのち、東京・大阪の税理士法人で、相続税申告、相続対策コンサルティング、事業承継案件に従事。2024年、地元・徳島でSSK税理士法人を設立し、代表税理士に就任。資産規模の大きな個人や上場企業オーナーの案件から、小規模案件、国際相続案件まで、相続税申告の経験が豊富。金融機関でのセミナー講師やコラム執筆も手がける。「税理士りえ」としてYouTube(@ssk02010)やnoteでも情報発信中。
▶SSK税理士法人 HP










