
じゅんし
【編集部より】
公認会計士試験の受験生には毎年、社会人の方が一定数います。また、実際に公認会計士として活躍されている方の中にも前職が経理だった方や異業種からの転職という方もいらっしゃいます。前職の経験がどう活かされているのか、どのように見える景色が変わったのか。今回は、一般事業会社の経理出身であるじゅんしさんに前編・後編に分けて教えて頂きました!
働きながら公認会計士を目指している方、検討している方の中には、経理として働いている方も多いと思います。
私は事業会社で経理として働きながら公認会計士試験の勉強を始め、専念期間を経て合格し、監査法人で監査業務に従事しています。この記事では、経理と監査の両方を経験して見えたこと、そして働きながら会計士を目指すのはどういうことなのか、その先には何があるのかということを、前・後編に分けて書いていきます。
前編は、経理時代に見えていた会計士像と、実際に監査側に移って見えた両者の違いについてです。
公認会計士を意識するまで
私と簿記との出会いは、新卒で入った会社でたまたま経理に配属されたことでした。商学や経済系の学部を出たわけでもなく、「簿記」というものの存在自体は知っていましたが何をやるものなのか全くイメージもついていない状態でした。配属初日にOJT担当の先輩から「借方貸方ってわかる?」と聞かれフリーズしたのを今でも覚えています。右も左もわからないとはまさにこのことですね。
必要な知識がまったくないことを痛感し、配属初日の帰りに簿記3級のテキストを買いました。簿記の勉強は実務に直結していたこともあり非常に面白く、「ひょっとして経理や会計は自分に向いているのではないか」と感じたことが、公認会計士という資格を意識する最初のきっかけでした。
当時は公認会計士試験がどういった内容なのかわかっていませんでしたし、そもそも公認会計士が何をする仕事なのかもよくわかっていませんでした。
経理視点での会計士
経理として働く中で、監査法人の会計士と接する機会はそう多くありません。
普段は経理部内の人や他部の人たちとのコミュニケーションが圧倒的に多く、経理のスタッフレベルで監査法人とのコミュニケーションを取るのは資料依頼のやり取りや、年に数回のヒアリングのときくらいです。経理の人たちの中での監査法人の会計士の認識は、(課長、部長レベルになるとまた違うと思いますが)「資料を依頼してきて時々何か言ってくる人」くらいのものだと思います。
ただ、それでも監査法人の会計士の判断や言葉というのは非常に重く、何かしらの判断がなされたら部長クラスまで共有し、対応していました。ここでいう「会計士」というのは、修了考査に通った登録済みの公認会計士なのか、準会員のスタッフなのかは関係ありません。それだけ監査法人からの言葉は重いものという認識がありました。
資料を提出するものの基本的にフィードバックはないので、経理側からは何を見られているのかわかりません。私は監査論を勉強しながら働いていましたが、それでも実際に提出した資料のどこをどう見られているのかはほとんどわかりませんでした。結果的にこれが「何を見られているかわからない」という経理側の緊張感につながっていた感覚は確かにあり、それだけでも会計監査人の存在価値は一定あると思います。
一方で、経理内にも会計士は何人かおり、この方々と話す機会は多くありました。当時の私の会計士像は、監査法人の会計士よりもむしろ組織内会計士の方々に作られたと思います。
経理の仕事は、突き詰めると会社中の全部門の取引や事象が正しい会計処理に落とし込まれているか確認し、数字としてまとめていくことです。他にも予算を取りまとめたり予算と実績の差異分析をして経営に届けたり、といった仕事もありますが、いずれにしても経理の仕事は基本的には「①会社の各部門の担当者とコミュニケーションを取って情報を集める」、「②会計処理を行う、あるいは行ってもらう」の二つに集約されます。
特にプロパーと呼ばれる会社生え抜きの人材は、このうち①に強みがあります。会社のことはよく知っていますし、知り合いが様々な部署にいることも多いので情報を取りやすいのです。一方で、②の根幹となる会計知識の面では人によりかなりのばらつきがあります。会社の処理に深く精通している人であっても例外的な事象については対応が難しいことも多くあります。この点強いのが中途採用の人材であり、特に会計士は試験や実務を通して様々なケースに対応した経験があるため、かなり頼りにされていました。
当時新卒~社会人2、3年目程度だった私にとって、彼らは会計・税務の知識が豊富なのはもちろん、仕事の進め方や情報の整理の仕方、キャリアの考え方などがプロパーの方々とは異なっており、それが新鮮でした。もちろんプロパーの人のほうが劣っているということではなく、自分がプロパー側であったことや、当時は経理実務の経験も少なく会計の知識もひよっ子レベルだったことから、「なにかを専門にすること」の強さを特に感じたのだと思います。
監査法人から見た経理
さて、監査法人に入って監査の仕事をしてみると、同じ会計にかかわる仕事であっても経理と監査の仕事は大きく異なることに気づきます。経理の仕事が個々の取引から数字を積み上げていくものなのに対し、監査は積み上がった数字をもとに取引や事象を紐解いていく営みですので、方向性が正反対ですし、求められる思考もかなり異なるのです。経理の経験が監査業務でも役に立つことは往々にしてありますが、一方でその経験が邪魔になると感じることもあります。
先述のように、経理時代には「監査法人が何をしているのかよく見えない」と感じていましたが、逆の立場に立ってみると、監査法人からも経理の仕事全体は思いのほか見えていませんでした。経理の役割は決算を締めることのほかに予算管理、税務周りの処理、それにかかわる部門間の調整等様々ですが、監査法人側からは決算以外の部分の業務が非常に見えにくいのです。
一方で、監査法人側でも経理にいろいろな仕事があるということはなんとなくわかっており、経理時代に想像していた以上に資料依頼の内容や時期に配慮している人は多かったです。それでも無茶な依頼が多くなってしまうのは、そもそもの決算・監査の日程自体に無理があるということなのでしょう。
また、経理時代の私は「なんだかんだいっても普通に監査対応をしていれば監査意見が出ないなんてことはありえないだろう」と思っていました。ところが監査法人で働いてみると、必要な資料がなかなかそろわず、最後の最後まで監査意見を出せるのかどうかヒヤヒヤする、ということはよくあります。決算発表をつつがなく行う、ということの大変さが身をもってわかったのは、むしろ監査法人側の立場になってからでした(私は経理時代、最終的な開示には直接かかわっておらず一担当者にすぎなかったから、という側面はありますが、一方で監査法人では一スタッフであってもこのプレッシャーをかなり感じていました)。
他にも、様々な会社の様子を見ることができたり、複雑な会計論点を経験できたりすることは間違いなく強みになります。「こういう会社もあるのか」「こういう考え方もあるのか」という経験は、仕事だけでなく自分の世界自体が広がったような感覚があります。
また、監査法人は国内でも会計ナレッジが最も蓄積されている場所の一つだというのは強く感じます。所属しているだけで一定レベルの知識は保つことができ、最新情報もアップデートされていきます(というかアップデートせざるを得ない環境であるということですが)。
というわけで、経理から監査法人に転職するということは、同じ会計専門職でありながら仕事の内容・思考ともにかなり変えるような転職でした。
*
後編では、その世界に入るまでの、社会人から会計士合格を目指すのはどういうことなのか? 多大な労力を費やしてまで目指す価値があるものなのか?ということに触れていきます。
後編へつづく(明日公開予定)
【執筆者紹介】
じゅんし
公認会計士
大手監査法人勤務。新卒で一般事業会社に入社し経理部門に配属され、公認会計士試験の学習をはじめる。専念期間を経て令和4年度公認会計士試験に合格し、実務補習所を短縮して令和5年度修了考査を受験・合格。
・X(旧twitter)(@junshi_networth)
・note(https://note.com/junshi_networth)
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